187 パパ大好き
残った問題の魔力伝達が、どのくらいの距離可能かと言う実験だ。裕介が面白いことを言い出した。
「リーズに手伝ってもらおう」
「リーズにですか?」
「俺が片方のダイヤを持って、船で沖に出て魔力を送る。セフィアはもう片方のダイヤを付けた、このライトが光るかどうか確認してくれ」
「はい、それでリーズは?」
「光ったら、『パパ大好き』と念話を送らせてみてくれないか。『パパ』は、しょっちゅう言うから光ったかどうか分からないからね。ちゃんと大好きまで言わせてよ」
「出来ますかね?」
「出来なければ、何回光ったかだけを数えてくれていればいいよ」
最近リーズは、大好きと言う言葉を覚えたようだが、裕介はまだ、パパとセットになったのを聞いていない。まだリーズの中では、組み合わせて使うと認識されていないのかも知れない。裕介は、単純に娘にそう言って欲しいのだ。
裕介は、先ずは島から一キロ地点で魔力を送った。家にいるセフィアとリーズの側のライトが点灯する。
「リーズ、『パパ大好き』と言ってあげて下さい」
「パパ… パパ…」
「大好きですよ」
「だー、しゅき」
「パパ大好きです」
「パパ、だーしゅき」
「キター!!!」
裕介は船の上で、天を仰いでガッツポーズをしていた。
セフィアの側のライトが高速点滅する。
次に二キロ地点。
「パパ、だーしゅき」
更に五キロ地点。
「パパ、だぃしゅき」
八キロ地点。
「パパ、だいしゅき」
十キロ地点。
「パパだいしゅき」
結局、二十キロ地点まではダイヤは魔力が飛ばせることが分かった。それから後は、魔力の送信と関係なく「パパだいしゅき」が聞こえるようになった。
「リーズ、ただいまぁ〜」
「パパだいしゅき」
「パパもリーズが大好きだぞ〜」
もはや、テストはどうでもいいとさえ思えたが、とりあえず二十キロは確認出来たので、次はこれをどうやって伸ばすかだ。スレブに発電所を作るのなら百キロは飛ばしたいところだ。
ダイヤの粒を大きくすれば、飛距離が伸びるのかと言う実験だ。裕介はもう錬成魔法でダイヤも作ることが出来る。先ずは石を粘土にして、バレーボール大の大きな球を作ったが、球とか単純な形だと偶然に他に転送される可能性がある、かと言って複雑すぎると複製が難しくなる。
単純であまり世の中に無いもの。そうだ、メビウスの輪にしよう。
五十センチくらいの厚肉のメビウスの輪のモニュメントを作る。空間魔法で型取りして複製、そして二つをダイヤに変える。
「不思議な形ですね」
「メビウスの輪と言うんだ」
そう言いながら、裕介は紙で同じものを作る。
「見ててよ、こうやって表面をなぞって行くと、いつの間にか裏側になっていて、そのままなぞるとまた元の位置に戻ってくるんだ」
「不思議ですねぇ」
「そうだから、裏表も無い無限や永遠の象徴とされる形なんだ。半永久の魔力発電所にぴったりだろ?」
「はい!」
「この大きさで百キロ飛べば、これで完成だ」
大きくすれば、魔力の飛距離が伸びるのかどうかは知らないが、まっ、実験してみれば分かる。
「明日カダラ灯台の研究所から、魔力を送ってみるよ。またリーズにお手伝いしてもらおう」
裕介は、水先案内列車と緊急停止装置の試作品とメビウスの輪を持って、翌日カダラ灯台の試験路線研究所に行った。家からだとほぼ百キロだ。
「ユースケさん、大変だったらしいですね」
「うん、えらいものが出て来ちゃったよ、お陰で路線も勾配をつける事になっちゃった」
とりあえず、魔力伝達の実験だ。裕介はメビウスの輪を、アイテムボックスから出してテーブルの上に置き魔力を込める。
「パパだいしゅき」
「キター! いや行ったぁ!」
これで百キロ実験は完了だ。魔力伝達装置は完成した。
「何ですか? それ?」
「魔力伝達装置だ。百キロ飛ぶ」
「百キロって、千ペクト? マジで?」
「うん、これだけ飛ばせなきゃ魔力発電所が出来ないんだよ」
「相変わらず、凄いこと思いつきますね。日本人ってみんなそうなんですか?」
「どうだろう? でも、便利な物を沢山知ってるし、沢山作っているのは確かだよ」
「それより、今日きたのはこっちの用だ。懸案だった安全対策だ」
「おっ、期待していいですか?」
「もちろん。実際の路線でテストしてくれ」
「待ってました!」
レア君もニヤニヤ笑いながら寄って来る。アルバスで雇った工員達も集まって来た。
「魔力電池の実用化の目処が立ったからな、中央山脈横断鉄道ベイグルスレブ線は、すべて魔力電池で走らせる」
「運転士の魔力は必要ないんですか?」
「そういう事だ、魔力電池一つで運転士十日分の魔力が使える、しかも魔力も俺並みに強い」
「かぁ! そんな便利な物が出来るんですか?!」
「安全対策だけど、その魔力を使って運行する列車の三ペクト前を、無人の水先案内列車を走らせるんだ。コイツが脱線したり衝突したりすれば、自動緊急停止させる」
「なるほど! それだとほぼ百パーセント安全ですね」
「そうだろ? 三ペクトの間、ほぼ時間にして二十秒の間に物が落ちて来るのなら、それは崩落が列車を直撃した事になり、いくらなんでも不可抗力だ」
「二十秒ですか… そりゃぁよっぽど運の無い奴ですね」
「だからこの研究所では、緊急停止を確実にするテストを行なって、この二十秒以外の事故は無い様に煮詰めて欲しい」
「了解です! やっぱりユースケさんと仕事するのは楽しいですねぇ〜」