183 帰宅
「ミケネス教授、頼まれたあの一帯に生えていた植物だよ」
スレブまで戻ると、グィネヴィアがキノコやシダなど地中空間に生えていた植物を、亜空間収納から取り出してミケネスに渡した。
「ありがたいにゃ」
「じゃ、俺が他の採集物と一緒にアイテムボックスで持っていきましょう」
「この龍石はどうするんだ?」
「実験に使いたいので、持って帰りたいんですが、貴重なものらしいので、みなさんも一つづつ持って帰ってください」
「良いのか?」
「フリーマン教授は、せっかく参加していただいたのに、考古学的な成果は無かったですしね」
「そんなことはないですぞ。龍の墓場という伝説の遺物も見ることが出来ましたし、多数の魔法陣を経験出来ました。セフィア様との面会のお約束も頂けましたから、十分でございますぞ」
「そんなにセフィアに会うのを楽しみにして頂いているのですか? では、四人で一緒に戻りますか?」
「よろしいのですか?」
「親方。工事もやり直し部分もあるし、しばらく休みにしても、いいですよね」
「そうじゃな、ルート変更や、発電所のことやら、龍の墓場をどうするか一度整理して、先に決めてから再開した方が良いだろう。夏至の祭りまでは、このまま休みにするか。わしも、工夫達を連れて一度モスカまで戻る。ここじゃぁ、酒も大ぴらに飲めねぇからな」
「俺も娘の一歳の誕生日も帰れてやっていないんで、助かります」
「じゃぁ、あたしもペルテ島について行っていいかにゃ」
「いいですよ。魚もご馳走しますよ。ゲストハウスはありますから、お二人とも好きなだけ滞在してください」
こうして、探検隊はミルトと別れてペルテ島に戻ることになった。
トンネル内では聞こえないが、スレブに戻るとリーズの念話が届いてくるのだ。もうちゃんと『パパ』と言えるようになった。裕介はまだ一人歩きをするリーズを見ていないのだ。
-------------
上空からミセスセフィアで見ると、家の前でセフィアとリーズが立って迎えてくれている。リーズは靴を履いて、ママと手を繋いでちゃんと立っている。
「ただいま~」
「パパ~! パパ~!」
裕介は、船から下りると真っ先にリーズを抱いた。
「リーズ、重くなったなぁ~。セフィアただいま」
「おかえりなさい、お疲れ様でした」
裕介とセフィアは、軽くキスを交わす。セフィアの母が、玄関でにこやかに笑っている。エスパールが帰った後も、工事が完了したら鉄道で帰ると工事で家を空ける裕介の代わりに残ってくれたのだ。付き人のステファニーも一緒に残っている。
「お義母さん、すみませんでした」
「いいえ、工事をお願いして無理を言ったのは、うちの人のほうですから。裕介さん、本当にご苦労様でした」
「そうだ、セフィアに会いたいという方が来られていてね。アルバス王立大学の考古学者のフリーマン教授と、スレブメスカリ教大学の生物学者のミケネス教授だ」
「初めまして、魔法陣鑑定士としてご高名な、セフィア・エスパール様とお聞きして是非お会いしたいとご無理をお願いいたしました」
「あらあら、こちらこそ。教授がお書きになった『ネプル遺跡と古代魔法』は、全て記憶しております。私のような者をご存じだったなんて、こちらが恐縮いたします」
「あたしは、遊びに来たにゃ」
「ミケネス教授の『魔力生物』も拝読させております。サファイヤスライムとルビースライムはこの本で読んだ知識が役立ちました」
「にゃにゃ! 今回、ユースケさんとオパールスライムを見つけたにゃ」
「まぁ、詳しい話は後程ゆっくりと、先ずはお二人に使っていただくゲストハウスにご案内します」
リーズを抱いたまま、裕介は丘の上のゲストハウスに二人を案内し、家に戻る。
「すまないな、突然お客さんを連れてきて」
「いいえ、驚きました。突然ご高名な先生方がいらっしゃるなんて、工事で何かあったのですか?」
「うん、龍の墓場を掘り当てたんだ」
「龍の墓場って… 伝説で、どこかにあるだろうって話しの?」
「そうらしいな。普通の人では近づくのも無理な、正気を失いそうな魔力だまりだったよ」
裕介は、セフィアや義母、ステファニーに龍の墓場の話しと、魔力発電所について語った。
自分が発見者として所有する事が、三国の平和になるらしい事。トンネル内の運営や列車の運行にその魔力を用いること、スレブに発電所を作ってスレブに任せるつもりである事。
「ややっこしい場所に出て来ましたね。トンネルはベイグルの所有物になるのでしょうが、山ははっきりしていませんものね。みなさんがおっしゃるように個人の所有物にしてしまった方がすっきりするでしょうね」
「確かに裕介さんなら、きっと誰も文句は言わないでしょうね」
義母も同意する。
「一度、ステラさんにも相談された方が良いかも知れません」
「そうだな、また叱られるネタだもんな」
「じゃあ、帰って来てばかりだけど、二人を持て成す魚釣ってくるわ。いいかな?」
「はい、久しぶりですものね」
セフィアにそう言われると、地中湖で釣りをしたことを言い出せなくなった裕介は、ステファニーを共犯者として誘う。
「ステファニーさん、一緒に行くかい?」
「はい、魔王様の仰せのままに」
「だから、魔王じゃ無いって!」
三時間ほどすると、スレーブルマス、二本とカツオを数匹釣って裕介達は戻って来た。
フリーマンとミケネス、ビスタルク夫妻を招いて、夕食を一緒にする。
釣りたての魚料理は、ミケネスとフリーマンを満足させて、セフィアを入れて研究者達の話しに花が咲いた。
裕介は、リーズを寝かし付けながら猿が魚釣りをする日本の昔話をしている。リーズは分かってはいないだろうが、大人しく聞いてうつらうつらと眠り、裕介もつられて一緒に眠ってしまった。