181 魔力発電所
裕介はミセスセフィアを全速で発進させ、墓場を離れる。全員がやっと一息つけた。
「恐ろしい魔力だったのう」
「ダメだ俺、鼻血が出そうだ」
「ユースケ、しっかりしておくれよ」
「アレでもグィネヴィアと二人で魔力結界でみんなをガードしておったのじゃぞ」
「マジで?」
「ちょっとだけ持って帰ったこの袋からでも、強力な魔力を感じます。これこそ龍石ですな」
「ワシは一番近くまで行ったが、圧はあったが割と平気じゃったがな」
「ドアーフは、お酒の飲み過ぎで麻痺してるんじゃ無いの?」
「なんじゃと? 龍石をその耳に突っ込んでやろうか?」
「にゃー、あたしは逆立った毛が戻らないにゃ」
「兎に角、ここはかなり危険な場所だと言うことがハッキリしました。やっぱりここは立入禁止にした方が良さそうだ」
「そんな、もったいない」
みんなが残念そうな顔をする。
「俺がいた世界に、原子力ってエネルギーがあったんです。凄いエネルギーなんですが、その副産物に放射能って制御しきれないものがあって、それを浴びることを被曝って言うんですが、大量に浴びると即死します。死ななくても人体にはすごく悪くて、火傷みたいになったり、癌や白血病って病気になって死ぬまで苦しんだり、子孫にも影響が出たりします。アレを思い出しました」
「恐ろしいことを言うなよ」
「まぁ、魔力でそれは無いと思うが、怖くなって来たのう」
「じゃあ、一応、回復魔法を掛け合っておきましょう」
「そうじゃな。気休めにはなるじゃろう」
「しかし、龍って恐ろしい生き物だったんですね」
「普通は骨の一部とか、排泄物の化石しか出て来ませんからね。あれほど大量に本体が出る事は、あり得ません」
「長く生物の研究をして来たにゃが、魔力で身の毛が逆立ったのは初めてにゃ」
「どう報告しましょうか?」
「正直に報告しても、普通の人間には多分あの場所には近づくことも出来ないにゃ」
「分不相応なエネルギーなど持たないに越した事はないわ」
「ワシも同感じゃの」
「ワシは、折角見つけたのじゃから、利用する方向を考えてみるのもありだと思うがな」
「私も同意見ですね。身体に害が無いのならですけどね」
「うまく利用する方法があるのにゃら、私も利用すればいいと思うにゃ」
意見が二つに分かれた。そんなエネルギーは必要無いと言うビスタルク夫妻。安全に有効活用出来るのなら使ったほうが良いと言う学者とミルトの意見。
「うーん、有効活用の方法は無くも無いんですよね」
「あるのか?!」
全員が一斉に裕介の方を振り向く。
「セフィアが作った魔力電池って魔方陣があるんです。男十人でも満タンに出来ないほどの魔力量を充填出来るんですが」
「そんなものがあるのか?」
「それを充填して使えば、小分けして安全に魔力を取り出せると思うんですよね」
「しかし、充填する度にあの場所に行かなくてはいけないだろう?」
「うーん、うまく行くかどうか分かりませんが、同じ形に加工したダイヤを対で使うと、魔力を伝達するんですよ」
「ダイヤ?! あの研磨に使うクズ石か?」
「そうです。どのくらいの距離を飛ばせるか不明ですが、あの場所に送信用のダイヤを置いて、充填工場まで魔力を飛ばせれば、魔力電池に充填出来ると思うんです」
「あのクズ石にそんな力があったとは。しかしそんなに飛ぶものかの?」
「分かりません、ただこれもセフィアが作った音声通信装置って、離れた場所で会話が出来る装置があるんですが、亜空間で音声を伝えるんだと言ってました。ダイヤにその魔方陣を描けば魔力が飛ぶかも知れません」
「そんな装置まであの子は作っていたのかい?!」
グィネヴィアが驚く。
「流石は、魔方陣の権威ですな」
フリーマンが、感心して唸る。
「何にしても、セフィアに相談してみないと始まりませんが、これが実現できればあの場所を立入禁止にしても、一度発信用のダイヤを置いて来るだけで、半永久に使える魔力発電所になるんです」
「凄いのう。それなら電池を使うだけだから、分相応なエネルギーとして使えそうじゃの」
「ユースケさんは、今、思い付いたのにゃ? 天才にゃ!」
「いや、全部セフィアの魔方陣ですよ」
「面白れえ話しになって来たじゃねえか! やっぱりユースケだな」
ミルトが嬉しそうに裕介の肩を叩く。
「それで、トンネルはどうするんだ?」
「地中空間の下に掘り下げるしかないなと思ってます」
「どのくらい?」
「あの湖の深さに十メル足したくらいでいいんじゃないでしょうか?」
「そんなにか?」
「多分、湖に向かって地下水脈が通ってるんだと思います。キノコやシダが生い茂っているのでかなり表面近くを。それを遮断したく無いのでそのくらいかと。魔力探知でも大体そんな感じです」
「湖の深さは大体二十メルくらいだから、トンネルの高さを入れて四十メルくらい底を掘り下げればと思います」
「そんなに掘り下げても鉄道はちゃんと走るものなのか?」
「鉄道の最大勾配は五十分の一くらいだと、テスト路線での実験結果が出ています。今レールを敷いているところから二十ペクトほど戻ってやり直せば、大丈夫です」
「理路整然としていて、凄いにゃ、うちの大学で教鞭を取って欲しいにゃ!」
「いや、うちでも是非お願いしたいですな」
「いや、俺は高校中退ですから、それはちょっと」
「戻ったら、学園長を説得するにゃ!」
「いや、釣りもありますから無理です!」
「にゃにゃにゃ、釣りと言うと魚を釣るにょかにゃ?」
しまった。猫に魚の話しをしてしまった。
「是非、連れて行って欲しいにゃ! あたしが生物学者ににゃったのは、魚が好きだからにゃ!」
魚好きの生物学者、それはちょっと魅力かも知れない。
「ちょっと、そこの地底湖に魚がいるみたいだから釣ってみますか?」
「にゃにゃにゃ! 是非!」
「え〜?! 今の状況で釣りをするの? ホント釣りバカね!」
グィネヴィアが呆れる。
「いや、そんなに褒められても」
「褒めて無いわよ!」