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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第1章 ミステイク
18/294

18 殲滅作戦1

 敵の本拠地は、海野さんが鳥を使って二日で見つけた。サーズカルの南に標高五百メートルほどの山が連なる場所がある。オルトロスという頭が二つついた魔犬が生息していることから、オルトロス山地と呼ばれているらしい。魔犬も出るのか。

 その東端のラビル川側に、敵の本拠地があるそうだ。数はほぼ百人。ラビル川を遡っていけば行けるのだろうが、途中の岸辺は難所になっていて、西側の山中から回り込むほうが無難だそうだ。


 サーズカルの真南にハリタという村がある。この村から谷沿いに登り、峠を越えて下り、川沿いえを上って行くルートを海野さんが、地図を前に説明した。

 作戦会議室には、俺たち六人と、選抜兵士十名、それに本部の参謀が二名集まっている。


「ここと、ここと、ここに物見の砦があって敵襲を監視している」

「じゃぁ、俺とエクレア軍曹の二人で行って、一つづつ潰そうか?」

 亜湖さんが提案する。エクレア軍曹って美味しそうな名前だけど、刀傷だらけの厳ついおっさんだ。

「そうだね。亜湖中尉の闇魔法とエクレア軍曹のグリーンベレー並みの能力なら問題ないね」

「ちょっと待ってくれ、その闇魔法というのを見せてくれぬか」

 エクレア軍曹が要望する。


「いいですよ。亜湖中尉」

 亜湖さんは、全員の目の前からスッと消えた。全員驚いて周りを見回す。次にエクレア軍曹がいなくなった。

「とまぁ、こんな感じです」

 亜湖さんとエクレア軍曹が、扉の側で姿を現した。

「私は見えなくなっていたのか?」

 エクレア軍曹は、近くの顔見知りの兵士に尋ねる。

「ええ、全く。驚きました。勇者だというのは本当でした」


「これで、物見三つを攻略して、いよいよ部隊が進撃します」

 地図の上で、海野さんが大きな赤いコマを砦の進路に動かす。

「敵の砦は、丸太を立てて並べた塀で囲まれています。ここは柿沼中尉にお願いしたい」

「おう任せてくれ、一瞬で灰にしてやる。そのまま砦も全部焼くか?」

「いえ、拉致されて監禁されている人もいるかも知れませんので、抵抗する者以外は殺せません」

「そうか、面倒だな」


「次は池宮中尉にお願いしたい。柿沼さんの燃やして開いた塀の方向から砂嵐で小石を砦内にはじき飛ばして欲しいんです」

「いいですよ。監禁されている人は屋内でしょうから安全なんですね?」

「そうです。確認済みです」


「最後は、川原中尉。君は進軍の時にこっそり裏に回り込んで、裏門出口の一帯を沼地化しておいて欲しいんだ」

「あっ、沼地に追い込むわけですね。そして硬化させて一網打尽」

「うん、なかなか鋭いね」

「わかりました」


「ミステイク以外の方々は、私たちが何を言っているのか分からないでしょうから、今から広場で勇者たちの魔法をお目にかけます。連隊長の許可は取ってあり、連隊長もお見えになることになっています」

「グレッグ少尉も見るのは初めてだから、大尉の側にいるといいよ」

「はい、川原中尉」


-----------------


 俺たち殲滅部隊は、表門裏の広場に移動した。いつも修練をしている人たちは、広場の周囲に移動し遠巻きにしている。というか、八千人全部が集まっているんじゃないか? 屋根の上にまで人がいる。


 連隊長がやってきた。

「今から始めます。柿沼中尉!」

 海野さんが連隊長に敬礼して、開始を告げる。

 広場の真ん中に剣の打ち込みに使う丸太の人型が据えてある。柿沼さんが、その二十メートルほど手前に立ち、手をかざして火炎魔法を使った。相変わらず凄まじい火力だ。火力というより、温度が高いのだろう、ものの三分ほどで丸太は柿沼さんの言う通り灰になった。

 周りの人々は呆気にとられ、八千人もの人間が一瞬で黙りこくった。と、いきなり地鳴りのような声援、拍手、指笛。絶賛。ミステイクは本物の勇者だと誰もが悟った。


「次に、池宮中尉!」

 池宮さんが出ていく。また静かに静まり返る。

 ゴオォォ~!

 先ほどの地鳴りのような声援以上の音を立てて風が吹き始めた。小石が巻き上げられ礫のように飛んでいく、竜巻と砂嵐が広場に起こり大きな表門が風で揺れ壊れそうな音をだす。

 池宮さんが、壊してはだめだと魔法を解いた。広場は深さ五十センチ、直径五十メートルほどの窪地が出来て、表門に土砂の小山が出来ていた。

 再び、静寂のあとの轟音の絶賛。もうスタンディングオベーションだ。


「最後に、川原中尉! 選抜隊のエクレア軍曹以下十名は、その窪地中央に集まってください」

 選抜隊の面々は、先の二人のド迫力魔法を見た後だから、殺されるのではないかと涙目になっている。気の毒だ。

 エクレア軍曹は勇ましい、ふろ上がりの牛乳を飲むおっさんみたいに腰に手を当てて仁王立ちしている。

「グレッグ少尉も経験してみるか?」

 俺はアリサに聞いてみた、涙目でイヤイヤとかぶりを振っている。ぷっ! 可愛らしいところもあるじゃないか。

「少し汚れますが、怪我をすることはないと思います」


「では、いきますよ」

 ズボッ!

 いきなり広場が沼地に変り、十人が腰まで落ちて浸かる。

「うぉ! なんてこった!」

 そして硬化。

「うっ! 動けねぇ~! 助けてくれぇ!」

 俺の時は、静寂の後の大絶賛ではなく、笑い声半分の大拍手になった。

 俺は、固化を解いて砂に変える。それぞれが文字通り這う這うの体で這い出してきて、アトラクションは終了になった。


「恥をかかせてすみませんでした」

 俺は実験台になった十人に一人一人謝りながら、クリーンナップをかけていく。

「いやいや、恥だとは思わん。これなら、確かに組織の連中も一網打尽だ」

 エクレア軍曹が笑いながらフォローしてくれ、他の人たちもうんうんと頷いている。


 いつの間にか、「勇者ばんざーい」と八千人のシュプレヒコールが起こっていた。

 そんな中、俺は池宮さんの作った小山を液状化して、窪地に流し、元通りの広場に戻した。

 どうも、自分でも裏方さんの印象が強い。

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