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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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178 トンネル工事

 中央大陸横断トンネル工事に着工して三か月が過ぎた。裕介は来る日も来る日もトンネル内の、最奥の壁に向かって魔法を振るっている。

 自分の昇華魔法が、空気の入れ替え魔法と、本物の昇華魔法を使い分けが出来ることが分かったので、サーズカルの時のように危ないガスが発生する心配をしなくて良くなったが、もうこれはほとんど修行の世界だ。壁に向かって自分を問うか、自分の影を相手に剣を振るうか、達磨和尚や宮本武蔵の世界と大して変わらないのでは無いだろうか。


 日本にいた頃、高校生だった裕介は竿を背負って自転車で防波堤に行き、タチウオを釣るために延々と闇に向かってメタルバイブレーションを投げ続けたあの時を思い出した。

「そう言えば、あの時もなんの修行だと自分を笑いながら釣ってたなぁ〜」

 トンネルの最奥の壁に向かって、裕介は独り言をブツブツ言いながら、今日も壁に向かって土魔法を使う。どうせ、その先もまた最奥の壁なのだ。


 こう言うメンタルには釣り人の裕介は、驚くほど強い。子供の時から人の目がどうの、友達がどうのと思案するより、目の前の自然を見てそれを受け入れ、その上で導き出される今日の釣魚の状態を考える方に重きを置いてきた人間が、全てを失ってこの世界に来て、希望も夢もないところから生き抜いて来たのだ。半年や一年、穴の最奥で壁を見続けている程度でおかしくなるようなヤワな人間では無い。

 しかも、まだ始まって三か月だ。ひょっとすると未だ半年以上はこの作業が続くのだ。


「ユースケ、今日のうちには、ここまでレールを敷くぞ」

 ミルトが背後から声をかける。


「あぁ、もうここまで敷いてきたのですか」

 メンタルに強いと言いながらも、三か月もこんな作業を続ければ頭の回りは少しトロンとしてくる。朝からここまで一時間、トロッコのような列車に揺られ走ってきてトンネルを奥に伸ばす。

 その後伸ばした分のレールと固定基礎ボルト作って、ミルトが率いるドアーフ達が床に穴を明けレールを仮敷設する。枕木や砂利は敷かないが、レールと床の接触部にはベイグルのアコセイサクショから毎日届く大量のゴムシートを挟んで、振動と騒音防止の緩衝材とする。最後に今日の分の基礎ボルトの埋め込み部の固化を裕介が行って一日の作業が終わる。


 作業が終わるとドアーフと一緒にスレブに戻る。酒好きのドアーフにとっては宗教国のスレブは実に最低の国らしい。酒が無いのだ。最初それを聞いたドアーフ達は暴れそうになったが、持ち込みまでは制限していないそうで、自分の宿の自分の部屋で飲む分には自由らしいが、公の場所では酒は飲めないらしい。

 工夫達は、少しづつ既に作った二つの駅に酒を持ち込んで貯めている。

 というのは、この工事を引き受けるにあたって、何かの鉱脈を発見した場合は彼らに採掘権を与えると三国が了承したそうだ。一応トンネル内は工事を行うベイグルの管轄になることになっているが、もし鉱脈が出れば三国の中間になるこのトンネルは最高の地の利を持つ採掘場になる。

 一山当てようとミルト配下の四十名は、ドアーフの街をこのトンネルに設ける夢見て工事に参加している。


 こういう事情もあり、酒もないスレブでの生活に辛抱し、自分たちが持つであろう街へ唯一通じるであろう、このトンネル工事に彼らは真剣に取り組んでいる。

 それとは別に、裕介の持つ土魔法はドアーフ達にとっては神の技のようでもあり、それを知るミルトでさえ、ここまで大掛かりな裕介の魔法を目にしたのは初めてで、既に彼らから裕介は神格化されつつある。なので、裕介の言うことはとても良く聞く。そのお蔭で、工事は予想以上に順調で既に八十キロ地点を超えていた。


 ミルトに急かされるように、裕介は先にトンネルを掘るために土魔法を使う。一気に八百メートルの岩盤が気化してトンネルに変る。


 ボコ!


 いきなりトンネルの奥が抜け、奥の方がぼんやりと光っている。

「えっ?!」

 いきなりのことで裕介は驚いた。岩を掘り進んでいくだけなので、魔力探知も行っていなかった。あわてて魔力探知を始める。

 巨大な空間、膨大な魔素の量、その中で蠢く小さな魔力の数々。

「やばい! なんだ? ここは?!」

「どうした? ユースケ?!」

 ミルトが側に駆け寄って来る。

「この先に、地底世界のような巨大な空間があって、何かの生き物がいます」

「まさか?!」


「ちょっと、ヤバい感じがします、一度閉じて工事を中断しましょう」

「ここまで掘り進んでか?!」

「安全が最優先です。ビスタルク夫妻や学者を呼んでから調査した方がいいでしょう」

「なんて、こった?! 古代遺跡でも掘り当てたか?」

「分からない。でも尋常ではないほど魔素が濃くて、その中で生きている生き物がいるんです。かなりの魔力を持った危険な生物だと思った方がいいでしょう。兎に角、出て来てからでは遅いので、一度閉じます」

 裕介は、トンネルの奥を崩落させて魔法で固めた。


 安全を確認した上で、もういちど奥に向かって魔力探知をやり直す。

 魔素が特に濃い場所が多分、空間なのだろう。その分布から推測すると奥行二十キロ、横幅五十キロ、高さは二百メートルはある大きな空間だ。魔力を放つ生き物はそれほど大きくはないが、地面にもびっしりといてほとんどは動かないから、魔力を持つ植物なのかも知れない。


 天井にも空間にも小さな魔力のものがいるから、鳥や蝶のような生物かも知れない。さほど危険はないかも知れない。そして、地面の下の特に魔素が濃い部分があり、その中でも魔力を持つ生物が動いている。これは、ひょっとすると魔素の濃い湖で、魚がいるのかも知れない。この濃い魔素の水の中にいるのだから、極めて濃い魔力の持ち主でこいつは危険かもしれない。


 極めつけは、東側の一番奥だ。魔力だまりと呼んでいいほどの、強烈な魔力の塊がある。

 これが生き物なら、世界を滅ぼすほどの魔力を持った生き物だと言えるが、動かないから眠っているか、既に死んでいるか、兎に角、非常に危険なものがあるのだ。

 裕介に分かるのはここまでだった。

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