175 思いがけない来客
エスパール達が来て二ヶ月が過ぎ、十二月も終わろうとしている。
リーズは、ハイハイで家の中を動き回るようになり、時々つかまり立ちもするようになった。
「そうか、生まれて三日で魔力をな。三ヶ月で念話を使ったと言うのか?」
念話は、裕介とセフィア以外にはリーズは送って来ないが、そろそろ魔法で物を動かしそうな予感がする。セフィアと相談し、前もって、義父母には話しておいた方が良いだろうと裕介の口から打ち明けた。
「セフィアは魔力が発現せずに辛い思いをさせたから、喜ばしい事だが、いくらなんでも早すぎる、しかも強すぎる…」
「ですよね」
「ひょっとすると、我が孫は天才か? それとも伝説級の魔法使いかも知れん」
「えっ?!」
エスパールが破顔しリーズを抱き上げ、リーズに話す。
「ぬほーん! リーズは、天才か伝説の魔法使いなんですかね?」
「ダメだ、こりゃ」
エスパールの爺バカぶりに、裕介は頭が痛くなってきた。
「爺ちゃんにも、魔法でお話ししてください」
リーズは爺ちゃんの口髭を引っ張っている。
「誰かが島に近づいて来てるな」
裕介は魔力探知で船で近づいているのであろう、三人の魔力を感じ取った。たぶん一人は船頭だろうから、来客は二人ということになる。そのうちの一人は、自分やセフィアと似たような魔力だ。
「来る前に分かるのか? ユースケ君」
エスパールが驚いて尋ねる。
「ええ、ビスタルク夫妻に魔力探知を教わりましてね。今では水中の魚もどこにいるか分かるようになりましたよ」
「おぉ、それでこの間は釣れたのか?!」
「流石は、魔王様です」
側にいた、ステファニーがエスパールとの会話を聞いて、目をキラつかせている。
「なんで、魔王の手下みたいな会話になってるんだよ! 人を勝手に魔王にしないでくれ」
ステファニーはどうしても、裕介を魔王にしたいようだ。
「二人か。多分彼らだな。もう到着したのか」
エスパールは、近づく彼らに心当たりがあるようだ。裕介は、一瞬ミリムかと思ったが、彼らとエスパールが言っているので違うようだ。
裕介達は、桟橋まで来客者を迎えに行く。船から大きな荷物を抱えた二人が降りてきた。
「いやぁ、やっと着いたな。遠かったぁ~!」
「まっ、マカロン君? それにレア君も。どっ、どうしたんだ?」
「ユースケさん! お久しぶりです。しばらく厄介になりますよ」
「なっ、なんで?」
「ユースケさんが、トンネル工事を引き受けちゃったからですよ。列車を作るために呼ばれちゃって。俺なんて、まだ新婚三か月なんですよ!」
「あぁ、マカロン君、アリサと結婚したんだってな。おめでとう!」
「ありがとうございます。せっかくアリサと一緒になったと思ったら、新婚二か月で出張命令ですよ! 絶対、エクレアさんの嫌がらせです!」
マカロン君は、ずっとアリサをグレッグ中佐と呼んでいたので、彼が『アリサ』と彼女を呼ぶことに、裕介は些かの抵抗と、違和感、そして新婚の初々しさを感じた。
彼らを宿舎に案内して一息ついてもらう。
「そうか、列車を作るためにな。それはご苦労だな」
「で、もう着工したんですか?」
「いや、まだ全然。話がまとまっただけだ。列車を作るって、えらく気の早い話しだな」
「もう、ベイグルではテスト路線で稼働はしてるんですよ。話がまとまりかけたから、厳冬期が来て動けなくなる前に出立しろとせっつかれましてね。一か月前に出てきたんですよ」
「そうなのか? ベイグルは、えらく焦っているんだな」
「二人共ご苦労だった。無理を言われたようだな、すまなかった」
エスパールと柿沼が、前に出て来てマカロンとレアと握手する。
「政府も無茶言いますよ。開通したトンネルを使って鉄道で帰って来いって言われました。工事がユースケさんじゃ無かったら、断固拒否してましたよ」
「ははは、トンネル工事の第一人者だからな」
「いや、いつから、そんなトンネル名人みたいに言われてるんすか?」
「なんでそんなに焦っているんだろうな?」
「そりゃ、理由は一つだ。裕介、お前の気が変わらないうちにさっさと着工させてしまおうってことさ」
柿沼が裕介の疑問に答える。
「俺?! 俺が原因?」
「こんな工事が出来るのは、お前以外にはいないからな」
「そういうことか。なら、マカロン君、申し訳なかったな」
「いや、ユースケさんが謝ることじゃないですよ。俺たちもユースケさんと工事するんならって、アコセイサクショでは大勢の人間が希望した中で抜擢されたんですから。どっちかと言えば羨ましがられて出てきたんです」
「それで、線路もついでに敷いていく予定なのか?」
「そうですよ。トンネルで一年も寝泊りするわけにもいかないっしょ? 鉄道を使いながら工事してもらうんですよ」
「でも線路を敷くとなると人手が必要になるぞ」
「大丈夫です。もう手配は済んでますから、工夫達も、おっつけやって来ると思いますよ。問題は材料なんです、どこかこの付近で鉄鉱石が採掘出来る場所がないものでしょうかね? 掘る穴から出れば一番いいんですけどね」
「鉄鉱石が出る場所は知らないが、俺も石を鉄に変えるくらいの錬金魔法なら使えるようになったから、現地調達でやれないことはないぞ」
「えっ?! 錬金魔法って?! 鉄が自由に作れるんですか?」
「あぁ、普通の石を鋼に変えれるぞ」
「お前、ますます便利な奴になったなぁ~!」
「いや、柿沼さん、そういう褒め方されても、うれしくないですよ!」
「ドアーフの精錬魔法が使える職人を頼んでいたのですが、それじゃ工夫だけで良かったですね」
「ドアーフに頼んでいたのか? そりゃ、穴掘りの専門家がいてくれた方が助かるな」
「一度、サーズカルでお会いしましたよね。ミルト親方が来てくれるって話しにはなってるんですよ」
「なんだ、親方が来てくれるのか?! そいつは心強いな」