170 回顧談
「リーズちゃん、バァー!」
「キャッキャッキャ!」
婆ちゃんにあやされて、リーズは喜んでいる。これでもかと言うほど、爺ちゃん婆ちゃんが持って来た、オモチャに囲まれてリーズはご機嫌だが、やっぱりミリムのガラガラが良いようで、それは手放さない。
今回、島には、エスパール夫妻とステファニー、柿沼一家とベイグル使節団の護衛兵士五人が滞在している。使節団の他の者たちはモスカに滞在して、既に会談の予定を詰める為に、アペリスコとサルサバドルに事務方が出向いているそうだ。
折角、はるばる来てくれたのだから、義父母や柿沼にもゆっくりして行って欲しいと裕介夫妻も思っている。
「紹介します、この島に俺たち夫婦を誘ってくれた、大魔法使いのビスタルクさんと、グィネヴィアさん夫妻です」
「セフィアの父のエスパールです。お二人のご高名はかねてから承っております。お二人が娘夫婦の隣人となっていただき、喜ばしい次第です」
「フォフォフォ。世話になっているのは、こちらの方じゃてや」
「で、こっちが俺と一緒に転移してきた柿沼さんと、そのご家族です」
「柿沼っす。しばらく、賑やかにしますがご容赦ください」
「賑やかな方が楽しいでのぅ、ワシらに気兼ねなく好きにやってもらえば、ええ」
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「レイト君じゃったか、子供がいると言うのは良いものじゃのう」
「まだまだ、甘えたで母親にべったりですがね」
「ヒルトンさんは、国防長官は辞めたんですか?」
「あぁ、子供を産んだら、国を守るより家庭を守る方が大事だと言ってな」
「そりゃそうですよ。夫婦で国の為に働いていたら、レイトが可哀想じゃないですか」
笑いながらヒルトンが言う。
「ビスタルクさん、お願いがあるんですが」
エスパールが改まって、ビスタルクに話し始める。
「スレブとアルバスの政府筋に顔の効く方を、紹介していただけないでしょうか? 国交交渉を始めようと事務方が動いているのですが、どうもベイグルは訝しまれているようで、なかなか良い返事がもらえんのです」
「なんじゃ、そんな事なら、そこに居るではないか?」
ビスタルクが指を差した先には、裕介がいた。
「えぇぇ?! 裕介君、政府筋にパイプがあるのか?」
「俺? ええ、まあ無くも無いですよ」
「一体、どのような人と?」
「アルバスの王とスレブの枢機卿ですが」
「なっ、なんと?! 王や枢機卿を知っておるのか?」
「こやつは、アルバス王とは、ユースケ、ロンの釣り仲間だし、スレブには貸しがあるでの。しかも、どっちも名誉国民だぞい」
「えぇぇ?! 裕介、お前何をやったんだ?」
柿沼が驚く。
「イヤ、大したことはしてないっすよ。頼まれて、釣り堀と神像を作っただけっす」
「それだけで、そうなるのか?」
「なんだか喜ばれちゃったんすよ」
「それは好都合だ。裕介君、是非ベイグルと、アルバス、スレブの橋渡しになってくれ!」
エスパールに両手を強く握り締められる。政治家の握手というものは、どうしてこうも熱っぽいんだろうか? 裕介は、自分の義父に握手されても、そんな風に感じた。
「別に良いですけど、橋渡しだけですよ。交渉までは責任持てませんから、お義父さんと柿沼さんでやって下さいよ」
「勿論、それは我々の仕事だ、なぁ、カキヌマ君」
「もちろんだ。しかし、驚いたな、裕介がなぁ〜」
柿沼は出来なかった弟が、運動会で一等賞を取った時の兄のような顔をして裕介を見た。
「あっ、柿沼さん、今、俺をアホの子を見る目で見ましたね?!」
「そりゃ、お互い様だ。釣りだけして遊んでたのかと思ったら、ちゃんと政府にパイプを作ってたんだな」
「あー! やっぱり! オスタールにだって、感謝されてるんすからねぇ〜」
「へぇ、オスタールでは何をやったんだ?」
「魔物を退治して、金山に行く道路を作って、アロワナ釣って、モモ姫にプレゼントしたってとこですかね」
「アロワナがいるのか?」
「ええ、立入禁止区域の湿地帯にね。アリコンダって十メートルくらいのでっかいヘビもね。あれ、カレーにするとめっちゃ美味いんすよ」
「お前ら、旅に出て何をやって、何を食って来たんだ? 概ねは知っているが、本人の口から詳しく、話して聞かせろ!」
裕介はそう言われて、旅に出てからの二年半を振り返る。
全部が怪魚では無いが、色んな魚を釣ったなぁ〜と思い出す。
それを一つ一つ、柿沼やエスパールに話して聞かせた。
「めちゃくちゃ釣ってるじゃないか! しかも、寿司やら、スッポン、蒲焼きに焼き鳥だと?! 良いもの食ってきてるじゃないか!」
「ははは、このアルバスには、昔、アベ・カンゾウって日本人の転移者が昔いたらしいんすよ。その人が、稲作や、醤油、味噌、味醂を伝えたそうです」
「オスタールで焼きおにぎりを見た時は、感動しましたよ。鰹節が無かったのが残念だったんですけど、この湖で鰹が釣れた時は、ほんと驚きました」
「醤油や味噌、鰹節をベイグルまで、送ってもらってすまなかったな。池宮さんと二人で小躍りして喜んだぜ」
「じゃ、明日カツオのタタキをご馳走しましょうか?」
「いいなぁ、それ」
「じゃぁ、釣ってきますよ。お義父さん、折角だから久しぶりに一緒にどうです?」
「良いのか? じゃぁ、頼む」
「ステファニーさんも行きますか?」
「私も?! 良いのですか?」
「じゃぁ、明日はカツオとスレーブマスを釣りに行きましょう」
「俺も行ってもいいか?」
「えっ? 柿沼さんも釣りをするんですか?」
「ヘラ池で、ヘラを釣る程度だがな」
「ヘラを釣るんですか?!」
「あぁ、別に不思議じゃないだろ?」
「俺が、アルバス王宮に作ったのは、ヘラ池ですよ」
「そういや、釣った魚種が多すぎて、流して聞いたがヘラも入っていたな」
「そうですよ。アペリスコの南で釣れるんです。そいつを獲って来て、王宮に作ったヘラ池に放したんですよ」
「アルバス王がヘラ釣りをやってるってか?」
「そのハズですよ。面白がってましたから」
「じゃぁ、一丁、日本のヘラ釣り師の技を見せてやろう。道具はあるのか?」
「これを貸しますよ」
「裕介は、カンゾウ竿を取り出した」
「こいつぁ~! 日本でもなかなか手に入らないほどの、江戸竿の業物じゃないか?!」
「これはね。この国のカレンさんて人が五代目を務める、カンゾウ竿って竿なんですよ」
「渋いなぁ~、これを使ってもいいのか?」
「いいですよ、でも記念に貰ったものだから返してくださいよ」
「分かった。じゃぁ、明日一緒に行くのはやめだ。そこの桟橋でちょっと釣ってみる」