167 初魔法
やっと解放され、家に戻れた。しばらく見ないうちにリーズはまた大きくなったような気がする。物が掴めるようになった。嬉しくなって自分の指とか、色んなものを握らせて喜ぶ。声を出してキャッキャと笑うようになった。
「えっ?! 私とリーズの像ですか?」
裕介から、スレブの話しを聞いたセフィアが、ええ〜っと驚く。
「俺には、セフィアとリーズ以外に浮かばなかったからな」
セフィアにしてみれば、嬉しいような、恥ずかしいような、自分が女神像になったと聞いて変な感じだ。
「まぁ、カワハラ家では、リーズの誕生記念のモニュメントだと言うことにしておきましょうか」
セフィアは恥ずかしそうに笑いながらそう答えた。
「そうだ。冬になるとスレブのスレーブル湖は人が乗れるくらい氷つくらしいんだ」
「それじゃ、魚も釣れませんね」
「それがなぁ〜、氷に穴を開けて釣る釣りがあるんだ」
「えっ、氷の穴から魚を釣るんですか?」
「そう、ワカサギと言ってね、群れで回遊する魚なんだけど、これのフライがとても美味しいんだ」
「美味しいのですか?!」
リーズを産んだ後のセフィアは、アフタースポーンのブラックバスのように良く食べる。これで少しも太らないのだから、太らない魔法でも使っているんじゃないかと思うほど食べるのだ。以前からだが、美味しいという言葉には、特に食いつきがいい。
「まぁ、リーズも行けるようになったら行ってみよう」
「そうですね。まだ氷の上で釣りをするなんて、とんでもない話しです」
「早く大きくなって、一緒に釣りに行けるようになって欲しいな」
「うふふ、まだまだ先の話しですよ。そうだ、お父様とお母様がリーズに会いにいらっしゃるそうです」
「ワハハ、お義父さん、とうとう辛抱出来なくなったか!」
リーズが生まれてからと言うもの、毎週のようにエスパール伯から、プレゼントが届いている。
どうして遠いアルバスで産んだ? 何故自分は外務長官を辞めれないんだ? 孫の顔見たさに、最近は愚痴半分、泣き言半分の手紙まで入っている。
セフィアが焼き付けたリーズの写真を何枚も送っているのだが、それがかえって火に油を注いだのかも知れない。
セフィアがそれを見て、笑い転げながらリーズに
「お爺ちゃんは、あなたに会いたくてしょうがないみたいですよ」
と話していた。リーズは分かってはいないと思うが、ママが笑っているのが分かるのか、キャッキャと喜んでいる。
やっと、オスタール、アルバス、スレブの外交を兼ねて出て来れるようになったみたいだ。しかしゲルトからだと五千キロ近くある。馬車でしかも外交をしながらとなると、到着は二ヶ月近く後のことだろう。確かにベイグルの外務長官が公で出てきて、オスタールやアルバスを素通りするわけにもいかないだろう。ご苦労様な事だ。
「リーズ、爺ちゃんと婆ちゃんがお前に会いに来てくれるぞ」
「ダァ〜」
「そうか、リーズも爺ちゃんに会いたいか?」
これを見たらエスパール伯は、狂喜乱舞するだろうな。などと、裕介は親バカ全開でそう思う。
数日後、また手紙が届いた。
「えっ! えぇぇ~?!」
「どうしたんですか? あなた!」
「柿沼さんも一緒に来るって」
「えっ、えぇぇ~!」
セフィアは露骨に嫌そうな顔をする。セフィアと柿沼さんは会った時から、相性が悪い。いわば天敵だ。
「何をしに、いらっしゃるんでしょう?」
「なんだろうな? 嫌な予感がするな。ヒルトンさんと結婚したらしい。子供も生まれたから一緒に連れてくるって。二歳の男の子だって」
「二歳って? 私たちが出発した二年前は、まだご結婚されてませんでしたよね?」
「じゃぁ、できちゃった婚か? 俺たちがエノスデルトにいた頃には、もう子供が生まれてたってことだよな」
「大勢来るんなら、泊まる場所もないからゲストハウスを作っておこうかな」
「そうですね。お付きの人達もいるでしょうから、何軒かあった方がいいでしょう」
「じゃあ、ビスタルクとグィネヴィアに許可をもらってくるよ。場所はどこがいい?」
「この奥の丘が良いでしょう」
「同意見だな。じゃあ、行ってくる」
ビスタルクとグィネヴィアは気を良く許しをくれ、裕介とセフィアはゲストハウスを建てるために丘の上に来た。
リーズは百合籠に入れたまま、魔法で運んで連れて来た。ここの湿度が多く温暖な気候には、やはり石よりは木の家の方が過ごしやすいだろうと、ログハウスを建てる事にする。
先ずはセフィアが木魔法で、木を育て材木にし乾燥させる。木が大きく育ち過ぎた。
「あらあら、失敗しちゃいました」
「いいよ、少しくらい大きくても問題ないさ」
次に、育った木を切って材木にする。空間魔法で枝を払い、木魔法で皮を剥く。最後に乾燥魔法だ。
「あら、また失敗。少し乾燥しすぎました。しばらく木魔法を使ってなかったので、感覚が鈍ってますかね?」
「まぁ、乾燥し過ぎはノープロブレムだ」
次は裕介の空間魔法だ。材木を次々と浮かせて組み上げていく。
「ん? なんか変だな? セフィアも魔力を使ってる?」
「いいえ、私はなにも、見てるだけですよ」
「なんだか、少し魔力の介入を感じるんだけど」
「あら、さっきの私もそうでした」
「変だな?」
「だぁ~」
頭の中でリーズの声が響いた。
「……!」
「あなた!」
セフィアも同じ声が聞こえたようだ。
「リーズ?! お前か?」
「だぁ~」
「えぇ~?! さっきからの魔力介入はリーズなのか? しかも、これは念話?!」
「リーズ、あなた、お手伝いしていたのですか?」
「だぁ~」
「マジか?」
「リーズは念話も使えるのですか?」
「まっま〜」
間違いない。リーズが魔法と念話を使っている。
ビスタルク夫妻が予言していたが、本当にリーズはしゃべり始める前に魔法を使い始めた。しかも、ビスタルク達でさえ出来ない念話も使っている。
これは、えらい事だ。