表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
166/294

166 ペンテコステの丘

「そうだな、像の高さ二十メルでどうだろう?」

「にっ、二十メル?!」

 ヘイズ枢機卿が、素っ頓狂な声を上げる。

「街を見下ろすんなら、そのくらいの高さが無いと、下からは頭しか見えないぞ。台座も入れて三十メル近くはあった方がいいんじゃないか?」


「そんな大きなものが作れるのなら、是非お願いしたいですが、何年もかけてというわけには参りません」

「それは大丈夫ですよ。材料が近くにこれだけ有れば、四日もかからないと思いますよ」

「へっ? 四日ですか?」

「うん、爺さんと二人で魔法で作るからね」


「おぉ〜! 女神メスカリ、感謝いたします」

 ヘイズ枢機卿は、三拍子の指揮者みたく、その場で指で三角形を描きお祈りを始めた。


「やっぱ、作ってから残念なことになるのも嫌だから、前もって小さいのを作っておくか」

 裕介は白大理石を魔法で運んでくると、空間魔法でいつも見ているセフィアがリーズを抱いたイメージを作り、液状にした大理石をその中に流し固めた。

 ヨーロッパの彫刻のような、三十センチほどのリアル像が出来上がった。


「上手いものじゃのう!」

「それは!」

「こんなのでどうです?」

「斬新です! 新風が吹き荒れる予感がします!

おぉ〜、女神メスカリよ〜」

 ヘイズ枢機卿は祈りまくりだ。


「やっぱり台座はあった方がいいな」

 台座を付けて、なんだかトロフィーみたいになった。

「じゃ、ヘイズ枢機卿もお気に召したみたいだし、デカイのを作りますか!」

「先ずは台座からじゃの」

「芯になる台座を作って展望台にしようと思うんだ。だから階段もつける。台座の周りをドーム型の屋根にして中を待避所にしてもいいし、土産物屋やレストランにしてもいいようにしておく」


 ここからは、空間魔法と土魔法のデモンストレーションのようだった。ビスタルクが石切り場から、次々と石材を切り出して、宙に浮かせ運んで来る。

 裕介が、空間を加工して液状化して整形したり、石を四角に切り取ってブロック状にしたり。

 重さ数トンの石材が宙を飛び交い形を変える。

 ヘイズは驚きを通り越すと共に、危なくて近くにいられないので、遠巻きに見ているしか無かった。


 初日で台座の芯が完成した。高さ七メートル。直径八メートルの円筒形の台座だ。

 翌日からは、ホバークラフトに乗っての作業になる。横から見ないと全体が把握出来ないからだ。ただし、ホバークラフトの最高高さは二十メートルなので、台座の高さを引くとおへその辺りまでしか浮べ無い。


 そこで裕介は像を石切り場近くで寝かせて作成して、最後に運んで台座に乗せることにした。

 モアイを作るのと同じ方法だ。運べ無ければ分割して合体させればいい。像全体の重さは、多分数千トンになる。これまで裕介の魔力で、魔方陣でスッポンを浮かせたように、空間魔法でも限界を感じたことは無かったが、これは流石に無理かも知れない。


 二日後、石切り場に寝かせたセフィアとリーズの像が完成した。作成中に何ども寝返りを打つように反転させたので、たぶんこのまま運べそうだ。


「じゃあ、行くぞ!」

 裕介は高さ二十メートルの像を魔法で起こす。

 静かに像が立ち上がった。


 それを見て驚いたのは、スレブの民衆だ。

 前もって布令られてはいたが、期間が短じか過ぎて知れ渡ってはいない、山の上に女神メスカリがパミルを抱いた像が、突然現れ、移動を始めたのだ。

 人々は、本物の女神の降臨だと思い、皆、地に平伏して祈りを捧げた。


 民衆が、吉兆だと思ったのかどうかはわからない。巨大な動く像に人々は畏怖し、誰もが本物のメスカリだと信じた。

 デモンストレーションにしては、度が過ぎるイベントだったため、他の枢機卿も教皇までもが、外に出て動くメスカリを見物し、手を合わせた。


 裕介が作った像は、この時点で紛い物ではなく、女神メスカリとしてスレブ国民に認定されたのだった。メスカリ像は無事に台座まで移動して、裕介の手により台座と一体化された。

 メスカリ像が所定位置に座ると、民衆がそれぞれに捧げ物を持って、山を登り始めた。


「ヘイズ卿、これでは危険で残りの作業が出来ません。完成まで立入禁止にしてください」

「いま、軍に要請を出したところです」

 スレブは宗教国とは言え、一応は軍も持っているようだ。十字軍では無く三角形を書いてお祈りするので、トライアングル軍とでも呼ぶべきなんだろうか?


 立入禁止になるまで、一日休みにして、仕上げの作業を再開した。台座にアルミ製のドーム屋根を付け、展望台や周りを整備して手すりや階段を付ける。

 植木を植え、ベンチを置いたら公園らしくなった。巨大な聖母像のようなメスカリ像が山の上に完成した。

 遠目からは、子供を抱いて銀色に輝く雲に乗った白い女神像に見える。抱いた子供や民衆を慈しむようなその表情に人々が好感を持ち、慕われることになる。

 この山は後にペンテコステ(降臨)の丘と呼ばれるようになり、スレブの聖地の一つになった。


 八人の枢機卿と教皇の満場一致のお墨付きが出、裕介とビスタルクはスレブの恩人となった。

 その感謝の印として、スレブ名誉国民に認定された。枢機卿の選挙権を持つ他、望めば枢機卿にも立候補出来るそうだ。当然、税金は要らないらしい。

 実のところは、別にどうでも良かったのだが、くれると言うものはありがたく頂かないと、角が立つ。


 すると、それを聞きつけたロン王が、裕介とビスタルクを取られまいと、アルバスも名誉国民に認定すると言い出した。スレブのは貰って、アルバスのは要らないとは言え無いので、裕介は二つの国の名誉国民となり、二つの国で税金免除となった。


 と言っても、身内が政府首脳を務めるベイグルを抜けるわけにもいかないので、税金免除は絵に描いた餅でしかない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ