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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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158 釣り堀工事

 宮廷管理官のピクルスがやってきた。御庭番というヤツなのだろうか?

 大まかな説明と指示を聞いて、図面で話すよりも現地で見た方が早いだろうと、王も入れ数人で中庭に移動する。広く綺麗に手入れの行き届いた、中庭だ。都合の良いことに川が流れている。しかも川の出口は外で滝のようになっているそうで、掘り下げても大丈夫そうだ。


「ここですが、どのくらいの規模にいたしますか?」

「どうせなら、広い方が良いの。面白いなら皆で楽しめば良いではないか」

「王宮出入りの者に開放されると?」

「そうじゃ。余一人だけで釣るよりは、大勢で競い合うくらいの方が楽しいぞ」

「それは、良いお考えにございます」

 王とピクルスの意見は一致したようだ。


「アペリスコは雨の日が多いので、雨の日でも釣れるように屋根を設置した方が良いかもしれません」

「おぉ、そうじゃの! 思う事があれば何でも言ってくれ」

「池の深さは最大四メルくらいですかね? 池の周りも釣り場になりますが、中央に島を作り、放射状に四本の桟橋を付けてそれに屋根を被せましょう。桟橋はアーチ橋のようにすれば水は素通りします。長さ五十メル、幅二十五メルの池で、桟橋も釣り場にすれば五十人くらいは釣れますかね?」

「大きいですね。そりゃ大工事だ!」

 ピクルスが言う。


「いや、一日もあれば、私がやっちゃいますよ」

「なんと?! 一日で、それだけの池を作ると申すか?」

「ええ、私は土の勇者ですから、魔法でチャッチャと作っちゃいますよ」

「マジかぁ~? ユースケ?!」

「マジです。しかも大魔法使いが二人もいるんですよ楽勝です」

 なんと軽い王だ。こちらまで軽くなってしまう。ビスタルクと気が合うはずだ。ピクルスはもっと驚いている。


「じゃぁ、明日工事をしましょうか? ピクルスさん、今日のうちに池の範囲の線引きは出来ますか?」

「もっ、もちろん。今から宮廷管理職総動員で行います!」

「いやぁ~、ユースケ、お前は面白いな! ずっと、ここにいろ!」

「そういうわけにはいきませんよ、ロン。家ではお腹の大きな妻が待っているんですから。早く帰らないと」

「うー、残念だ!」

 なんというか、人懐こいというか、人たらしというか、愛嬌のある王様だ。アペリスコがのんびりしているわけだ。


 晩餐会は、釣り堀の話しで持ち切りになり、王族はもちろんのこと、大臣たちや兵士たちまで盛り上がっていた。アルバスの王宮は、こういう娯楽にかけては身分の隔てのない開放的なところのようだ、王の人柄のお蔭なのだろう。いつだったか海野が言っていた、名君の存在する絶対君主主義の方が民主主義よりも幸せな場合もあるという話は、あり得るかも知れないと裕介は感じた。


 さて、工事だ。先ずは樹木の移動から行う。移動場所に魔法で穴を明け、土ごと切り取って空間魔法で樹木を移動させた。次に川を堰き止めてもらい、池の大枠と桟橋、島の部分を石化して固める。

 入り口の川の部分は、別の池のように膨らませ、浅瀬にした。ここをビオトープのようにしてヘラの産卵場所と稚魚の生育場所にする

 島は正八角形、桟橋はその正八角形の一辺の幅で、二メートル半ほど、腰掛けれるように端が一段下がっている。細かなところは、仕上げで行えば良いので、とりあえず縁取りの基礎固めだ。


 便利だったのは、ビスタルクに教わった空間置換だ。元々裕介が、土魔法の気化だと思ってやっていた魔法なのだが、固体を発泡スチロールを切る様に好きな形に切り取って、空気と入れ替えることができる。アーチを抜いた様に線さえ引けばさっくりと切り抜ける。だから裕介の工法は、固めて切り取るという具合だった。


「屋根はどうやって作るつもりかの?」

 そこまで黙って見ていたビスタルクが裕介に尋ねる。

「そうなんだよ。いつものように型を作って、溶かし固めようかなと思っているんだけど、円柱で柱を作りたいのだけどな」


「なら、こう言うのはどうじゃ?」

 ビスタルクは地面に円を描くと、土砂を浮遊魔法で運び始めた。見る見る、運ばれた土砂が地面の円の形で積み上がって行く。

「すげぇ、どうやってるんだ?」

「地面に描いたイメージで、空間の枠を作ってそこに流し込んでいるだけじゃ」


「空間魔法にはそんな使い方もあるのか?」

「トンネルを抜くのと同じじゃ、空間の仕切りを作りその中のものを入れ替えるのじゃから、お前のやっておるトンネル作りの方が、高度な使い方なんじゃぞ」

「そうかぁ〜、ありがとう爺さん!」

「フォッフォッフォッ、弟子になる気になったかの?」

「ならねぇよ!」


 やはりビスタルクは教え上手だと裕介は思う。裕介は地面に円を描き直ぐに出来るようになった。

 柱を十六本作り、材質をアルミに変える。ピクルスに五メートルごとで桟橋中央に柱を立てる目印を付けてもらい、穴を開け浮遊魔法で運んで次々と柱を立てた。梁を取り付け、アルミの薄板で屋根を被せる。屋根端の真下に人が座るので、雨水は中央に集まるように緩いV字型にして、中央の島の屋根と繋いだ。


 無機質な駅のプラットホームのような、桟橋が完成した。まぁ、こんなものかな。前の世界では特に珍しくもない何処かで見た事のあるような構造物だ。

 ところが、王を始めこの世界の人々には、近未来の前衛的な構造物として映ったようだ。

 素晴らしい! と大絶賛の嵐だ。まだ工事中であるにも関わらず王宮にいた演劇や、コンサートの演出家と言う人達が挙って見物に訪れ、裕介の工事の手が開くのを待っている。そう言えば、アペリスコはこう言った芸術の盛んな街だった。

 ヘラ釣りの池で、コンサートや演劇をするつもりだろうか?


 裕介は池の部分に取り掛かる。こっちは、サクサクと進み、排水溝を底につけて水門を作る。地上にハンドルを付けてバルブ操作が出来るようにした。

 これで完成だ。


「じゃあ、水を流してみてください」

 裕介の掛け声で、川の水門が開かれる。水が池に入り始めた。このまま放っておけば二、三日で池に水が満たされて、オーバーフロー部から流れ出すようになるだろう。

 アルバス王宮の、中庭釣り堀の完成だ。

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