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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
157/294

157 ロン

 アルバス城はオスタール城よりもかなり広く、調度品も豪華だった。国の豊かさの象徴だろう。

 とは言え、裕介達に許されるのは、謁見の間とそこまでの通路だから、城の大きさなどは全く関係ない。相変わらず、アペリスコはゆったりとした時間が流れていて、昼寝の時間があると言うのは暑いところでは仕方がないのかも知れない。

 朝十時の謁見となると、前日から宿泊しておかないと仕方ない。しかも謁見の夜には晩餐会があるそうなので、最短でも三日かかる事になる。


 アルバス王は、年のころ、四十歳ってところだろうか? 実にのんびりとした感じの人だった。見ようによっては、ポーッとしている様にも見える。

「そちらが、あの巨大魚を釣った者たちか?」

「左様にございます、王様。土の勇者ユースケ・カワハラ殿と大魔法使いのビスタルク、グィネヴィア夫妻にございます」


 側で、大臣らしい人が紹介してくれる。国によっては、王との直接の会話は御法度と言う国もあるらしいので、どうしたものかと悩む。


「ビスタルク、グィネヴィア、久しぶりじゃのう? 未だ生きておったのか?」

 突然、王は立ち上がるとスタスタと王座から降りて来て、どっかりと絨毯に腰を下ろして立膝でビスタルク達の前に座った。

「なっ?!」

 戸惑ったのは裕介である。

 初見のポーっとしたイメージはなんだったのか?


「フォッフォッフォッ、そう言う王もしばらく見ぬうちに随分とお太りになられた」

「もう、退屈で退屈で、死にそうな日々を送っておる。そちとの勝負は何勝何敗だったかな?」

「フォッフォッフォッ、ワシの八十七勝ゼロ敗ですじゃ」

「えーっ?! 二勝はしただろう!」

「アレは王のズルですから、ワシの不戦勝ですじゃ」

「ちぇっ」


 どうやら、ビスタルク夫妻と王は旧知の間柄のようだ。しかも、かなり親しそうだ。

「昔、ちょびっと王の魔法指南をやっていた時があったのじゃよ」

「この人に王宮仕えが務まるわけないでしょ? 途中で逃げ出したのよ」

 一度引き受けて逃げ出すって、何やってんだよ爺さんと裕介は思う。国王相手でも自由というか、全くいい加減な爺さんだ。


「さて、そちがユースケか?」

「ハハっ!」

「そう畏らまずとも良い、ビスタルクの弟子であれば余と兄弟も同然、自由に致す事を許す」

 いや、弟子じゃねぇよ! と裕介は思うが、ビスタルクに華を持たせてやることにした。その方が都合が良さそうだ。


「釣ったと聞いたが、どうやって釣った?」

「では、ルアーをお見せ致します」

「普通に喋って良い。今後、余のことはロンと呼ぶように」

「ロン… ですか?」

「そうじゃ、ローデンバーグを略してロンだ。余はそちをユースケと呼ぶ」

「オッケー、ロン。これがルアーと言うものだぜ」

 心の中で言ってみる。なんだか、慣れないのでアメリカのテレビショッピングのようになっている。しかも、会話は部屋の隅っこにいる人が筆記して記録を残している。非常にやりにくい。


「ほぉ〜、これは白鳥のつもりか?」

「そうです。怪魚が白鳥を丸呑みするって聞いたので、白鳥を真似てみました」

「ブサイクな羽根じゃの?」

「これで水圧を受けて、魅力的な動きと音を立てます」


「音で? 魚に耳があるのか?」

「耳はありませんが、耳の代わりをする器官が幾つか付いています。水中は音が通り易いので、人間よりもよっぽど聴こえているんですよ」

「ほう、ユースケは物知りじゃの」

「転移者ですから」

「そうだったのか、転移者か。苦労したのだのう」


「して、釣りと言うものに興味があるのだが、面白いのか?」

「面白いです! 色んな釣りがあるので、きっと王…ロンにも、気にいる釣りがあると思います」

「そうか! しかしな、余が動くと大勢の供が付いてくるからな。魚がそんなに耳が良いのなら、一発でバレてしまうな」

「では王宮に釣り堀を作られてはいかがです?」


「魚を釣るための池です」

「放した魚を釣って面白いのか?」

「それが、面白いんです。食べるためではありませんよ、あくまででもゲームとして楽しむものですから、釣った魚はまた池に戻します」

「ほう。もっと詳しく教えてくれぬか?」


「はい、パイロン川にはヘラブナという草食性の魚が生息しています。王宮の中庭かどこかに池を作ってこの魚を放流するんです」

「ヘラブナ? 聞いたことがないな」

「食べないので、市場には出回りませんから。幸い、アペリスコではカレンという女性が、百年前にアベ・カンゾウという転生者が伝えた、このヘラブナ釣りの竿や道具を作り続けています」

「アベ・カンゾウの話しは知っておるが、それを余の城下で作り続けておったか?」

「はい、但し今はカレンはベイグルに修行に行っておりますので、戻ってくるのを待たなくてはいけませんが」

 

 そう言いながら、裕介はアイテムボックスから、カンゾウ竿とヘラ釣り道具を取り出し王に見せた。

「ほう! 綺麗じゃの」

「そうです。伝統工芸のようでしょ? カレンはこの道具が釣りに使われないことを、悲しんでおりました」

「それを余に広めろと?」

「いや、そうは申しません。ロンがヘラ釣りを実際にやってみて、面白いと思われれば自然に真似をする人は出てくるでしょうが、やればやるほど面白い釣りであることは、私が保障します」


「いいなぁ~! 実にいいぞ、ユースケ! そういう事を余に進言してくれるものが余の周りにはおらんのだ。これからも、是非、懇意に頼む。で、その池とヘラブナは、ユースケに頼めばなんとかしてくれるか?」

「良いですよ、場所を提示していただければ、私が池を御作りして魚を放流し、僭越ながらご教示いたしましょう」

「これは楽しみだ! 宮廷管理官を呼べ!」

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