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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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154 マッチザベイト

 その日スレーブルマスは、群れていたのか調子良く釣れ、裕介とビスタルクはそれぞれ二匹づつ釣れたので、久しぶりにモスカの漁業ギルドに売りに行く事になった。

 漁業ギルドに入ると早速モゾルカが近付いてくる。


「ふん、今回は小せえな」

「フォッフォッフォッ、釣ったでの」

「嘘つけ! こんな大物に耐えれる釣り糸があるか!」

 あるんだけどなぁ〜 と裕介は思うが、モゾルカが面倒臭いので、裕介は黙っていた。


「今日は、金貨二枚ってとこだな」

 スレーブルマス四匹で金貨二枚。三メートルで銀貨三十枚のピストーリクと比較すると、高価だと言える。

「悪くないなぁ〜」

「付き添いのくせに大口叩くじゃねぇか?」

「フォッフォッフォッ、誰が付き添いじゃ。どちらかと言えば、ワシの方が付き添いじゃぞ」


「あくまでも釣ったと言い張るわけだな?」

 いや、そんな事どうでもいいんだけどな。と裕介は思う。しかし、モゾルカはこの魚が釣られたと言うのを認めたくないようだった。もしかすると自分に出来ない事を、若い裕介が出来るということを認めたく無いのかも知れない。


「このスレーブル湖にはよぉ、六メルの怪魚がいるって言うんだ」

 突然、モゾルカがそんな事を言い始める。

『出た! スッシー来ました!』

 裕介は、可笑しくて仕方がない。


「何をにやけていやがる! 釣ったと言うなら、そいつを仕留めてきやがれ!」

 無茶苦茶な言いがかりだ。何で自分がそんな事をしなくちゃいけない義理がある? 裕介は頭ではそう思うが、怪魚ハンターとしての心は反対の方向を向いていた。


 怪魚がいるのなら、釣ってみたい。


 別にモゾルカに認めて欲しいわけじゃ無い。自己顕示欲でもない。釣らなければいけない義理も無い。ただ、誰も釣ったことが無くて、それが釣れる魚で、そんな魚が近くにいるのなら、是非、釣ってみたい。


「それは、具体的にはどういう魚なんですか?」

 裕介は、既に釣るための情報収集に入っていた。

「ほほう」

 モゾルカは、顎に手を当ててニヤリと笑う。

「何人もの漁師が、船の下をその魚の影が横切るのを目撃している。漁師連中に聞いてみるこった。そうだ、白鳥がその魚に丸呑みされたって話しも聞くぞ」


 この世界の白鳥は、地球のものより少し大きい。それを丸呑みするのなら、確かに六メートルには信憑性がある。しかも、渡鳥の白鳥を丸呑みしたと言うことは、この季節そいつは水面近くで活動している事になる。

 水面付近の水温が一番下がる冬のこの季節、水面付近をうろついているとなると、低水温を好む魚。つまり鮭科の魚が濃厚だ。鮭科の大型魚で肉食魚となると、やはり馬鹿でかいイトウと言う線が濃いと裕介は思う。


 アイヌには、熊を丸呑みして喉に詰まらせて死んだイトウの伝説が残っていると言うのを、裕介は思い出した。それに比べりゃ六メートル。足の生えたサメや、十五メートルのスッポンがいた世界だ。むしろ、小さいくらいだ。


 実は、裕介はズールやスッポンの時に、セフィアが魔法でルアー操作をしていたのが、羨ましくて仕方なかった。今は空間魔法で操作出来るようになったし、やってみたい!

「どの辺りでの目撃情報が多いですか?」

「若いの、狙う気かい? ロマンだよなぁ〜! カダラ灯台の北側での目撃情報が多いぜ」

 モゾルカは、半笑いでビッと親指を立てた。


「本気でそんな魚を釣る気かの?」

 帰りの船中で、ビスタルクが聞く。

「釣れる竿もラインも無いから、魔法でだけどな」

「ほう! 魔法で釣るのか?」

「セフィアと二人では、釣った事あるんだけど、今回は一人でやれそうだから」

「ほう! それは見ものじゃ、わしゃぁ見物させてもらうとしよう」


 島に戻った裕介は、石をアルミに変えてなにやら作り始めた。未だビスタルクのように空間でものを作る事は出来ないが、粘土細工なら得意だ。

「それは白鳥かの? 上手いものじゃが、羽根が無いのう?」

「それが、このルアーの肝だよ」

 裕介は中が空洞になった白鳥の胴体に、大きく広げた羽根をシャフトを通して取り付け、板バネで固定した。


「よし、テストしてみよう」

「羽根を付けたら白鳥らしく無くなってしまったが、それで良いのか?」

「ルアーは、見た目も大事だけど、動きが大事なんだよ」

 水面まで飛ばして、魔法で動かせてみる。

 ヨチヨチと言う感じで、左右に大きく張り出した羽根が水圧を交互に受け、右に左に傾きながらこちらに寄ってくる。


「うん、いいんじゃないか? クローラーベイトって言うルアーなんだ。普通は、虫とか小魚を模倣するんだけど、今回は白鳥を食ったって言うんで、白鳥だな」

「こんなもの食うかの?」

「どうだろうな。一応はマッチザベイトって、食ってるものに合わせたルアーだけどな」


 フライフィッシングなどでは、ストマックポンプと言う道具で釣れた魚が食べているものを調べて、それをイミテートしたフライをチョイスする。

 ルアーも同じで、食べている小魚の大きさに合わせたルアーをチョイスする。これが裕介の言うマッチザベイトだが、今回はそれが白鳥だと裕介は言っているのだった。


「じゃ、セフィアに魔法陣を焼き付けてもらって、鉤を付けるよ。その前に船をホバークラフトにしとかないとな」

 白鳥型のクローラーベイトをアイテムボックスに仕舞うと、代わりにアウトリガーを取り出して、浮遊魔法で運び、船に取り付けた。


「じゃ、爺さん明日の朝マヅメを狙いに行くけど、行く?」

「もちろんじゃ、明日はグィネヴィアも誘ってみようかの」

「釣れるかどうか、分からないぞ」

「フォッフォッフォッ、それは仕方ないじゃろ」

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