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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第四章 湖の家
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153 スレーブルマス

「だいぶ大きくなってきたな」

「このごろ、よくお腹を蹴るんですよ。狭くなってきたんでしょうかね」

「早く生れないかな?」

「早く生れすぎると、それはそれで困ります」


 ペルテ島の家の陽だまりの中で、揺り椅子に座って子供の衣服を縫っているセフィアの側で、裕介は子供用の釣り竿を作りながらそんな話しをしている。

 確かに、セフィアが言ったとおり、この島の環境は子供を育てるのにとても良い。アルバスの南側と比べるとかなりカラッとした気候で、雨季もないらしい。そのくせ、水は豊富にあるので適度に湿度があり気温も安定している。湖畔の街ほど寒暖の差はなく、過ごしやすい土地だ。


「ユースケ、今日も釣りに行こうかの!」

 ビスタルクが釣り竿を持ってやってきた。現在、カツオの一本釣りに大ハマり中だ。

「じゃぁ、あなた。行って来てください。お腹の子がカツオマヨネーズを食べたがっています」

 いや、それはセフィアお前だろ? と裕介は思うが、口に出さずアイテムボックスを持って立ち上がる。

「じゃぁ、行ってくるよ」


 裕介とビスタルクは桟橋に接岸したミセスセフィアに乗り込むと、軽快に湖面を走りはじめた。

「爺さん、今日は何処のポイントに行ってみる?」

「わしゃぁ、先日良かった、パルツ島の沖合が良いと思うがの」

「あそこかぁ、よし、わかった」

 最近はビスタルクも、湖の中に魚が回遊するポイントがあることが分かってきて、ポイントが指定できるようになってきている。もっとも、薄く魔力を張り巡らせて、ソナーのようなことをしているので、湖面のナブラなどは把握できているようだ。ほどなく、そのポイントに到着した。前方で小魚がカツオに追い上げられて湖面に沸き立ちナブラが立っている。


「じゃぁ、爺さん頼む」

「任せておけい!」

 ビスタルクは手を翳すと、湖面に水魔法で雨のようにシャワーを降らせ始める。裕介が教えた、カツオの一本釣りに使う手法だ。湖面の沸き立つナブラを散水によるダミーで再現しカツオの食い気を継続させる。

「じゃ、釣るぞー!」


 船の両サイドに座った裕介とビスタルクは、船を進め散水を続けながらカツオの群れの中を進み、竿を振る。二人共魔法を使いながら竿を振るのだから器用なものだ。ビスタルクに言わせれば、これも修行の一環らしい。


 初めは、なかなか釣れたカツオを鉤から外すことに手間取ったが、最近は慣れたもので、二人とも釣り上げると振り返ることもなく、竿とラインのたわみで、船上でバーブレスの鉤を外し、返す刀のように湖面に打ち込む。一流しで、二十本近くのカツオが、船の上で跳ねている。


 一流しが終わると、ビスタルクがカツオごと、大きな氷の塊にして持ち帰る。水魔法のフリーズという魔法なのだそうだ。大魔法使いが一緒にいると便利なものだ。

 あまり沢山取り過ぎても、裁くのが大変なので、いつもこれくらいにしている。ビスタルクには丁度いい、散歩がわりの運動と魔法訓練なのだそうだ。


 船から氷塊ごと調理場まで、浮遊魔法で運ぶと氷を昇華させてカツオをクリーンナップする。

 捌くのは裕介の仕事だ。手際良く、頭と内臓を落とし五枚に下ろして皮を剥ぐ。鰹節にする分の腹側の身はハラモという脂身も取る。手際が良くなり、今では三分で一匹捌くほどになった。


 鰹節の分は沸騰しない程度のお湯で一時間ほど煮立て油を落とす。タタキの分は串に刺して、藁を燃やして炙る。タタキは簡単で、これで切れば調理完了だ。ほとんどの分を鰹節に回すが、もう随分とストックがたまっている。幾らかはベイグルに送ったが、それでもほぼ毎日釣ってくるので結構な量が鰹節保存庫にはストックされていた。


 ペルテ島には、ウサギや鹿もいて肉にも困らない。牛も飼っていて、ミルクやバターもグィネヴィアが作っている。乳製品や小麦粉、米は、エルフの厳しい賞味期限からは除外されているようだ。

 それなりに大きさのある島なので、人家が二軒だけだと寂しいくらいだ。ビスタルクが暇潰しに作ったダンジョンもあるそうだが、裕介は勧められても潜る気にはなれなかった。


「たまにはカツオ以外も釣ってみたいな」

「そうじゃの。旨いがちょっと飽きてきたでの」

「違う釣りをやってみるか」

「そうじゃの」


 裕介とビスタルクは、今日はジギングをしてみることにした。

「爺さん、これがメタルジグっていうルアーだ。鉛の塊だな。これを底まで落として、しゃくり上げてまた落とすを繰り返してると食ってくるんだ」

「ほう、こんな鉛の塊を餌と勘違いして食ってくるのか? 魚もバカじゃの」


 実のところ、このジギングという釣りはかなりの重労働だ。百グラムもあるメタルジグを、鉛直に沈め、それをしゃくり上げてまた沈めるを繰り返す。

 親指の手の皮は剥け、マメになり、タコになる。そういうハードな釣りなのだ。この百歳を超えるビスタルクに本当に出来るのか、裕介はいささか不安だった。


 ところが、ビスタルクは事もな気にひょいひょいと竿をしゃくっている。全く、この爺さんはどういう鍛え方をしてきたのだと、裕介の方が舌を巻いた。


「フィッシュ オンじゃ!」

「それ、デカくないか?」

 重いメタルジグをシャクっても出ない程度に設定したドラグが、やすやすと引っ張り出されている」

「フォッフォッフォ、そのようじゃの」

 ビスタルクは余裕である。きっといざとなったら、魔法で取り込んでやろうと思っているのか、ひょっとすると既に魔法を使っているのかも知れない。


「デカっ!」

 船縁に寄ってきた魚を見て、網を構えた裕介が思わず叫ぶ。二メートル近くあるのではないだろうか? 亜湖の釣ったイトウに似た魚だが、少し違う。

「なんだろう?」

 裕介は首を傾げる。大きさから言えばイトウに間違いないが、模様が違う。


混合種(ハイブリッド)かなぁ?」

 鮭科の魚のハイブリッドは、日本でも確認されていて、ニジマスとヤマメのニジメだとか、イワナとヤマメの川サバなど、水産試験場や自然交配でも存在している。

 これは、ニジマスとイトウのハイブリッド? と裕介は思った。


 大昔にこのスレーブル湖に陸封された、ニジマスとイトウが交配を重ねていてもなんら不思議はないのである。

「爺さん、コイツはスレーブルマスって呼ぼう」

 裕介は、スレーブルマスの名付け親になった。

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