151 大魔法使い
ちゃんと確認出来たら裕介に報告しようと、ワクワクしながら楽しみにしていた。
裕介はどんな反応を示すだろうか? これからどうしようと言ってくれるだろうか?
待ち望んだ、赤ちゃんを孕ったと言う報告は、妻として一大イベントであり、夫婦の大切な儀式でもあった。
それを、このクソジジイ!
セフィアは、ハゲ頭に爆裂魔法をくれてやろうかと思う。
パーン!!
グィネヴィアがビスタルクのハゲ頭を思いっきり叩いた! 見事に手形が赤く残っている。
「っつぅ! なっ! 何をするんじゃ?! グィネヴィア! 一瞬、あの世が見えたぞい」
「あなたって人は! 百年も生きて、どこまで軽いの?!」
「何がじゃ?」
「そう言う事は、分かっていても言うもんじゃないの!」
そう言われてセフィアを見ると、泣きそうな顔をしている。ビスタルクは、またやらかしてしまったと反省したが、後の祭りである。
ビスタルクほどでは無いが、こう言うことには裕介も鈍い。案外、裕介とビスタルクは似たもの同士なのかも知れない。
「何でだ? どうして旅が出来なくなるんだ?」
「はっきりしてから話そうと思っていたのですけど、どうやら赤ちゃんが出来たみたいなんです」
セフィアが腹をくくって裕介に話す。
「へっ? 赤ちゃんって… 俺のか?」
「あなた以外に誰の子がいると言うのです!」
「ほっ! 本当か? 俺の子供が?! 俺とセフィアの子供が?!」
セフィアは、嬉しそうに俯いて頷く。
裕介は、思い余ってセフィアを抱きしめた。
「ありがとう! セフィア! そうか! 子供が出来たのか!」
「あなた! 痛い!」
「おぉ! すっ、すまない!」
「そうか?! どっちだろうな?」
「まだ、気が早いですよ」
「すまんことをした。ワシは放浪生活のせいか、人の気持ちに疎くてのう。大事なことだったのに、つい口が滑ってしもうた」
ビスタルクが頭を下げる、根は良い人のようだ。
「仕方ありませんよ」
「ごめんね、この人は鈍いっていうか、軽いって言うか、こんな年なのに、お調子者なのよ」
グィネヴィアも一緒に頭を下げる。
「いえ、いいですよ。いずれ話すことでしたから。頭を上げて下さい」
「ワシらには子供が出来なかったでのう、こんなめでたい話しは初めてで、舞い上がっておった」
「大魔法使いになると、お腹の子供まで分かるものなのですか?」
「周囲十キロくらいは、魔力を薄ぅく張り巡らせておるでの。お前さん達が、島に近づいた時からわかっておった」
「そうね。土の勇者と魔法マエストロ、黒龍の匂いとお腹の子の事もね」
「じゃあ、グィネヴィアさんも大魔法使いなんですか?」
「ワシらは同じ師匠の元で、一緒に修行をしておったからの。グィネヴィアは精霊魔法も使うぞい」
「凄いですね。大魔法使いで精霊魔法もなんて」
セフィアがグィネヴィアに、さすがはエルフだと感心する。
「あなた達の十倍は、長く生きているからね」
「精霊魔法って、普通の魔法とは違うのですか?」
「えぇ、精霊にお願いするのよ。だから魔力は使わないの。天候を操作したり、呪いのような穢れたものを浄化したりね」
「そうか、そうか。子供が出来たか! ミリムに報告しないと。名前はどうしようかな…」
裕介は、セフィアとグィネヴィア達の話しはそっちのけで、幸せそうな顔をしてブツブツ言っている。今は、他の話はどうでもいいようだ。
「大魔法使いと魔法マエストロは具体的には、どう違うんです?」
「大魔法使いは、全属性の魔法が使えて、それらを組み合わせて新たな魔法を生み出す事が出来る、魔法創造者ね」
「魔法マエストロも全属性を使うことが出来る魔法使いだけど、組み合わせ魔法が使えないの。組み合わせるには、その組み合わせる属性の魔法を極めないと無理なのよ」
「グィネヴィアの言う通りじゃ。例えばユースケ君が聞いておった魚を獲る方法じゃが、金魔法で檻のような網を作っての、それを闇魔法で隠して動かし掬いとるのじゃ。魚にはバレりゃせん」
「なるほど」
「闇魔法で隠しながら動かすという同時操作がマエストロでは難しいじゃろ?」
「そうですね。隠すか、動かすかどっちかですね」
「慣れてくると、土魔法と闇魔法の組み合わせで、型を作らなくても加工できるようにもなるぞ」
庭の石が、ヒョイヒョイと持ち上がり、粘土化されて柔らかくなると空中で捏ねられ、伸ばされリーズの花の形になった。残念なことに恰好は歪で不細工なのだが、遠目で見ればリーズと分かる。
「ははは、ワシは造形の才能がなくての、まぁ、こんなものじゃが、こういう魔法が使えるのが大魔法使いというものじゃ」
「すごい!」
セフィアは、ビスタルクの使った魔法をみて、思わず声を上げる。それよりも食い付いたのは、子供が出来たと呆けていた裕介だった。
「こんな魔法が使えたら、やりたい放題じゃないか」
「そうじゃ、やりたい放題じゃ。どうじゃ? 修行してみぬか?」
「うーん、しばらく子供を育てるのに、何処かに定住するのなら、ちょっと魅力を感じて来たな」
「そうじゃろ? そうじゃろ?」
「いや、もちろんセフィアやステラと相談してみてから決めることだけど、スレーブル湖は広過ぎて簡単には釣りも終わりそうにないしな」
「ワシの修行は厳しいぞい!」
「なんだよ。自分から誘っておいて、別に定住して子供が大きくなるまで、釣りをしててもいいんだよ」
「そんな事を言わないでくれよう。ワシは子供の顔が見たいんじゃ」
「でもな、セフィアを泣かせるような爺さんを師匠とは呼べないしな」
「あはは! そりゃぁ、こんなお調子者を師匠とは呼べないだろうね。でも、あなた達さえ良ければ、この島なら安全に子供を育てられるから、家を建てて良き隣人としてならどうだい?」
グィネヴィアが別の提案をしてくれる。
「あなた。魅力的なお誘いだと思います。小さな子を育てるのには、とても良い環境だと思いますよ」
「セフィアがそう思うのなら、俺は何処でもいいぞ」
「じゃあ、戻ってステラさんに相談してみましょうか?」
「そうだな、彼女がどう言うかだが、どの道、旅は
子供が大きくなるまで中断だしな」
「たぶん、俺たちは、そのうちまた出て行く事になるけど、それでも良いのかな?」
「もちろんじゃ、ワシとて後十年、生きておるかどうか分からんでのう」
「私は、この人がいなくなったら、エルフの里に帰るつもりだから、気にしなくていいよ」
こうして裕介とセフィアは、子供を育てるしばらくの間、スレーブル湖のこの島で定住する事になった。
これで第三章は終わりです。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
ストックが尽きましたので、第四章を始めるまでしばらくお休みさせていただきます。