15 サーズカル
四日後、俺たちはサーズカルに到着した。
デカイ!
これが俺の第一印象だ。第一連隊だけでも、八千人の兵士が生活しているのだから、デカくて当たり前だ。最前線だが、もう二十年もここにある砦だから、テントなどでは無く石積みのちゃんとした家が、それぞれの宿舎になっていて、これはもう街と言って問題ない。
この兵士の街が、高さ二十メートル程の城壁で囲まれている。これがサーズカルだ。
裏門を通ると、真っ直ぐに表門に行く道は無く、入り組んだ路地になっている。馬車が通れる太い道はあるのだが、何度か曲がらないと行けないようになっていて、しかも曲がり角ごとに常時開いた門がある。軒下の細い路地にもいくつかの門が設けられていた。
道は屋根の上にもあり、実はこの屋根の上の道の方が迅速に移動できる。路地が細いのは、屋根の上の道を通る時に、飛び渡って移動するためだそうだ。
もし敵兵が裏門から入り込んだら、全ての門を閉じて袋小路に誘導し、屋根の上から弓で攻撃して殲滅する仕掛けになっているのだそうだ。
だから、屋根伝いで行ける弓庫まで用意されている周到ぶりだ。つまりは、この砦都市は戦争のために作られた要塞都市なのだ。
表門の内側に、八千人の兵士が突撃して行く時に使われる広場がある。通常時、兵士はここで訓練をしたり模擬戦を行なったりするらしい。
対して、裏門から壁沿いに商店や、食堂、宿屋が並んでいる。これは敵兵の侵入があった場合には、いち早く非戦闘員を国内に逃すためなのだそうだ。
俺たちは、裏門で赴任手続きを済ませ、自分たちの所属部隊と兵舎の場所を教えられた。
それによると俺たちは、連隊長直属の外人部隊の別働隊になるそうで、海野さんが大尉、他の四人は中尉扱いで、そのままミステイクという名の五人編成の部隊なのだそうだ。宿舎も本部近くの士官クラスの宿舎で、部下はいないはずだ。
これは、新兵訓練所の所長から連隊長に先に連絡が行っていたそうで、我々が賢者と勇者の召喚者で編成された部隊だと連隊長が認識しての采配なのらしい。
まだ実践経験や戦歴もないため、連隊長が直属にして様子見をすることになったということだろう。なので、俺たち勇者四人の上官は、部隊長である海野大尉で、その上の上官はザイス・ホフマン連隊長ということになる。わかりやすくていい。
「海野大尉、着任いたしました」
「池宮中尉、同じく着任いたしました」
俺たちは、ホフマン連隊長の部屋を訪れて、それぞれに直に着任報告を行う。
「うむ、ご苦労。実際の任務は六月一日の着任式以降となる。それまでは、このサーズカルで実際に生活し慣れてくれ。ミステイクの世話係として、アリサ・グレッグ少尉を任命する」
「は! グレッグ少尉、拝命いたします!」
ボーイッシュな十七歳くらいの小柄な女兵士が一歩踏み出して敬礼をした。
「追って、ミステイクには任務を言い渡す。下がってよし!」
俺たちは、アリサのキュートで小さなお尻の後について、連隊長室を出る。
「アリサちゃんは、幾つなんだ?」
「十七歳です」
質問した亜湖さんをキッっと睨みつけ、怒ったように言葉を足す。
「自分は、軍人であります。ちゃん付けや名前で呼ばれるのは不快であります。グレッグ少尉とお呼びください、勇者アコ中尉」
亜湖さんは早速叱られている。
「すまなかった、グレッグ少尉」
アリサは真面目で純粋な兵士のようだ。
「グレッグ少尉は、軍生活は何年目になる?」
「二年目です。勇者カキヌマ中尉」
「いや、その勇者ってのは要らない。面倒くさい」
「わかりました。カキヌマ中尉」
「うん、いろいろよろしく頼む。一番年が近いのは、裕介だな」
あれ? 柿沼さん。今、グレッグ少尉のことを面倒くさいと思いませんでした? それで、俺にパスしましたか?
「うん、よろしくね」
「はい! カワハラ中尉」
「俺たちが勇者と賢者だというのは、もう聞いてるんだね?」
「はい、火風闇土の勇者と賢者だと聞いております」
「そうか、俺は土の勇者だ。金属製品なんかで困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
と言いながら、少しモジモジしている。何かあるのかな? また、後で聞いてやろう。
「ここが、皆さんの宿舎となります。お一人づつ部屋がありますので、何か足らないものがあれば、私にお申しつけください」
「ありがとう、キミの部屋は?」
「私は隣の女子宿舎になります。でも食堂は共用で、任務時間中は私は一階の食堂で待機しておりますので、御用の際は食堂におこしください」
「わかった。じゃぁ、任務は五日後からだということだから、それぞれ自由に過ごしてくれ、でも問題だけは起こさないように、今は試用期間みたいなものだからね」
と海野さんが、みんなにそう言って、解散し、俺は自分の部屋に入った。
ベッドと、タンスとテーブルだけの、ビジネスホテルのシングルみたいな部屋だった。勿論、冷蔵庫やテレビはない。
こうして、俺たちのサーズカルでの軍隊生活は始まった。