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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
145/294

145 頑固者

 本格的な雨季が始まった。毎日の様にスコールが降ったり、一日中雨だったりする。

 寝苦しい夜だ。スコールが降った後は少し涼しいのだが、一日中雨の日は兎に角蒸し暑い。雨戸を閉め切っていても、雨粒が部屋の中に落ちているのでは無いかと思えるほどの湿気に、布団もネグリジェもしっとりと湿っている。

 ステラは、薄いネグリジェに開放されたとてつもない、おっぱいを撓ませながら、あまりの寝苦しさに目覚めた。

「何が子作り強化週間よ! お陰でこっちは悶々としちゃうじゃないの!」


 なんだかんだ言っても、裕介は初めて会った時から頭から一時も離れない男だ。もしセフィアがいなかったら自分はどうしていたか、実際のところ自分でもよくわからない。

 その裕介が、今はセフィアと…

 あぁ、もう考えるのはよそう、今は兎に角眠ろうと思うが、悶々として眠れない。


 なんであんな男が気になるんだろう?

 彼には、あんな良い奥さんがいるじゃないか。これまで一緒に旅をしてきて、彼らの仲睦まじさはよく分かっている。入れる隙すらないことは頭では良く分かっている。


 商売、商売とは言っているが、ステラも健康な女子なのである。いつかは良い人を見つけて夫婦となって、などと夢見ている。この旅について来た事は後悔はしていない。パルージャ商会の支店の状態もこの目で確かめられたし、なんだかんだ言っても楽しい旅だった。仕事だと割り切っていたハズなのに、なぜこんなに苛立つのか?


 ステラは、ベッドサイドに置いた手鏡を見る。ブルケンで裕介が作った鏡だった。あれからずーっと肌身離さず持ち歩いている。

 ネグリジェを脱いで、その鏡に向かって露わになった胸を持ち上げてみる。くびれた腰、贅肉の無いお腹、必要以上に大きく、そのくせピンと上を向いた胸、それを支える細い肩。

「私って、結構イケてるよね?」

 ステラは、鏡に向かって問うのであった。


 一週間が過ぎた。裕介とセフィアは爽やかすぎる顔で、引きこもっていた部屋から出てくる。

「何をスッキリした顔で出て来てるのよ、もう!」

 目の下にクマを作って、苛立ちを隠せないステラは、食堂の隅でぶつぶつと独り言を言っていた。


 そんなステラの気持ちはつゆ知らず、裕介とセフィアは商業ギルドでミリムの手紙と、待ち望んでいた新たなラインを受け取っていた。

「アミル君に研究所をやらせて良かったなぁ〜」

「あなたが、そんなに喜ぶなんて、よほど良いものが届いたんですね?」

「うん! とうとうPEラインをアミル君が作ってくれた! サファイアラインの五倍の強度だぞ、セフィア!」


「ずーっと、あなたが欲しがっていたラインですね?!」

「そうだ、これがあれば、この間のバラマンディも三〜五号で獲れたんだ!」

「撚り糸なんですね?」

「そうだ、だからしなやかなんだ」


 お兄さん、お姉さんアルバスはどうですか?

 ミリムセイコウは、ベイグル国内で五店舗に増えました。ゲルト、ブルケン、エノスデルトに加えてサーズカルとリンゲにも店が出来ました。ラビル川で魚を釣る人達が少しづつ増えてきたからです。

 今、エスパール伯のお力を借りてエノスデルトに二つ目の工場を建造中です。

 最近、アミザからの注文が増えてきたので、それに対応するために近くに工場を建てたほうが良いだろうとの、エスパール伯のお言葉でそんな運びになりました。


 アミザから、バギラスさんの代わりに息子のキレト君がミリムセイコウに来ることになったのですが、子供一人でゲルトまで来るのは大変なので、この工場が出来ればアミザから近いのでこっちで勉強してもらおうと思っています。


 グレッグ研究所の方はアミル君が頑張って、所員が三十人になりました。今は樹脂研究も、サファイヤ樹脂とルビー樹脂、スラバールの三チーム、繊維研究で一チーム、総合研究の一チームの五チームに分かれて研究しています。

 アコセイサクショのテクニ社長もアミル君は、なかなかのやり手だと褒めてますよ。


 そのアミル君が、お兄さんが欲しがっていたPEラインを開発しました。ルビーラインというそうです。サファイヤラインの五倍もの引っ張り強度があり、伸びもほとんどないと言っています。

 まだルビースライムの数は安定していませんが、グレッグ研究所とパルージャ商会で作った、繊維会社のほうで量産体制の準備をしているところです。市販前の商品を送ります。お兄さんの方でもテストをお願いします。


 これぐれもお体だけには気を付けて。

 お兄さん、お姉さんにまた会える日を楽しみにしています。

                          ミリム


「これは是非ともテストをしまくって、報告しないといけないな」

「うふふ、ミリムちゃんもアミル君もキレト君も頑張っていますね」

「そうだな。ラビル川で釣りをする人が増えたって、少しづつでも釣りの楽しさが分かる人が増えてくれると嬉しいな」

「このルビーラインってのはPEラインと同じだとすれば、癖があってな、ライン自体の強度は強いんだが、その結束部は解けたり切れたりしやすいんだ。だから編みこむような結束方法が必要なんだよ」


「そうなのですか?」

「しかも、伸びがほとんどないから、魚がかかった時に反動を受けやすい。ラインが切れるだけじゃなくて竿が折れたりもするんだ。その為にリーダーという、先端に伸びが吸収できるラインを継ぎ足して使うんだ」

「なんでも強いばかりがいいとは限らないんですね」

「まぁ、人間でもそうだろ? 物腰の柔らかい人のほうが、友人は多いだろ?」

「うふふ、そうですね。頑固者には友達が少ないです」

「でも、頑固者には頑固者のいいところがあるだろ? だから物腰の柔らかい人が間に入ると、交友関係が増える。つまりリーダーってのはそんな役目だ」


「ステラにも、そういう人が見つかればな」

「うふふ、そうですね」


「なんか私の話しをしてた?」

「いや、何も言ってないぞ! グレッグ研究所で新しく出来たラインの話しをしてただけさ」

「頑固者とか、聞こえたんだけど?!」

「そのラインが異常に強くて、頑固者だって話していただけさ」

評価ポイントとブックマークをありがとうございます。いや、本当に嬉しいです。

頑張って書こうと言う気になります。

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