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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
144/294

144 バラマンディ

 裕介は、渾身の力で合わせを入れた。

 強い引きだ!

 昨日の魚に違いない。ラインが真っ直ぐに水中に向かい、竿が半月にしなり、ドラグが唸る。魚はシェードの中に向かい、それを阻止しようと裕介がロッドを寝かして強引に引きずり出しにかかる。魚は方向転換し、ボートの先端に向かって走る。


「だめだ、だめだ!」

 裕介は、右舷前方のアウトリガーの上まで移動し、竿先を水中につけ魚の走りを阻止する。魚は反転して船の下に移動しようとする。裕介はドラグを締め、アウトリガーの先端から身を乗り出すようにして魚を強引に引き回す。魚はそれに負け、再びボート前方に向かって突っ走る。締めたハズのドラグが出る。裕介はボート先端に戻ってきた。


 傍観しているセフィアとカレンからは、まるで裕介がボートの前の部分で踊っているようにも見える。もしラインが切れたら、裕介は水の中に落ちるのではないだろうか?

「あなた! 頑張って!」

「おう!」


 それにしても強い引きだ。太いラインでのカバー打ちで、ラインがそれほど出ていなかったこともあるが、ギガンテス孔雀の竿を折られるのかと思った。やっと魚と距離が取れたこともあり、やり取りらしくなってきた。どうにかリールを巻くことを許される。


 魚の引きは最初ほどでは無くなり、徐々に出されたラインの距離を詰めていく。

「よーし! 網を頼む」

 セフィアの構えた網に魚が入る。三人で引き上げる。

 でかい! 一見、ヒラスズキのような体形、大きな口、大きなエラ。一メートルは超えている。


「うん、たぶんバラマンディだな! 日本三大怪魚のアカメと同種の魚だ! 獲ったどぉ~!」

「おめでとう、ございます!」

「いやぁ~! なかなか見ものだったっぞ、ハラハラした。おめでとう!」

「ありがとう! たぶん、このあたりが、今のタックルの限界かもな。俺的には十分満足だ!」

 まだ手に感触が残っていて、思い出すと手が震える。


 こうして、裕介は念願の魚を釣り、カレンと共に過ごしたパイロン川釣行を終えて、アペリスコに戻った。


----------------------


「ありがとう、とても楽しかったぞ」

 釣行を終え、久しぶりにカレンの店に戻ってきた。

「こちらこそ、ありがとう。ほんとに楽しかったな」

「カレンさん、ありがとうございました」

「このカンゾウ竿は記念に持っていてくれ!」

「いいのか?」

「うん、ヘラ釣りの良さが分かる人間に私としても使ってもらいたい。ウキもみんな持って行くといい」


「じゃぁ、交換と言ってはなんだが、このタックルやルアーはカレンさんが使ってくれ」

「そっちこそ、いいのか?」

「もちろんだ。この世界で旅に出て初めて出来た釣友だからな」

「うれしいことを、言ってくれるじゃないか」

「それと、頼まれていたブロワーだ。大きすぎて使いにくいだろうから、ドライヤーも作っておいたぞ」

「おぉ、ありがとう」


「それでだ、私はしばらく店を閉めて、ベイグルのミリムセイコウに修行に行ってみたいのだが、紹介してくれないだろうか?」

「いいのか?」

「うん、ユースケ達と釣りをして、新しい釣り具や釣りの可能性を痛いほど感じたのだ。伝統工芸も大切だが、私としては使ってもらえる道具を作りたいのだ」

「ミリムには、俺たちの恩人として、釣友として詳しく伝えておくよ。カレンさんのタイミングで行ってもらえれば問題ない」

「ありがとう、恩人だなんて、それを言いたいのは私のほうだ」


「そんなことないですよ。ほんとに良くして頂きました」

「ははは、セフィア。ユースケを他の女に取られないよう、しっかり自分を磨けよ!」

「えっ?! 足りませんか?!」

「はっはっは! ほんとお前は可愛いよ。そのままでな!」

「がんばります!」


 こうしてカレンと別れた裕介とセフィアは、宿に戻り久しぶりにステラと再開した。

「おかえり、どうだった? 楽しめた?」

「ただいま、めっちゃ楽しかった。新たな商品も幾つか出来たしな」

「売れそうなもの?」

「どうだろうな? 山脈の南側では蒸し暑くて、雨季があるから売れるかも知れないな」

「ふーん、見せて」


 裕介はドライヤーを見せる。

「髪を乾かす道具? あなた達が作るものにしてはジミな道具ね」

「こっちでは急な雨で、服や髪が濡れる事があるだろう? 濡れた衣類も、雨が続くとなかなか乾かない。そうだな、ブロワーを箱の中に組み込んだ乾燥機とかを作ったほうが喜ばれるかもな」

「そうね。その方が売れるかも」


「他には?」

「カキ氷機だが、コレはあまり商売にはならないぞ。それより、スッポンパワーの方が凄いぞ」

「スッポンパワーって?」

「まぁ、どちらかと言えば医薬品だな。魔力回復薬」

「えっ?! そんなものがあるの?」

「あぁ、アレを食った日は眠れなくて大変だったんだ!」


「それが本当なら、結構な商売になるわよ。子供が出来なくて困っている夫婦とか多いから」

「えっ? スッポンを食ったら子供が出来るのか?」

「だって、男も女も魔力切れを起こすと子供が作れなくなるから、魔力回復薬はそういう薬になり得るじゃないの」

「そういうものなのかな?」


 この話しになると、セフィアが悲しそうな顔をしていた。

「あっ、セフィアさん、ごめんなさい。そういうつもりじゃ無いのよ」

「ん?」

 裕介もセフィアの様子を見て、やっと気付く。


「セフィアが気にする必要は無いぞ、子供は授かりものだから」

「でも… 人並み外れた魔力を持つあなたの子供が未だ出来ないのは、きっと魔力が無かった私の責任だと…」

「イヤ、気にすんなって。出来る時には出来るから!」

「でも…」


「分かった! じゃあ、今日から子作り強化週間だ! そう言う事で、俺たちしばらく釣りもやめて引きこもるから!」

「バカじゃないの?! 何を、これから、いたします宣言してるのよ?!」

 ステラが珍しく真っ赤になって、同意を得ようとセフィアを見る。


 ところが、セフィアは赤くなって俯き、嬉しそうな顔をしていた。

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