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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
143/294

143 カバー打ち

 マンジローブの森から離れ、数日前に立てたロッジに戻る。

「とりあえず、今日のところはムツゴロウとカニの料理だ」

 カニを茹でながら、フエフキダイを刺身に、チヌを塩焼きに、ムツゴロウを蒲焼きに、さっさと料理する裕介。


「相変わらず手際が良いな」

「料理が得意ってわけじゃ無かったけど、この旅に出て随分やったからな」

「ほとんど、魚ばかり食べてますもんね」

 セフィアが笑う。ベイグル育ちのセフィアは、どちらかと言えば魚よりも肉料理なのだろうが、いつも喜んで食べてくれる。


「それにしても、このカニは美味い!」

「私は、ムツゴロウよりもカニの方がいいぞ!」

「それは、カニの方が沢山釣れたからですか?」

「なんなら私の魚とセフィアのカニを交換してやろうか?」

「嫌です!」

「ほーら、セフィアもやっぱりカニの方がいいんじゃないか!」

 女同士で、サルカニ合戦のような話しをしている。


「まだ、切られた魚のことを気にしてるのか?」

「いや、気にしているというよりは、どうやって釣ってやろうかと考えている」

「あくまでも、前向きだな」

「そりゃぁ、そうさ。あのタックルでは無理でも、適正なタックルで挑んでいたら、取れない魚じゃなかった」

「じゃぁ、明日またリベンジすれば良いじゃないか!」

「まぁ、そういうことだ」


「なんとなくだが、魚が大きくなるに連れて、サファイヤラインの限界を感じるようになってきてるんだ」

「あのラインは、これまでの釣り糸では、あり得ないほど強いぞ」

「今日の魚も、十二号くらいなら取れないことはない魚だけど、十二号となるとルアーも大きなものが必要になるし、魚も警戒するようになる。第一、キャストで飛距離が出なくなる」

「ふむ」

「ジギングのようにバーチカルな釣りならそれでも良いのだけど、キャストゲームになると、やはり日本で使っていたPEラインが欲しいと思うな」


「そんなに強い糸があったのか?」

「あぁ、今のサファイヤラインの四倍は強度があったから、その分ラインを細く出来たな」

「それほどか?」

「元々、俺の作るリールや竿は、そのPEラインを使用するイメージで作ってるんだよ」

「竿や、リールの強度にラインが負けているってことか?」

「そんな感じだな。今、使っている竿やリールがそのレベルになったのに、ラインは進化していないって感じかな?」


「まぁ、無い物ねだりをしても詮無いことだ。明日は、強いタックルでリベンジすればいいさ」

「それしか仕方ないな」

「セフィア、旦那が落ち込んでいるぞ、慰めてやれ!」

「はひ?」

 無言でカニにムシャブリついていたセフィアは、カレンにそう言われて顔を上げた。


 翌朝、裕介達は再びマンジローブの森に船を浮かべていた。

「今日は取ってやるぞ~!」

「じゃあ、私たちは邪魔をしないよう見学していよう」

 ギガンテス孔雀のルアーロッドに、サファイヤラインの十六号、ベイトリールで今日は始める。

 ビレイオオナマズや、シャドーを取ったタックルだ。これが、今の裕介の最強タックルだ、これで切られれば仕方がない。十六号となると、シャープペンの芯よりも太い。モノフィラメントのラインだと直進性が強すぎて、釣りにならないほど釣り辛い。元々、ワイヤーの代わりのリーダー用として用意していたものだ。


「まるで石鯛釣りだな」

「石鯛って?」

「磯の王者って言われる魚さ。兎に角引きが強いんだ。この糸でも細いくらいの道具で挑むんだ」

「そんなに力の強い魚がいるんですね」

「そう言われば、そうだな。コレを泳ぐ力だけで、根に引きずり込んで切るんだもんな」


 今日はカエルの格好をした、フロッグをつけている。雷魚を釣るために作ったルアーだったが、結局使わなかった。今日は、マンジローブの中を積極的に狙っていくつもりなのだ。

 マンジローブの枝は水面の上、五十センチほどに大きく張り出して日陰を作っている。ルアーフィッシングでは、こういう場所をカバーといい、それによって出来る日陰をシェードと言う。カバーを積極的に狙っていく釣りを、カバー打ちといい、枝や浮草から落ちてくる餌を待ち構える魚に取って絶好の餌場であり、またシェードの影に潜んで小魚を襲うにも最適の場所である。しかも水温が上がった水中で、日陰は適水温を求める魚にとって絶好の避暑地でもある。


 裕介は、今日はこのカバーの下のシェードに潜む、昨日、裕介のラインを切った大物を狙っているのだ。フロッグというルアーは、トップウオータールアーなのだが、適度な重さがあり鉤が本体に殆ど隠れているため、こういったカバー打ちには最適なルアーだ。


 裕介はロッドをカバー目掛けてアンダースローで振る。フロッグは、水面をピッピッピと水切り石のように飛び跳ねながら、マンジローブの枝の下の隙間の最奥に入っていった。

「器用なキャストをするものだな」

「スキッピングって言うんだ。日本にいる時、結構練習したからな。カッコいいだろ?」

 裕介は、ルアーを目で追いながらニカっと笑う。

「うん、カッコいい。惚れてしまいそうだ」

「だっ! ダメですよ!」

「ははは、セフィアがいなけりゃ、アタックするけどな」

 カレンは笑いながら、セフィアを見る。


「スキッピングで女にモテるって、あまり聞いたことはないけどな」

「あなたは、モテなくていいんです!」

 そう言いながらも裕介は、次々と別のシェードの中にルアーを打ち込んでいく。セフィアもカレンも、しゃべりながら次々と場所を変えて打ち込んでいく裕介を見て、器用なものだと感心する。


 フロッグがカバー最奥に決まって、シェードを抜け出そうとした時だった。

 ボシュ!

 水面に波紋が立ち、フロッグが消える。

「フィッシュ オン!」

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