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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
142/294

142 ムツカケ

 三人で船の上から、ムツカケが始まった。

「じゃあ、勝負しよう! 魚が三点、他のカニとかが一点だ。一番点数が低い人が今夜の食事当番でどうだ?」

「いいぞ、私は負ける気はしないがな」

「良いですよ」

「そうだ、魔法は無しだぞ!」

「えっ?!」

 セフィアが涙目になっている。


「マンジローブが戻って来るまでだ。じゃあ、スタート!」

 みんな初めてなので、木の枝や違うものが引っ掛かる。

「へーん! カニ、ゲットぉ! 一点だ」

 やはり延べ竿の扱いは、カレンが上手い。

 ムツゴロウっぽいのは、鉤の落下音がすると、さっと穴に逃げ込んでしまう。地面スレスレに鉤を戻すのがコツの様だ。少し進んでは船を地面に下ろし、少しづつ干潟の帯を進んで行った。


「よっしゃ!」

 裕介が掛けた。

「えっ? カエル? 海水なのにカエルもいるのか?!」

「マンジガエルだな。マンジローブの森には結構いるのだ。こいつらは海水でも平気だぞ」

「へぇ~、珍しいな。で、カエルも一点か?」

「それはどうだろうか?! カエルは、小枝などと一緒ではないだろうか?」

「カエルは、マイナス一点でしょう!」

「えぇ~! セフィア~! 愛は何処へ行ったんだ?」

「ウフフ、勝負は非情なのですよ!」


 カニやシャコは結構釣れたが、未だ誰も魚は釣れていない。こうなると、誰が最初に魚を引っ掛けるかの方が、盛り上がって来る。

「私が八点、ユースケが六点、セフィアは三点か?」

「セフィアはカエルばっかり掛けていたからな。一時はマイナスポイントだったものな。まぁ、自分で言いだしたから、自業自得だな」

「ですね」

 愛のしっぺ返しは厳しい。負けず嫌いのセフィアが悔しそうだ。


「あっ!」

 セフィアが返した鉤が、偶然にも一度で二匹のムツゴロウを引っ掛けた!

「ふ〜ん。 一躍トップですよ!」

「魔法使っただろ?!」

「使ってませんよぉ、あれ? カレンさん、沢山釣ったのに魚は未だですかぁ〜?」

「クッソォ〜!」

 女の戦いは熾烈なのであった。


 コツを掴んだのか、セフィアが数を伸ばし始める。こうなると、誰もセフィアには追いつけない。一目でムツゴロウのいる位置を全て把握しているのだから、こんなところで瞬間記憶能力が生かされるとは誰も思っていなかった。

 結果、裕介が十五点、カレンが二十点、セフィアは三十五点だった。

「ダントツじゃないか!」

「食事当番は、俺かよ〜!」


 マンジローブの森が満ちてきて、干潟の幅がかなり狭くなったので船を高くまで上げて、森を飛び越え海側に出る。

「さて、海の方は何が釣れるのかな? ミノーで、やってみるか」


 ミノーと言うのは、魚の形をしたスリムなルアーだ。色々なタイプがあり、様々なレンジを狙えるが、今回はマンジローブの根っこに、根がかりするのが怖いので、フローティングタイプ。リールをゆっくりと回してルアーを引っ張ってくる事をリトリープと言うが、このリトリープを止めるとルアーが水面に浮かんでくるものが、フローティングミノーだ。


 水面下一メートルくらいまでを狙うルアーで、リトリープすると正面のリップで水圧を受けて、勝手に小魚らしいアクションをしてくれる。

 裕介は、二人にそう説明すると、お手本とばかりにマンジローブの根っこの際にキャストして、リトリープを始めた。


「おっ! 当たってる、当たってる! 何かが追って来てるぞ!」

 着水早々、ゴンゴンとルアーに魚がバイトしてくるのが、ロッド越しに伝わる。ガツンと食ってくれれば、釣れるのだが、チマチマと警戒気味にアタックして来る事があり、そう言う状態はショートバイトと言う。


「ショートバイトなんだよな。なんだろうな?」

「フィッシュ オン!」

 先ほどのムツカケの負けを払拭しようと、気合の入っていたカレンが叫ぶ。

「なんだ? なんだ?」

 網に入ったのは、ガンメタのタイの様な魚だった。


「黒鯛だな。場所から言ってナンヨウクロダイって感じかな?」

「美味いのか?」

「まぁまぁ、美味いぞ」

「まぁまぁか…」

 カレンが少し悔しそうだ。

「でも、釣り味は面白いだろ? チニングって言う釣りのジャンルになるな」

「そうか、チニングか」

「関西ではチヌって言うからな」


「日本では、チヌは人気の高い魚なんだ。だから色んな釣り方がある。フカセとか、ダンゴとか、ウキ釣りとか」

「フカセって?」

「撒き餌って小さなエビとか、配合エサを巻いて、本命の魚を寄せつつ、雑魚も交わして釣る、攻防一体の釣りだな」


「ダンゴは?」

「これも、攻防一体。ヘラ釣りに近いが、刺し餌をバラけ餌のダンゴに包んで底まで沈めて、雑魚を交わして底でダンゴを割って食わせるんだ」

「それは面白そうだな」

「チヌは、こう言う少し濁った水が好きだと言われるからな。ダンゴに赤土なんかを混ぜて、わざと濁らせるんだ」


「色んな釣りが、あるのだな」

「日本は釣りの先進国だって言ったろ?」

「そうだったな」

「みんなあの手この手で、狙う魚を研究して習性を利用して釣ってるぞ。釣り師が百人いれば、百通りの釣り方があるし、地方色もあるし、知るだけでも面白いぞ」

「本当だ!」


「フィッシュ オン」

 話しているうちに、セフィアが釣れた。

「今度は何だ?!」

 おチョボ口の澄ました顔をした魚だ。

「フエフキダイの仲間だな」

「美味しいの?」

 カレンと同じ事を聞く。

「前に三人娘と一緒に食ったアレの同種だな。インパクトは無いが、癖のない魚だな」


「まるで、私みたいですね!」

「癖、強いだろ?!」

 カレンが空かさず突っ込む。打ち解けて来て、冗談やツッコミも言える間柄に段々と変化してきた。


 裕介のロッドに、やっと当たりが来た!

 スピニングのライトタックルのドラグが、音を立てて滑り出す!

「ヤバい! ヤバい! ヤバい!」

 ドラグは一向に止まる気配が無い。

「コレはダメだ。引きが強すぎて、このタックルでは取れないわ。こんなのが隠れていたのか? 何だろう?」


 覚悟してドラグを締めながら、裕介は諦めムードで言う。結局、裕介のラインは切れ、ルアーは魚が持って行ってしまった。

「何だったんだろう? バラマンディでもいるのかな?」

 バラマンディとは、日本三大怪魚の一つアカメと同種の魚だ。成魚は体長二メートル、重さ六十キロにも育つ。

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