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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
141/294

141 ルビーライン

 初夏を迎えたベイグルで、ミリムとアミルは神妙な顔をして、顕微鏡を交互に覗き込んでいた。

「なっ、ミリムねーちゃん。小さな生き物がルビー樹脂を食べてるだろう?」

「ほんとね。ルビー樹脂の周りに集まって一生懸命食べてる気がするわ」

「これ、スライムの幼生なんだよ」

「スライムなの?」

「そう」


「確かめたわけじゃないけど、スライムは住む環境によって、プープスライムになったり、サファイアスライムやルビースライムになるんじゃないかと思うんだ」

「そうなの?」

「パイロン川の水にも、ビレイ湖の水にも、サブル川の水にも、同じこの幼生がいるんだ」


「スライムは分裂して増えるんじゃないの?」

「うん、今まで俺たちが見てきたのは、親スライムが分裂して、親スライムになるものばかりだったけど、幼生がいるってことは、子供も産むって事なんだろうな」

「スライムの赤ちゃんかぁ〜」

「汚れた水の中では、プープスライムに。澄み切った水の中ではサファイアスライムに、鉱物か何かが溶け込んだ水の中ではルビースライムになってるんじゃないかと思う」


「じゃぁ、新しいスライムを探しに行かなくても、環境を作ってやれば、作り出せるって事?」

「そう、僕が言いたかったのは、それだよ。しかもルビー樹脂もスライムの子供が食べてくれるから、ゴミの心配も無くなったって事」

「スライムってすごいのね」


「安心出来たからね、ルビー樹脂を繊維にして糸を作ってみた」

 アミルは、そう言うとミリムに糸巻きを渡した。

「少し赤味がかっているけど、樹脂みたいに赤くないのね。何? これ、めちゃくちゃ強いんじゃないの?」

「ダメ、素手で引っ張ると手が切れるよ」


「そこまで?」

「うん、同じ太さでサファイアラインの五倍は強いよ」

「五倍? 一号のラインで五号の強さがあるって事?」

「まぁ、概ねそんな感じ、しかも伸びがほとんど無い」


「すごい!」

「アコノートにあるPEラインってのと、同じくらいの製品なんだ」

「お兄さんが、PEラインが有れば、って良く言ってたわ」

「さぁて、このルビーライン。ねーちゃん。いくらで買う?」

「何よ! アミル君のくせに、その悪徳商人みたいな台詞は!」


「僕だって商売なんだから!」

「どうせ、号数によって作りにくさが変わるんでしょう? 良いわよ言い値で買うわよ。そのかわり量産してよね!」

「売れるのかい?」

「売ってやるわよ! 最近、オスタールからすごい注文が来てるのよ。お兄さんが助けた、セレナ造船所のキレトって子が、うちに修行に来る事になったの。未だ子供だけど、アミザでうちの支店を出すんだって」


「へぇ〜! いよいよ国外進出かぁ〜 さすがですね。社長!」

「だから、どこの悪徳商人なのよ?! バカアミル!」

「バカって言うな!」


「へーん、じゃあ、悪徳商人に良いモノをあげるわ」

「えっ?! なんかくれんの?」

「じゃっじゃん! 羽根枕よ!」

「羽根って鳥の羽根? っで、この顔は?」

 ミリムがアミルにプレゼントしたものは、大きめの枕にギガンテスの顔が刺繍されたモノだった。

「お兄さんから、ギガンテス孔雀の羽根が五枚分届いたのよ。竿やウキに使うのは、芯の部分だけだから、余った羽根毛の部分で枕を作ったの。感謝しなさい!」


「いや、この刺繍…、ギガンテスの顔って…!」

「時間かかったのよ!」

「いや、ギガンテスの顔って…」

「何よ! オークの方が良かった?」

「いや、それも、どうだろうか?」

「これで寝て、毎晩、いい夢見なさいよね!」

「え〜!」


--------


 裕介達はパイロン川の河口付近の海沿い沿岸を移動していた。確かにマンジローブは移動するようだ、その証拠にマンジローブの大きな森の裏側にぽっかりと帯状に空いた干潟がある。干潟と言っても、枯葉や泥のようなものが堆積しているのだが、そこに穴を掘ってカニやシャコの類が、ウジャウジャいるようだ。掘った穴の砂が蟻塚のようになっている場所もある。

 大きなヤシガニが、這っている。ハゼのような魚もいる。これは面白い。


「一度、『むつかけ』をやってみたかったんだ」

「ムツカケって?」

「日本の有明海ってところに、ムツゴロウって魚がいるんだ。丁度こんな干潟で、その魚を振り子みたいに、竿でキャスして鉤で引っ掛ける釣りだ」

 裕介はそう、セフィアとカレンに説明しながら、さっさと鉤を作り始めた。

 円筒形の錘の先に大きく戻るように、長い鉤が六本付いている。イカ釣りのギャフの先端のような鉤だ。これを渓流用の木製の延べ竿に、ラインをつけてセットした。


「うまく出来るかどうか分からないけど、見ててよ」

「この木製のロッドも、ユースケが作ったのか?」

 カレンが聞く。

「そうだ、最初の頃に渓流魚を毛鉤で釣るのに作ったんだ」

「そうか。言っちゃ悪いが、重くて不細工な竿だな」

 木製竿については、カレンは手厳しい。


「ははは、言う通りだ。あの頃は馬の毛で釣っていたからな」

「そうでしたね。私はテグスでした。あなたと初めて釣りをした時の事を、良く覚えてますよ」

「あの頃は、ラブラブだったからな」

「今でも、そうですよ」

「おいおい、そう言う話は夜中に二人でやってくれ!」


「ははは、じゃあ、行くぞ!」

 七メートル程先の、ハゼの様なムツゴロウっぽい魚に狙いを定めて、裕介は鉤から手を離し、竿で操作する。

 ガス!

 狙った魚は外したが、隣の大きなヤシガニに引っ掛かった。


「カニが釣れちゃったよ!」

「ぶははは! 狙ったんじゃ無かったのか?!」

「狙ったのは、魚の方だったんだけどな」

「でも、面白そうだな! やろう、やろう! 私はこの竹竿でやってみる」

「じゃ、この鉤を使ってくれ。セフィアもやるだろ?」

「もちろんです!」

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