14 先輩兵士
ブルケンを過ぎるとめっきり村の数が減る。長く戦争をやっているのだから、最前線に近くなるそんな土地には誰も住みたがらない。
街道は兵士やサーズカルへの物資の輸送で、それなりに踏み固められ立派な道になっているが、一歩外れると荒野が広がっているだけだ。
日本の荒れ野のように草ボウボウと言うわけではない。寒いところだから膝までの低い草が延々と、地平線まで生えている。
地平線と言うと遥か彼方のように思えるが、日本でも水平線までの距離は五キロメートル程らしく、案外近い。この星が地球よりちいさければ、もっと近い筈だ。
とは言うものの、三日歩いても四日歩いても変わらない景色というのも、どうかと思う。
俺たちは、全く変化のない景色の中をサーズカルに向かって歩いていた。
後方から砂ぼこりが見える。誰かが馬で移動してきているのかな?
自動車も飛行機も電車さえない、この世界では馬は大事な乗り物だ。この国の人はとりわけ馬を大切にし、ほとんどの人が馬を操ることが出来ると思う。ただ持っている人は限られており、一家に一頭もはおらず、村で共用の馬を何頭か持っているとか、街では貸し馬のような商売をしている商売人もいる。貴重な馬だから、馬の世話をする職業は誇り高い職業なんだそうだ。
馬でサーズカル方向に移動してくるなら、貴族とかお金持ちとかそんな人だろうな。
「おーや、これは誰かと思えば、ミステイクの皆さんじゃないですか」
「ちっ! 嫌な奴に会った」
と、柿沼さんが舌打ちする。俺たちが一年目の時、散々嫌味を言ってたどこかの貴族の先輩兵士じゃないか。
「今日は、取り巻きはいねぇのかよ」
「おやおや、やっとサル達も言葉が話せるようになったみたいだね。でも気をつけてね、僕はもう軍曹だから、軍隊では階級がすべてだからね」
馬の上でチラッと襟元の階級章を見せる。相変わらず、嫌味な奴だ。
「これは、知らぬこととは言え、失礼いたしました」
海野さんが、すかさずフォローする。
「ハハハ、僕が寛大で良かったねぇ〜。じゃあ、また砦で会おう!」
「嫌味だけ言って立ち去って行きやがった」
「相変わらずだな」
「貴族なら、最低でも軍曹始まりだからな。もっとも優秀な貴族なら、少尉始まりだけどね。多分、俺たちと同じ新兵訓練所にいたくらいだから、貴族と言っても出来の悪い四男坊とか、そんなところだろうな」
「初めて貰った階級が嬉しくて仕方ないって感じでしたよ」
「違いない!」
しばらく行くと、馬車が立ち往生していた。輸送兵のようだ。三人の兵士が馬車の車輪を見ている。
「どうしたんですか?」
「サーズカルに物資運搬中に、車輪が壊れてしまったんだ。さっき通った軍曹に、救援を呼んでもらうように言ったんだが、頭の弱そうな奴だったからなぁ〜」
「プッ!!」笑える。
見ると、車輪のスポークにあたる部分が三本折れている。これでは走れない。木製だもんな。馬車の中には建設資材であろう丸太が何本も乗っていた。
「材料もないので、応急処置で直すことは出来ますがやりましょうか?」
「出来るのか? 何の道具もないぞ」
「くず鉄かなんか、潰してもいい鉄製品はありますか?」
「予備の武器で、フレーブの戦利品の剣が数本ある。これなら潰してもいいぞ」
「じゃ、積荷の丸太をテコにして、車輪を浮かせてもらえますか?」
「いいぞ」
丸太を出して、馬車の兵士たちは、車輪を浮かして固定した。
俺は、その辺の石を集めてきて粘土にして縁取りをして平らにし、上面にまた石をのせて液状化して固化させ、水平な石の定盤を作った。兵士たちは驚いてみている。
定盤の上で、材料の剣を潰して粘土にし、五ミリくらいの平面にして、それで折れたスポークを端から端まで包み込んで固化する。鉄パイプで折れた部分を繋いだのと同じ感じだ。
「いいですよ、下してもらって」
兵士たちが、恐る恐る車輪を下ろすと、ビシッと車輪は馬車を支えた。
「おぉぉ~!」
兵士たちから歓喜の声がこぼれた。
「これは、魔法なのか?」
「そうです。土の勇者ですから。俺たちミステイクは新兵ですが、賢者と勇者のチームなんですよ」
「マジか・・・、今年はすごい新兵が来るのだな。助かったよ。乗ってけといいたいところだが、馬車にだいぶガタが来ているみたいだから、五人となるとちょっとな」
兵士は申し訳なさそうに言う。
「いいですよ、俺たちはまだ期間があるので、ゆっくり歩いて行きますから」
「悪いな。ほんと助かったよ、ありがとう」
馬車は問題なく、ゴトゴトと先に進んでいった。
「これでいいんですよね? 海野さん」
「うん、上出来。真の勇者だと知ると、軍も只の新兵と同じには扱えないだろう。ひょっとすると、軍曹なんか飛び越して、士官クラスの扱いになるんじゃないかな?軍は階級がすべてらしいからね」
クツクツクツと海野さんが笑っている。
黒海野さんが顔出してるよ〜