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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
137/294

137 スッポン

 カレンが船の上で立ち上がる。

「アレ エル ドドス! ペスケル ドドス ラ!」

 何語なのかわからない。カレンが大声でそう言った途端、半裸に近い茶褐色肌の原住民が狼狽え、武器をバラバラと地上に落として這いつくばった。


「なんて言ったんだ?」

「私達は神様だ。神様に戦いを挑むのか? って」

「無茶苦茶だな!」

「空を飛んで来たのだから、信じるだろう」

「で、コイツらは何なんだ?」

「アルバスの原住民だ」


「原住民って、アルバスの国民は入植者なのか?」

「そうだぞ、五百年くらい前にイスロンから砂漠を超えてここに来た者たちだ。その流れ者達をまとめて国にしたのが、今のアルバス王家だ」

「そうだったんだ」

「布教に寄って国をまとめ、イスロンの傀儡国家を作ろうとしていた宗教者達を、北のスレブに閉じ込めて、国をまとめてアルバス王国を作ったんだ」

「へぇ〜、のんびりした国だと思っていたけどな」

「まぁ、五百年も前の話しだからな。今はスレブとも友好関係にあるぞ」


「原住民は、パイロン川沿いの南側で、昔と変わらない暮らしをしているんだ。だからこの辺りは、田畑の耕作は禁じられていて、手付かずのまま残っている」

 そんな説明を受けながら、裕介は村に船を降下させた。原住民が遠巻きに近づいてくる。


「村の外れに、ロッジを建てたいと言ってくれ」

 カレンが通訳してくれる。村長らしい爺さんが出てきて、どうぞどうぞと言っているらしい。

 三人は村の外れに移動し、いつものように裕介とセフィアで今夜のロッジを建てた。

 村人達はおったまげたようだ。

「本物の神さまだと、言っているぞ」

 自分でそう言ったくせに、カレンは可笑しくて仕方ないらしい。セフィアも必死で笑いを堪えている。


 村人達が、捧げ物を持ってロッジの前に集まって来た。子供もちらほらいる。

「じゃぁ、お近づきの印だ。四人づつ神の船に乗せてやるって言ってくれ」

「良いのか?」

「あぁ、浮かんで降りるだけだ」

 カレンが通訳してくれたが、大人達は怖がって辞退したようだ。子供だけが、前に出て来た。


「これだけなら、ちょっと遊覧飛行に行ってくる」

 裕介だけで、最初の四人を乗せて浮かび川の中央まで行って、引き返して来た。

 子供達は、大はしゃぎだ。次のグループを乗せて戻ってくると、カレンが神妙な顔をして村長と話していた。


「どうした?」

「ちょっと困った事になった。さっきのスッポンを退治して欲しいって言うんだ。だいぶ村人が犠牲になっているらしい」

「そうか」

「そうかって、あの化け物だぞ?」

「なんとかなるぞ。セフィア、スッポンを食えそうだぞ!」


「えっ? 食べれるのですか?」

 セフィアは喜んでいる。

「これだけ人数がいれば、食べれるだろう?」

「殺して持って帰ってくるから、捌いてくれって言ってくれ」

「本気か?!」

「あぁ、ズールみたいにデカいルアーを作って、頭を出して噛みついたところを吹き飛ばそう」


「また船のルアーですか?」

「うーんそうだな、カレンに頼んで丸太でペンシルを作ってもらうか。頭を出させりゃいいだけだからな」

「丸太で何か作るのか? 良いぞ」

「じゃぁ、あの丸太を一本もらおう」

 カレンが村長に許可をもらって、セフィアが飛ばして運んでくる。


「こんな感じだな」

 裕介が紙に描いた、ペンシルベイトと言うルアーの絵の通りカレンが木魔法で丸太を加工する。

「まぁ、顔くらいは描いておくか」

 裕介は、河原から赤や白の石を拾って来て、それを液状にして赤や白の液体を作り目や口を描いた。二メートルはある巨大ルアーの完成だ。


「じゃぁ、行くか。カレンも行くか?」

「もちろん、見せてもらおう」

 セフィアの魔法で、ペンシルをを浮かせると船に乗り込み、先程のスッポンのところまで戻る。

 相変わらず島のようにじっとしている。これで、近くをを獲物が通りかかったら、ガブっといくのだろう。


「じゃ、セフィアズールの時と同じだ。左右交互にスライドさせながら、時々止める。首を出したら爆裂魔方陣だ」

「はい! ドッグウォークですね」

 空中で魔力電池で船をホバリングさせて、セフィアがスッポンの頭の辺りをペンシルで攻める。裕介はセフィアの腰を抱いて構えている。


 スッポンが、そーっと頭を出した。

 次の瞬間、素早い動きで頭が伸び、ペンシルに噛みついた。


 バキバキ!


 強力な口だ。直径四十センチほどの丸太が、噛み砕かれる。

「今だ!」

 裕介の魔力がセフィアに流されて、スッポンの頭に魔方陣の照準が重なる。


 ドーン!!!


 ピンポイント爆撃を食らったスッポンの頭が、先日のギガンテス孔雀と同様に消し飛んだ。

 弛緩させ甲羅の外に出た手足が、断末魔の叫びのように痙攣し、やがて静かになった。

「本当に瞬殺だな」

「うまく行きましたね!」

「顔を出させりゃ、効果は高いが、甲羅に籠られたらこうは上手くいかなかったろうな。まぁそれも、セフィアのルアー操作が上手いからだよ」

「えへへ」

 セフィアは褒められて嬉しそうだ。


「じゃぁ、村に持って帰ろう! スッポン鍋だ」

「ちょっと待ってください、流石に大きいのでエレベーターと砂漠の風の魔方陣を、甲羅に焼き付けますから、あなたの魔力で持って帰れますか?」

「そうか、セフィアの魔力では流石にこれは無理か? じゃぁ、船を甲羅に乗せて一緒に飛ばそう」

「そうするしか無いでしょうね」


「これを飛ばすのか?」

「日本でそんな怪獣映画があったな」

 裕介は亀の怪獣を思い出していた。

「いいですよ」

 セフィアの合図で、十五メートル四角の甲羅のスッポンは宙に浮かび上がり、村へと飛んで行った。


 村人達は長年苦しめられた魔物が退治されたのに狂喜乱舞し、その日はお祭りになった。とても雷魚を釣りに行くどころでは無い。

 スッポンはすぐさま解体されたが、甲羅は男二十人で外され村の集会所の屋根になった。

 よく見ると村人達の家屋の屋根には、同じように甲羅を使ったものが幾つもある。それらと比べても、このスッポンは特別大きかったようだ。

 しかも、釣りに使ったペンシルの壊れた残骸を村の者が拾って来て、村の入り口の門柱の上に置いた。まるでトーテムポールだ。守り神かなにかのつもりだろうか?

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