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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
136/294

136 原住民

 昨夜はウナギを全部焼いて、アイテムボックスに入れてから眠った。アイテムボックスが凄いのは、暖かいモノを入れると、暖かいまんまで出てくることだ。ご飯も毎回炊かなくても、保温の役目も果たしてくれる。時間も熱も空気も無い空間なのだから当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。

 でも不思議な事に、スライムだけはこの空間の中でも増えるのだ。ああ見えてスライムは、特別な時空を生きているのかも知れない。


「さて、これからどうする?」

 朝から、ひつまぶしをお代わりしながら、カレンが聞く。

「そうだな。パイロン川本流を下って行くつもりだが、何が釣れるかだな」


「中流域はフナやコイかな? でも時々、釣れてから何かに食いちぎられる」

「食いちぎられる? 仕掛けをか?」

「仕掛けの時もあるし、釣れた魚を半分くらい食いちぎられる時もあるのだ」

「えらく獰猛な奴がいるんだな?」

「私達はシャドーと呼んでいる。未だ知り合いでは見たものがいないのだ」


 タイ語でシャドーと言えば、メコン川なんかにいる巨大な雷魚。英語ではジャイアントスネークヘッド、マレーシアではトーマンと呼ばれる魚だが、そんなサメ並みに獰猛な魚なのだろうか?

 雷魚釣りは、あまりやった事の無い裕介は、シャドーについては、詳しくなかった。

「亜湖さんがいたらな」

 裕介は、久しぶりにこう言う事に博学だった亜湖を思い出す。

「まるで苦しい時のアコ頼みだな」

 仕方ない、自力でなんとかしよう。裕介は苦笑いしながら独り言を呟く。


「雷魚かも知れないな」

「雷魚って?」

「日本ではタイワンドジョウ、カムルチー、コウタイの三種類がいたな。一度だけ釣って逃げられた事がある」


 あれは、中学生の時だった。川の潮止めの井堰の前でシーバスを狙っていた。間違って七十センチくらいの雷魚が掛かってしまったのだ。

 傍までは寄せて来たものの、運悪く夕立になり雷まで鳴り始めた。雷魚と言うだけの事はあるな、などと思いながら、仕方なく井堰の操作場の猫の額ほどの屋根の下で、ラインの先に雷魚をつけたまま竿を持って雨宿りする。


 ドーン、ガラガラ。

 雷の鳴る音。

 バシャバシャバシャ。

 雷魚が水面で暴れる音。


 そうやって三十分が過ぎ、やっと雷雨がおさまった。裕介は、川縁に降りて雷魚を取り込もうとした。


 バシャバシャバシャ!


 雷魚が暴れて、鉤が外れて逃げてしまった。

 糸が切れたのでは無い。見ると、太いシーバス用の鉤が伸ばされてしまっていた。


 カレンとセフィアはその話しを、怪談話しでも聞くような神妙な顔で聞いていた。

「まっ、後になって考えてみれば、アイツらエラ呼吸じゃ無くて肺呼吸だからな。三十分くらいぶら下げられていても多分平気なんだよ」

「魚のくせに、肺で呼吸するのか? 驚いた、日本にはアンデッドの魚の魔物がいるのかと思ったぞ」


「道を這って移動するって聞いたことがあるぞ」

「ヘビじゃないか!」

「カエルとかネズミとか、ヘビでもなんでも食うらしい。フロッグと言うカエルのだ格好をした、トップウオーターのルアーがあるくらいだ」

「ますますヘビだ」


「だからスネークヘッドって言うんだろうな。結構美味いらしい。日本の隣の韓国や中国って国では、普通に魚屋で売ってるらしいから」

「ヘビも美味しかったですものね」

「ヘビを食ったのか?」

「オスタールの食いしん坊達が、大喜びで食ってたぞ!」

 裕介が笑いながら言う。


「ヘビと言えばカレーですね!」

「いや、セフィア。そこ、間違っているから!」

「美味しかったですよ」

「いや、本当は牛肉が基本だから。まっ、カレーは何ででも美味しいからな」

「カレーと言うのも食べてみたいな」

「この釣りの旅の間に作ってやるよ。じゃ、出発するか」


 ミセスセフィアは、空に浮き上がり川面十メートルで飛び始める。速度が上がったので本気で飛べば、千キロも二日ほどで飛ぶことは可能だ。

 高い場所から見ると、この世界の雄大さと、手付かずの自然が残った美しさが良くわかる。しかも晴れた日は遠くまで良く見えるのだ。

 北の彼方に見える万年雪を抱いた、中央山脈、あの向こうがベイグル。西の山の向こうがオスタール。東はビレイ湖が見え、その先の山の向こうがネプルとイスロン。広い。南の海は未だ地平線の向こうだ。平野が広がるアルバスの大パノラマだ。


 支流が合流して川幅が広くなってきた。流石は大河パイロン川、中流のこの辺りでも五キロくらい川幅があるんじゃないだろうか?滔々と流れると言うのはこう言う感じなのだろうか?

 川幅が広くなった分、流速は穏やかになった。この辺りが鮒や鯉、雷魚の釣れる場所じゃ無いだろうか?


「とは言うものの、ロッジを作る場所が見当たらないな」

「島が見えますよ」

「島?! ほんとだ。じゃぁあそこにするか?」

 島と言うほどは大きくは無い。せいぜい十五メートル四角くらいのものだ。近くに寄ってみる。


「これはダメだな、ロッジを作る石も砂も無い」

「本当ですね」

 材料がない事には、いくら魔法があっても建設は無理だ。と諦めた時、島が動いた!

「えっ?! 今、動いたぞ」

「嘘だろ?!」

 裕介は船を急上昇させる。

 ヌッと、島陰から大きな首が伸びてきた。


「わー!」

 船を急発進させてかわす。

「スッポンだ! めちゃくちゃ、でかいスッポンだ!」

 島だと思っていたものは、大きなスッポンだった。


「ちくしょう、もっと小さければ捕まえて食ってやるのに!」

「美味しいのですか?」

「あぁ、めちゃくちゃ美味しいぞ! 精力たっぷりで男は男らしくなって、コラーゲンたっぷりで女は綺麗になる。ハゲ頭だってテカテカに光るぞ!」

「いえ、ハゲはどうでもいいですけど。残念ですね。食べ切れません」


「いや、そう言う問題じゃないだろ! こっちが食われるところだった!」

 カレンがセフィアにそう突っ込む。

「退治する必要もないし、ロッジを建てれそうな場所を探そう」

 高度を少し下げて、更に下流に移動する。

「おっ! 村が見えて来た! あそこに泊めてもらおう!」


 裕介が、村に向かって船を回すと、半鐘のような鐘が鳴り響く。原住民のような格好をした男達が弓や槍を持って出てきた。茶褐色の肌に、腰布で顔に仮面を被ったり、白や赤にペイントしている。

 こちらに向かって構えている。

「マジか? ヤバいな」

雷魚の話しは、実際の体験談です。

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