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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
135/294

135 ウナギ

「やっぱりウナギと言えばミョミョルだろうな」

「そうだな」

 ビレイ湖を離れ、またパイロン川本流に戻るために、元来た川を引き返していた。やはり来る時に鮎を船釣りしたトロ場が良いかと考え、そこまで戻って来た。

 アウトリガーを装着したミセスセフィアは、後ろの魔動モーター式扇風機の他に指向性を高めるために、筒の奥に砂漠の風の魔方陣が描かれた、ジェットエンジンのようなものが取り付けられた。プロペラ機からジェット機に昇格したようなそんな感がある。


 ロッジを建て終わり、セフィアにビレイマスを料理してもらっている間に、裕介とカレンはミョミョルを取りに来た。

「この辺りかな?」

「そうだな」

 小さな林の入り口だ。

「毒ヘビがいるかも知れ無いから、あまり奥には入らない方がいいぞ」

「えっ、それは嫌だな」


 そう聞くと小さな林が魔物の巣窟のように見えて来る。治癒魔法があるので、ヘビに噛まれても死ぬ心配は無いが、しばらく痛い思いをする事になる。

「任せろ」

 カレンが手を翳すと、みるみる林の入り口の樹木が朽ちて平地に変わった。

「木魔法も便利だな」


 裕介はアイテムボックスから、予備のジェットエンジンを取り出して、朽ちた平地の落ち葉や枯れ草を吹き飛ばす。簡易ブロワーだ。

「そう言う使い方もあるのか? 一つ私にも作ってはくれないだろうか?」

「いいぞ、小さいのなら髪や塗料を乾かすドライヤーになるし、大きければこんなブロワーになる」

「大は小を兼ねるな」

 ステラと同じ事を言っている。


 クリーンナップがあるので、髪を洗う習慣はないが、雨で濡れた髪を乾かす術は無い。ドライヤーは売れるかも知れないな。などと裕介は思いながら、ブロワーで綺麗にした場所を砂に変えた。

 ミョミョルが自分から這い出して来る。あとは拾って壺に入れるだけだ。

「便利な魔法を使うな」

「お互い様だよ」

 笑いながらミョミョルを拾って壺に入れロッジに戻った。


「お帰りなさい!」

 こうして、可愛い妻に出迎えられるのも悪くないな。などと裕介は思う。日本にいれば、世界を釣り歩いてみたいなどと夢を見ながらの、こう言う毎日だったのだろう。


「えへっ、お寿司を握ってみました」

「寿司って、セフィア、作れたのか?」

「あなたが作るのを見てましたから」

「おぉ!マスの手毬寿司じゃないか!」

 オレンジ色のビレイマスが綺麗に捌かれて、丸くて可愛い手毬寿司になっていた。


「あなたのように上手には握れませんでした」

 セフィアは残念そうに言う。

「イヤイヤ、これはこれで手毬寿司って言う料理なんだ」

「すごい! 知らずに作ったのか?」

 カレンも驚いている。

「じゃあ、いただきます!」

「美味い!」


 夜になり、河原に三人並んで投げ釣りでウナギを狙っている。軽めのジェット天秤とウナギ用の長い鉤、アタリを知らせる鈴を裕介が作り、ミョミョルを挿してそれを投げ込んで、ただ待つだけの釣りだ。丁度良い感じに川は雨で増水している。

 焚き火を焚いている。蚊が寄って来るので、カレンがこれを燃やすと蚊除けになると除虫菊のような草を火に焚べ煙を出している。少し煙いが、マラリアとか南の蚊は万病の温床だからありがたい。


 ついでに、火でビレイマスや鮎を焼いて軽い夕食も兼ねている。ウナギが釣れてから本気の夕食だ。

 ずっとルアーでアグレッシブルな釣りをしてきたから、こう言う待ちの釣りと言うのは裕介もセフィアもほとんど初めてだ。

 自然と時間を持て余す。

「あなた、日本の歌を教えてください」

「私も教えて欲しいな!」

「歌詞は全部は覚えていないぞ」


 急遽、『裕介、ウナギ釣りディナーショー』が始まった。

 唱歌、歌謡曲、フォーク、演歌、偏らないように適当に歌う。歌詞の分からないところは、ハミングで誤魔化す。傾向としてセフィアとカレンは演歌が気に入ったようだった。


 リンリンリン!


 裕介ディナーショーの終わりを告げる鈴の音。

「おっ、来たか?!」

 そーっと竿を立てて、リールを少し巻き様子を伺う。

 クンクンクククッ!!

「来てる来てる!」


「よーっしゃぁ〜!」

 裕介は大きく竿を煽って、合わせを入れた。

「フィッシュ オン!」

 重い。明らかに重い。またナマズか? と思うようなずっしりとした重みだ。

 潜り込まれると厄介だが、大抵はすんなりと上がって来る。


「でっ! でかっ!」

 セフィアの手首くらいはあるかと思うような、極太のウナギだ。ラインに絡みついて、まるで糸で縛った焼豚みたいにグデングデンになっていて、長さは良く分からないが大物であることは間違いない。


 リンリンリン


「‥! 俺の鈴?! いや違う、セフィアのだ!」

「私のも鳴っているぞ!」

「でぇ〜! トリプルヒットかぁ? 兎に角、巻け! 巻けぇ〜!」

 怒涛のウナギ祭りだ!


 どれも粒揃いの大ウナギだ。

「すげぇな、ビレイ湖!」

 ナマズも大きければ、ウナギも大きい!

「ウナギは死んだら、臭くなるんだ、鉤を呑んでいるようなら遠慮せずラインを切ってくれ。それとウナギの血には毒があるから必ず触った手は、クリーンナップだぞ」


「でも、こんな大きいのが三本も釣れたら十分か。一本づつ釣ったし、これで止めにして料理しようか」

「うん、私は満足だぞ。楽しかった。待つ釣りと言うのも良いものだな」

「私も満足です。それより聞いた歌が、頭から離れません」

「いや、セフィア。お願いだからそれは忘れて。調子に乗って歌っただけだから」


「さぁて、捌くぞ!」

 ウナギの頭に釘を打ちつけて、まな板に固定する。ウナギ裂き包丁は無いので、ナイフで捌く。

 素人がやるのは、カッターナイフとかの方が捌きやすいらしい。でもやっぱり動くし、ヌルヌルしてるし、難しいな。それでもなんとか、捌けた。


「血に毒があるって言って無かったか?」

 カレンが心配そうに聞く。

「ウナギの毒は、ムカデと同じタンパク質の毒でな。熱を加えれば固まって無害になるんだ。だからウナギは生では食わない」

「タンパク質って?」

「まっ、卵みたいなものだな」

「なるほど、茹でたり焼いたりすると固まるな」

「じゃあ、焼くぞ! 匂いの良さは焼き鳥を超えるからな!」


「ぬおぉぉ! 匂いだけでご飯が食べれそうだ!」

 裕介が焼き始めると、カレンがお約束通りの反応を示す。セフィアは意外に大人しい。

「セフィア! 涎!」

「へっ?!」

 伯爵家の令嬢ともあろうものが、ウナギの匂いに涎を垂らして放心状態でいる。


「いただきまーす!」

「おいひいです!」

「ウナギが、これほどのものだったとは!」

「あー、ミリムや三人娘に食わせてやりたいなぁ〜」

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