133 焼き鳥
「セフィア、久しぶりに爆裂魔法陣を頼む」
「はい!」
二人は立ち上がって、裕介がセフィアの腰を抱く。セフィアは杖を使って一羽目の孔雀の頭に魔法陣を焼き付けた。
ドーン!
ギガンテス孔雀の頭が吹き飛ぶ。
「キエッー!」
他の孔雀が驚いて鳴き声を発する。
「次!」
ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!
残りの四羽も連続で瞬殺だった。ドスン、ドスンと次々に頭を吹き飛ばされた孔雀が、畑に倒れた。
「おーい、大丈夫か?」
「おう! あんた達がやってくれたのか? 瞬殺だな」
やっと立ち上がり、驚いて、傍観していた冒険者たちが裕介に声をかける。
「見てるつもりだったんだけど、反撃を食らって危なかったからな」
「ありがとう、解体は俺たちに任してくれないか」
「じゃぁ、羽根を十本くれ、後は好きにしてもらっても構わない」
「それだけでいいのか?」
「あぁ」
「そいつは、ありがたい! じゃぁ、先に帰っていてくれ、後で持って帰る」
「じゃぁ、頼む」
裕介とセフィアは冒険者たちを残して、宿に戻った。
「濡れちゃいましたね」
裕介もセフィアもカッパは着ていたが、浸み込んだ雨で濡れてしまった。
「部屋に戻って乾かそう」
「はい」
部屋に戻った二人はカッパを脱ぎ、お互いにクリーンナップのかけっこをする。セフィアが朝に書いた砂漠の風の魔法陣に魔力をかけ、二人で衣服を脱いで風に当たって乾かす。
「久しぶりに、あなたの魔力を頂きました」
「そうだな、ズール以来だもんな。あの時は、役に立たなかったけど」
「その…、時々で…、いいので、魔力を下さいね」
セフィアは耳まで真っ赤にして、裕介に言う。
「セフィア!」
「んっ…」
裕介はセフィアを抱きしめて唇を重ねた。そのまま愛しい妻を抱き上げてベッドに運ぶ。
砂漠の風の魔法陣は、魔力を失って隙間風にヒラヒラとはためいていた。
そのまま、裕介とセフィアは夕方まで部屋にこもっていた。夕方になり冒険者たちが戻ってくる。にぎやかになった食堂に裕介とセフィアが着替えて姿を見せた。
「おぉ! ありがとう! この二人がギガンテス孔雀を瞬殺してくれたんだ!」
冒険者たちは、二人を見ると駆けよってきて肩を組んでみんなにそう告げる。
「孔雀の羽根十本は、裏庭に運びこんであるぜ」
「ありゃぁ~、凄かったな。ギガンテス孔雀の頭が一瞬で消し飛んだもんな。それに空飛ぶ船だ! アンタ達、俺たちのパーティに入らないか?!」
「そうだ、アタシたちと一緒に組もうよ」
「だめだ! この人達は私と釣りの最中なんだ」
カレンが、冒険者と裕介の間に入る。
「釣り? なんだそりゃ?」
「あっ、最近聞いた噂が」
冒険者とは別の商人らしき男が、口を挟む。
「アミザに長年いたズールって魔物を、銀色の船に乗った夫婦が釣り上げて退治したって」
「ズール? あの八メルのサメの魔物か? 何人も冒険者も食われているぞ?」
「確か、カワハラギケンって、言ったな」
「じゃぁ、ユースケさんじゃないか! なっ、この人は釣り師なのだ。分かったか?!」
カレンが得意そうに、胸を張る。
「そうですよ。ズールを釣ったのは俺たちですよ」
「そうだったのか! そりゃ失礼した、俺たちとはレベルが違うわ」
「まっ、今日は世話になったから好きなだけ飲んでくれ、俺たちのおごりだ。つまみはこれだ、ギガンテス孔雀の肉だ! 美味いんだぞ! ユースケさんが仕留めたものだ!」
「鶏肉か、俺が料理しても良いかな?」
「そりゃ、ユースケさんが仕留めたやつだから、もちろん好きにしていいぞ」
「じゃぁ、焼き鳥をしよう。カレンさん、炭とこれぐらいの長さの竹串を三百本ほど作ってくれるか?」
「別に構わないが、焼き鳥ってなんだ?」
「食えば分かる。いや、匂いで分かる、日本の美味しい食べ物だ」
日本のと聞いて、カレンとセフィアが驚くような笑顔になる。
「これで良いのか?」
カレンとセフィアが冒険者が小さく切った肉や皮を、ネギと一緒に串に刺している。
裕介は、焼き鳥のタレを煮詰めていた。コックは炭を起こしている。
「よし、じゃあ焼くぞ!」
ほどなく、焼き鳥の匂いが宿の中に立ち込める。
「くわぁ~! これはたまらん!」
「絶対美味しいヤツじゃないか!」
「あなたん!」
匂いに抗えない連中が、ジョッキを片手にカウンターの向こうに並ぶ。
「だろ! 食らえ、匂い攻撃!」
裕介は、その連中目掛けて、炭火を団扇でパタパタと仰ぐ。
「やっ、やられた~!」
「早く、食わせてくれよぉ~!」
「まぁ、まて二十本づつ焼いてるから、直ぐだぞ」
「じゃぁ、出すぞ」
皿に焼き鳥を盛って最初の二十本がカウンターに置かれる。一瞬だ、何本の手が伸びてきただろう、宿主もセフィアも両手に一本づつ持っている。
「そんなに慌てなくても、まだまだ焼くから。落ち着いて飲みながら食えよ」
「うまいなぁ~、匂いのまんまだ」
「ギガンテス孔雀、また来てくれねぇかな」
「これ食いながら酒を飲むと、どっちも止まらないねぇ~」
いつの間にか、セフィアもカレンもジョッキを持っている。セフィアって酒大丈夫なのか? 裕介はそう思いながら、次の焼き鳥をカウンターに置いた。
「じゃぁ、後は私がやりますんで、ユースケさんも食べてください」
コックが、焼き鳥を食べながらそういう。
「じゃぁ、俺も飲ませてもらおうかな」
冒険者たちが歌を歌い始めた。どこかの国家のような勇ましい歌だ。
カレンも歌う。小学校で習ったなんて歌だったか、日本の唱歌だ。
そうか百年前にもうこの歌はあったのかと裕介は思った。きっとカンゾウさんが伝えた歌なんだろう。
三百本の焼き鳥は完売し、それぞれが部屋に戻る。
裕介もセフィアと部屋に戻る。
部屋に入った途端、セフィアは裕介に抱き付いてきてキスをした。
「あなたん… 大好き!」
恥ずかしがり屋のセフィアが大胆なことだ。酒に酔うとこうなるのか?
「セフィア!」
裕介はまたセフィアを抱いて、ベッドに運んでいった。