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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
133/294

133 焼き鳥

「セフィア、久しぶりに爆裂魔法陣を頼む」

「はい!」

 二人は立ち上がって、裕介がセフィアの腰を抱く。セフィアは杖を使って一羽目の孔雀の頭に魔法陣を焼き付けた。


 ドーン!


 ギガンテス孔雀の頭が吹き飛ぶ。

「キエッー!」

 他の孔雀が驚いて鳴き声を発する。

「次!」


 ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!

 残りの四羽も連続で瞬殺だった。ドスン、ドスンと次々に頭を吹き飛ばされた孔雀が、畑に倒れた。


「おーい、大丈夫か?」

「おう! あんた達がやってくれたのか? 瞬殺だな」

 やっと立ち上がり、驚いて、傍観していた冒険者たちが裕介に声をかける。

「見てるつもりだったんだけど、反撃を食らって危なかったからな」

「ありがとう、解体は俺たちに任してくれないか」

「じゃぁ、羽根を十本くれ、後は好きにしてもらっても構わない」

「それだけでいいのか?」

「あぁ」

「そいつは、ありがたい! じゃぁ、先に帰っていてくれ、後で持って帰る」

「じゃぁ、頼む」


 裕介とセフィアは冒険者たちを残して、宿に戻った。

「濡れちゃいましたね」

 裕介もセフィアもカッパは着ていたが、浸み込んだ雨で濡れてしまった。

「部屋に戻って乾かそう」

「はい」


 部屋に戻った二人はカッパを脱ぎ、お互いにクリーンナップのかけっこをする。セフィアが朝に書いた砂漠の風の魔法陣に魔力をかけ、二人で衣服を脱いで風に当たって乾かす。

「久しぶりに、あなたの魔力を頂きました」

「そうだな、ズール以来だもんな。あの時は、役に立たなかったけど」

「その…、時々で…、いいので、魔力を下さいね」

 セフィアは耳まで真っ赤にして、裕介に言う。

「セフィア!」


「んっ…」

 裕介はセフィアを抱きしめて唇を重ねた。そのまま愛しい妻を抱き上げてベッドに運ぶ。

 砂漠の風の魔法陣は、魔力を失って隙間風にヒラヒラとはためいていた。


 そのまま、裕介とセフィアは夕方まで部屋にこもっていた。夕方になり冒険者たちが戻ってくる。にぎやかになった食堂に裕介とセフィアが着替えて姿を見せた。

「おぉ! ありがとう! この二人がギガンテス孔雀を瞬殺してくれたんだ!」

 冒険者たちは、二人を見ると駆けよってきて肩を組んでみんなにそう告げる。

「孔雀の羽根十本は、裏庭に運びこんであるぜ」

「ありゃぁ~、凄かったな。ギガンテス孔雀の頭が一瞬で消し飛んだもんな。それに空飛ぶ船だ! アンタ達、俺たちのパーティに入らないか?!」

「そうだ、アタシたちと一緒に組もうよ」


「だめだ! この人達は私と釣りの最中なんだ」

 カレンが、冒険者と裕介の間に入る。

「釣り? なんだそりゃ?」

「あっ、最近聞いた噂が」

 冒険者とは別の商人らしき男が、口を挟む。

「アミザに長年いたズールって魔物を、銀色の船に乗った夫婦が釣り上げて退治したって」

「ズール? あの八メルのサメの魔物か? 何人も冒険者も食われているぞ?」

「確か、カワハラギケンって、言ったな」

「じゃぁ、ユースケさんじゃないか! なっ、この人は釣り師なのだ。分かったか?!」

 カレンが得意そうに、胸を張る。


「そうですよ。ズールを釣ったのは俺たちですよ」

「そうだったのか! そりゃ失礼した、俺たちとはレベルが違うわ」

「まっ、今日は世話になったから好きなだけ飲んでくれ、俺たちのおごりだ。つまみはこれだ、ギガンテス孔雀の肉だ! 美味いんだぞ! ユースケさんが仕留めたものだ!」

「鶏肉か、俺が料理しても良いかな?」

「そりゃ、ユースケさんが仕留めたやつだから、もちろん好きにしていいぞ」

「じゃぁ、焼き鳥をしよう。カレンさん、炭とこれぐらいの長さの竹串を三百本ほど作ってくれるか?」

「別に構わないが、焼き鳥ってなんだ?」

「食えば分かる。いや、匂いで分かる、日本の美味しい食べ物だ」

 日本のと聞いて、カレンとセフィアが驚くような笑顔になる。


「これで良いのか?」

 カレンとセフィアが冒険者が小さく切った肉や皮を、ネギと一緒に串に刺している。

 裕介は、焼き鳥のタレを煮詰めていた。コックは炭を起こしている。

「よし、じゃあ焼くぞ!」

 ほどなく、焼き鳥の匂いが宿の中に立ち込める。

「くわぁ~! これはたまらん!」

「絶対美味しいヤツじゃないか!」

「あなたん!」


 匂いに抗えない連中が、ジョッキを片手にカウンターの向こうに並ぶ。

「だろ! 食らえ、匂い攻撃!」

 裕介は、その連中目掛けて、炭火を団扇でパタパタと仰ぐ。

「やっ、やられた~!」

「早く、食わせてくれよぉ~!」

「まぁ、まて二十本づつ焼いてるから、直ぐだぞ」


「じゃぁ、出すぞ」

 皿に焼き鳥を盛って最初の二十本がカウンターに置かれる。一瞬だ、何本の手が伸びてきただろう、宿主もセフィアも両手に一本づつ持っている。

「そんなに慌てなくても、まだまだ焼くから。落ち着いて飲みながら食えよ」

「うまいなぁ~、匂いのまんまだ」

「ギガンテス孔雀、また来てくれねぇかな」

「これ食いながら酒を飲むと、どっちも止まらないねぇ~」


 いつの間にか、セフィアもカレンもジョッキを持っている。セフィアって酒大丈夫なのか? 裕介はそう思いながら、次の焼き鳥をカウンターに置いた。

「じゃぁ、後は私がやりますんで、ユースケさんも食べてください」

 コックが、焼き鳥を食べながらそういう。

「じゃぁ、俺も飲ませてもらおうかな」


 冒険者たちが歌を歌い始めた。どこかの国家のような勇ましい歌だ。

 カレンも歌う。小学校で習ったなんて歌だったか、日本の唱歌だ。

 そうか百年前にもうこの歌はあったのかと裕介は思った。きっとカンゾウさんが伝えた歌なんだろう。


 三百本の焼き鳥は完売し、それぞれが部屋に戻る。

 裕介もセフィアと部屋に戻る。

 部屋に入った途端、セフィアは裕介に抱き付いてきてキスをした。

「あなたん… 大好き!」

 恥ずかしがり屋のセフィアが大胆なことだ。酒に酔うとこうなるのか?

「セフィア!」

 裕介はまたセフィアを抱いて、ベッドに運んでいった。

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