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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
132/294

132 ギガンテス孔雀

 翌朝は朝から雨だった。まるで水の中にいるように湿度も高く、気温も高い。日本の梅雨のように不快指数、百パーセントの不快さに加え、ビチャビチャと窓の外を降る雨を防ぐ窓ガラスが無いために、木で作られた雨戸を閉めたまんまだ。

 その雨戸の内側も湿気のために、しっとりと濡れている。


 昨夜は、あの後、裕介にも大ナマズが釣れてリリースした後、ポツポツと雨が降り始めたので宿に戻った。


「セフィア、この湿気を取るような魔方陣は無いものかな? カビが生えそうだ」

 セフィアは北国育ちだから、湿度には裕介以上に応えているらしい。あのセフィアが、今日は黒髪を編み込みにして、Tシャツ姿で、ショートパンツでいる。キュッと引き締まったウエストと、白くて長い足が新鮮で魅力的だ。


「朝から何度も自分にクリーンナップをしてますが、何度やっても汗が出てきます」

「湿気さえ取れれば、暑さはそうでもないんだけどな」

「使ったことはないですけど、砂漠の風って魔法陣はありますけどね」

「なんだ、その魅力的な響きは? ちょっとやってみてよ」

「部屋で使っても、大丈夫でしょうか?」

「出力を弱めて小さいのでやってみれば大丈夫じゃないか?」

「そうですね」


 紙に、セフィアが小さな魔法陣を焼き付ける。セフィアが魔力を注ぐと魔法陣から風が巻き起こった。魔法陣から乾燥した五十度くらいの熱風が吹き上がる。

「おぉ~、心なしか湿気が無くなっていく気がする。でも暑い!」

「中途半端に湿気が残っているので、返って不快になりましたね」

「わはは、失敗だな。でも、これはこれでホバークラフトに組み込んだらスピードアップするかも知れないぞ。前に作ったファンヒーターもこれで十分じゃないか」

「あら、本当ですね!」


「氷を出すのとかは、ないのか?」

「ありますよ。極寒の大地という魔法陣です。これも使ったことはないのですが」

「やってみよう」

「はい」

 魔法陣を描いてセフィアが魔力を通すと、床に五十センチ角ほどの氷の塊が出来た。この氷を作るために部屋の空気中の水を使ったようで、湿気が無くなった。

「おぉ、湿気が取れたじゃないか!」

「ほんと、取れましたね!」


 セフィアは嬉しそうに笑う。最近セフィアは良く笑うようになった。ミレザ革命のころは、いつもクールな感じで、こんなに自然に笑うことはなかった。亜湖ノートの袋とじページ事件のように感情の起伏は激しいほうだが、笑うということについては、はにかむ程度の控え目の笑い方だった。それが、今は心の底から喜んで笑っている。結婚して約三年、裕介は妻の笑顔に家庭を持った実感を感じるのだった。


「そうだ、かき氷を作ろう!」

「かき氷ですか?」

「厨房を借りよう、セフィア、氷を持ってきてくれ、俺はカレンさんを呼んでくる」

「はい…」

 セフィアは氷をアイテムボックスに収納し裕介の後についていく。


 厨房で話をつけた裕介は、カレンに小豆を炊いてアンコを作ってくれと頼み、自分は大量に砂糖を水に溶かして煮詰めている。シロップを作っているのだ。

 シロップとアンコが冷えるのを待って、セフィアに流しの中に氷を出してもらうと、土魔法で氷を雪状に変えた。コックにフルーツを切ってくれと頼む。

 お皿に、アンコ、雪、フルーツをトッピングして、上からシロップをかけた。

「みぞれ金時だ!」

 オスタールの粉末緑茶を混ぜたシロップをかけたバージョンも作った。

「宇治金時だ」

 

 店のものも入れて、みんなで食べる。

「うーん、うまい!」

「頭がキーンとなります!」

「これはいいな、うちの店で扱わさせてもらえないだろうか?」

「氷が作れれば、出来ますけどね。試してみますか?」


 セフィアの極寒の大地の魔法陣に、コックが魔力を流してみる。氷が出来た。

「作れましたね。じゃあ、俺が宿にいる間にかき氷機を作りましょう!」

「おぉ、作ってもらえますか!」

 この宿に『かき氷はじめました』と暖簾がかかるようになるのは、翌年のこの季節からだった。


 そんな話しを、かき氷を食べながら店主としている時だった、入り口のドアが開き街の自警団の男が駆け込んでくる。

「大変だ! 対岸にギガンテス孔雀がやってきた! この宿に冒険者はいないか?」

 まるで、飛行機の中の、お客様の中にお医者さまはおられませんか? 的なノリだ。

「おう! 俺は冒険者だ!」

「アタシも!」

 さっきまで一緒にかき氷を食っていた、三名の男女が名乗りを上げる。

「じゃぁ、俺の船で対岸まで運んでやろう」

「ありがたい!」


 表に出てセフィアがアイテムボックスからミセスセフィアを取り出す。

「そうだ、セフィア、ペラの魔動モータの魔法陣を、さっきの砂漠の風に書き換えてくれるか?」

「はい、あなた」

「どのくらい速度が上がるかな? さぁ、乗った乗った! カレンさんは、ここで待っていてくれ」

 三人の冒険者を乗せて、ミセスセフィアは、最大高度二十メートルまで垂直上昇する。

「なっ! この船は飛ぶのか?!」

 驚く冒険者たち。

「今さっき、水平飛行の魔法陣を書き替えたばかりだからな、試運転だ、危ないから座ってしっかりつかまっていろよ!」


 最初は、少しづつ片側に魔力を注ぐ、船がゆっくりと旋回する。

「あれ、だな!」

 対岸の畑に大きな孔雀が数羽飛来していた。

「五羽もいるぞ! じゃぁ、行くぞ!」

 裕介は砂漠の風の出力を上げる。速い! 六十キロくらい出たのではないだろうか。まるでジェット噴射だ。あっと言う間に孔雀の側まできた。文字通り一飛びだ。

「これはいいな! でも、雨が顔に当たって痛い。ミリムレンズをしていて良かったよ。じゃぁ、降りるぞ」

 作った裕介自身も、思った以上の出来だったようだ。


 船が五メートルくらいまで降下すると、冒険者たちが制止も聞かずに剣を抜いて飛び降りた。一直線に孔雀に向かっていく。

 気づいた孔雀は、羽根を広げて威嚇する。半径五メートルの扇だ。何やら恐ろしい一つ目の怪物の顔が、四つついている。あれがギガンテスの顔なんだろう。


 怯むことなく冒険者が立ち向かう。孔雀が広げた扇を振った。

「危ない!」

 既に降下していたミセスセフィアが、孔雀が巻き起こした風で傾く。慌てて裕介は、船を空中に浮かせ立て直して孔雀の反対側に回り込んだ。

 冒険者たちは風に飛ばされてひっくりかえって泥だらけになっている。

「ありゃ、ヤバいな。まさか扇いでくるとはな」

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