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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
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126 アペリスコ

 裕介、セフィア、ステラは、オーベル川を超え、アルバスとその北にある宗教国家スレブにまたがる巨大湖スレーブル湖の、南湖畔からアルバスの首都アペリスコに到着した。


 スレーブル湖の西岸と東岸ではガラッと景色が変わる。西岸はオーベル川中流を中心にしたジャングルに近い景色だが、東岸はイギリスの湖水地方を思わせる緩やかな丘と牧草地帯だ。更に東へ行くとこの牧草地帯が砂漠に変わるらしく、ネプル砂漠と言う。

 この砂漠がイスロンとの国境だと思っていたら、砂漠の南に砂漠と同じ名前のネプルと言う小さなオアシス国家があるらしい。


 ネプルの南には小さな山脈があって、その山脈の南までアルバスは迫り出していて、スレーブル湖を水源にする大河パイロン川とこの山脈で囲まれた三角地は広大で肥沃な土地なんだそうだ。

 アルバスは、水に恵まれた赤道直下の暖かい夢のような国だった。


 国家としては治水がほとんどの事業で、スレーブル湖と東西の山脈に守られて、侵略の心配も無く、凍え死ぬ心配も無い。食べ物は肥沃な土地でいくらでも出来る。王国なのだが、税金も安く実にのんびりとした国だ。

 国民は、歌舞音曲を楽しみ、芸術が栄える国だ。

 裕介もセフィアも、ステラさえも、この国で毎夜開かれているというオペラのような演劇を観るのを楽しみにしていた。


「魚を釣るのにも、申し分ない国なんだよな。スレーブル湖でもボート釣り出来そうだし、大きな川が二つもあるし」

「そうですね。暖かくて食べ物も美味しいそうです」

「人間ものんびりしているわよ。働かなくても生きていけるほど芳醇な土地だものね」

「いいなぁ、こんな国に転移したかったな」


 そう話しながら街に入ろうとしたが、街の入り口で足止めを食う。なんでも午後三時までは昼寝の時間だから、門が閉まっているらしい。

「のんびりしているのは良いけど、これはどうなんだろう?」

「郷にいれば郷に従えって、言いますから仕方ないでしょうね。待つしかありませんねぇ」

 セフィアはのんびり待つ気でいる。


「門が閉まっているんじゃ、どうしようもないわね」

 ステラも諦めた様子だ。日本人の裕介だけが、ありえないと思っているのだった。

「あなた、果報は寝て待てと言うじゃ無いですか。私たちもお昼寝しましょう」

「セフィアって、慣用句が好きだよな」

「日本語を覚えていて、一番面白いって思ったことでしたからね」


「いるいる、そんな慣用句にやたらと詳しい、変な外人」

「へ、変って言わないでください」

「悪い悪い。で、因みに、一番好きな慣用句ってなんだ?」

「棚からぼた餅、ですね。憧れます」

「食べ物かーい! セフィアって、そんなに食いしん坊だったか?」


「あなたが、美味しいものばかり作るからですよ。特に最近すごくお腹が減るんです」

「そんなこと言ってたら、デブデブになっちゃうぞ」

「ひっ! それはダ、ダメです!」

「黒髪のデブ魔女なんて呼ばれたら、どうする?」

「ヒェ〜! 嫌です!」


「さっきから聞いてると、酷いこと言ってるわね!」

 暇を持て余していたステラも会話に入ってくる。

「そうか? 夫婦の会話(ジョーク)じゃないか」

「女性に対して、デブだの、おっぱいが大きいだの!」

「言ってねぇよ! 無理矢理話しを膨らませるな!」


「やっぱり、大きなおっぱいの方が好きですか?」

「いや、言って無いって! 俺はセフィアので十分満足してるって」

「ふふん、どうかしら。大は小を兼ねるけれど、小は大にはならないのよ」

「ステラの方が酷い事を言っているじゃねぇか!」


 そんなバカ話しをしているうちに、三時を過ぎたのか、門が開いた。裕介達は入門手続きを済ませ、アペリスコに入った。

「宿をお探しかい? セニョール、セニョーラ、セニョリータ!」

 さっきまで昼寝していただろうに、早速呼び込みが近寄って来る。

「いや、先に寄るところがあるから」

「じゃ宿が入り用なら、アルペカって宿に来てくれ、セニョール」


 裕介達はギルドに、ステラはパルージャ商会に向かう。パルージャ商会で宿を紹介してもらった方が堅実なのだ。宿探しはステラに任せて、裕介達は商業ギルドに顔を出した。

 ギルドカードを提示して、自分達宛の荷物や手紙が届いていないか、現在の預け金はどうなっているか確認する。


 例によって、VIP待遇の扱われでギルド長室に案内された。

「初めまして、カワハラギケン様。ギルド長のゴルロス・カーンです」

「初めまして、ユースケ・カワハラと妻のセフィアです」

「ベイグルのエスパール伯のご長女のセフィア様ですね。初めまして」

 ゴルロスは、セフィアの手の甲にキスをした。


 現在のカワハラギケンの預け金は金貨五千枚を超えたそうだ。登録した製品も多くなったので、使った分を差し引いても、十分利益が出ており、本人は投資のつもりは無いが、この世界では裕介は有能な投資家だと言える。

「アペリスコに到着されたばかりで申し訳ないのですが、ご相談に乗っていただきたい事がございまして」

 ゴルロスが申し訳無さそうに切り出す。

「なんでしょう?」


「ご存じかと思いますが、この国の西の川、オーベル川はゴールドラッシュに沸いております」

「ええ、オスタールでもそう聞きました」

「次々と金細工の精巧な商品が持ち込まれるのですが、中には混ぜ物をして割り増ししたもので純金だと言い張る輩もおりまして、真偽を確かめるために、商品に傷をつけるわけにもいかず困っております。そういう輩を商業ギルドとしては追放したいのですが、これを確認できるような土の勇者様のお知恵をお借り出来ませんでしょうか?」

 裕介はハーンと思った。


「土の勇者だからというわけではなく、これは転移前の世界であった有名な話しです。アルキメデスの王冠って話しで、同じことがあったんです」

「ほう?」

「水を一杯に浸した瓶にその商品を沈めます。すると瓶から水が溢れてこぼれ出します。つまりその溢れた水が、その商品の体積です」

「ふむふむ。商品が占めた容積だけ水がこぼれるということですな」

「後は、同じ体積の純金と、その商品を天秤にかけて釣り合えば、まがい物のない金です。金は一般の金属では一番重いので、まがい物であれば軽くなっているハズです」

「ほぉぉ~! すばらしい! おっしゃる通りです、それなら私にも理解できます。ありがとうございます!」


 ギルド長のゴルロスは、裕介の手を固くに握り絞め、可能な限り長くアルバスに滞在してくださいと頼むのだった。

 ギルドを出た裕介に、セフィアが嬉しそうに腕を組んで、珍しくベタベタと引っ付く。

「うふっ、やっぱりあなたは凄いです。私はあなたの妻で本当によかった」

「いや、たまたま知ってたのと同じ話しだったからだよ」

 この大好きな夫の為に、頑張って胸を大きくしたいと思うセフィアであった。

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