125 ルビースライム(地図あり)
やっと春らしくなって来たな、ミリム。
俺たちは、オスタールを離れて、アルバスに入った。オスタールよりもまだ暖かい国だが、これから雨季に入るので雨が続く事になるんだろうな。
そうなると、アミル君が送ってくれたレインコートの出番だな。
スピニングリールは作れたか? こちらで使ったのは三千番から五千番だ。アオリイカは三千番で、ドラドは五千番で獲った、五千番になるとスピニングでもパワーがある。これにXHのロッドを組み合わせると結構な怪魚でも釣れるぞ。
全くの初心者のイルボンヌが一メートル超えのドラドを仕留めたんだからな。
セフィアの写真にもあるアロワナって魚を、オスタールのモモ姫が飼ってみたいと言うので、オスタール城に大きな水槽を作って、釣ったアロワナを入れてみた。日本でも観賞魚として人気のある魚なので、喜んでいた。その時作った魔動モーター式のエアーポンプを一緒に送る。魔力電池が組み込んであるので、一度魔力を込めればしばらく動く。
そちらでも、水槽で魚を買う人や、小さなエビを餌にして魚を釣る人には使えると思う。
ステラがゲルトで日本料理店を作ると言っているので、生きた魚を捌いて直ぐに食べさせるような割烹料理には必要なポンプだぞ。
それと変ったものを作ったと言えば、空を飛ぶ船だな。ホバークラフトと言うのだけど、これは俺の魔力じゃないと飛べないから市販は無理だ。これを使ってオーベル川水源のワニや蛇が一杯いる湿地でドラドを釣った。大物がほぼ入れ食いするし、パワーはあるし、面白い釣りだったぞ。
その帰りに見つけたスライムをアミル君に別便で送った。ルビースライムというそうだが、何が出来るのかは分からない。俺も旅をしながら研究してみる。面白いものが作れれば良いな。
俺たちはアルバスにいたらしい、昔の日本人転移者の子孫を探してみようと思う。ついでにオーベル川とパイロン川で釣りだな。
次は何が釣れるか楽しみだ。
裕介・セフィア
ドラドと言う魚を抱いて大喜びしている裕介。
アウトリガーを張り出し宙に浮いてる船。
大きなヘビやワニが水面に目を出しているジャングルの湿地。
大きな水槽で悠々としている、顎のしゃくれた変な魚。
そんなセフィアの写真を見て、異国のジャングルや魚に驚き、また新しい乗り物、空飛ぶ船に驚くミリムだった。
「兄さんと姉さんは、本当にすごいな。空飛ぶ船かぁ〜、乗ってみたいな」
数日後、ミリムはグレッグ研究所に来ていた。
「珍しいね、ミリム姉ちゃん」
アミルが迎えてくれる、研究所所員はいつに間にか二十人に増えていた。
昨年の夏の間に、サファイア繊維の子会社がパルージャ商会との合弁で設立され、Tシャツや冬用のジャンパーが流行った。
新たなゴムを開発したことで、製造はアコセイサクショに任せたものの、資産が増え、グレッグ孤児院からこの春の卒業生の受け入れと、一般募集で人を増やしたのだ。
わずか一年で、裕介が出した資本金の三倍の年商をあげていた。
アミルも亜湖ノートのコピーをセフィアから受け取っており、その中から既にファスナーを開発していた。裕介達に送ったレインコートには、このファスナーが用いられていた。
「あっと言う間に研究所は大きくなったわね」
「そう言うミリム姉ちゃんとこだって、ブルケンとサーズカル、エノスデルトにも三店舗増やしたじゃねーか」
「売り場だけね。工場はまだゲルトだけよ」
「この間ユースケ兄ちゃんから、ルビースライムが届いたんだ」
「知ってる。手紙に書いてあったわ。すごいところで見つけたみたいよ」
「ちぇ、もう知ってたのか」
「何か作れそう?」
「増やすのは、サファイアスライムと一緒なんだけど、出来る樹脂の性質が違うんだよ」
「へぇ〜、そうなの?」
「サファイア樹脂は、熱をかけて溶けたものを固めて形にするだろ?」
「そうね」
「そこまではルビー樹脂も全く同じなんだ」
「じゃあ、何が違うの?」
「うん、サファイア樹脂はもう一度熱をかけると、また溶けて元に戻るけど、ルビー樹脂は熱をかけてももう溶けないんだよ」
「えっ? 一度固めたら、それっきりなの?」
「そう、亜湖ノートによれば熱硬化性樹脂って言うらしい。ちなみにサファイア樹脂の方は熱可塑性樹脂で、再利用が可能だけど、こっちは無理だね」
「じゃ、使い勝手はサファイヤ樹脂の方がいいじゃない」
「そうだな。でも、サファイヤ樹脂を使用できるのは百度くらいが限界だけど、ルビー樹脂はもっと高い温度でもまったく平気なんだ。しかも燃えにくい。だから食器や熱が加わる場所にも使用できる。竿のFRPやルアーなんてルビー樹脂の方がいいんじゃないかと思うよ」
「でも、燃やせないそんなの沢山作っちゃうと、そこら中ゴミだらけになっちゃうよ」
「そうだよね。でもこのスライムのいるオーベル川はそうなっていないわけだから、川の水になんか秘密があるんだろうな」
「そうね。それは、サファイアスライムのいるサブル川も同じなのかも」
「そう言われれば、そうだよね。サブル川だって、いつの間にかサファイア樹脂は消えて無くなっているんだものね。きっと川に樹脂を分解する何かがいるんだよ」
「ちょうど、お兄さん達がオーベル川の下流のアルバスに到着する頃だから、オーベル川の水を送ってもらうわ」
「うん、そうだ、亜湖ノートに顕微鏡ってのがあったんだ。ミリム姉ちゃん、これって作れそう?」
「見せて」
アミルは、ミリムに亜湖ノートの顕微鏡のページを見せる。単純な凸レンズを二つ組み合わせた光学式顕微鏡だ。
「これって何するものなの?」
「目に見えない小さなものが見える道具らしいよ」
「お兄さんが作った望遠鏡に似てるけど、どちらも凸レンズなのね」
「作れそう?」
「お姉さんに任せといて! リールを作るよりは簡単よ! レンズも専門だしね!」
ミリムは、最近急に大きく膨らみ始めた胸を叩いて、アミルに向かって親指を立てた。
手書きですが、大まかな地図をアップしました。