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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
124/294

124 ドラド

 ラインは水飛沫を上げて真っ直ぐに水中に向かって立ち、リールのドラグが音を立てて滑り出す。魚は船から離れる方向に走ったと思ったら、右に走り、ターンして今度は左に走る。

 裕介は、息を止めて竿を掴んだ手に力を込め、魚と反対側に竿を向けて魚の走りに堪える。豪快なジャンプだ! まるでスローモーションを見るように、魚が飛沫を蹴散らして水上に飛び、二度三度身体をくねらせ頭を振る。金色! そう、身体全部が金色だ!


「ドラドだぁ~!」

 裕介は、竿先を水中につけ出来るだけ、鉤から角度を取る。

 再びジャンプ、大きな魚体を左右に振り、バンバンバンと、ドラドが水上を水平に動く。

 それでも、丸呑みしたルアーは外れない。

「ひゅう!」

 裕介は酸欠になるかと思うほど、息をするのも忘れ魚と対峙していたので、ここいらで空気が必要になった、喉から変な音と共に大きく息を吸い込む。


 まだドラドは弱らない。少しだけリールは巻けたが、またジャンプする。

 人、リール、ロッド、ライン、フック、そして魚。そのどれが最初に根をあげるかのパワーゲームだ。障害物が多いので、ラインを巻き込まれたり入り込まれても人の負けだ。


 ドラドはまた走る。大きさは八十センチくらい、地球のドラドと比較しても中サイズというところだ。

 しかし、アドバンテージの多い中、この金色の若者は正々堂々と勝負を挑んできた。またドラグが唸る。ドラドはまだまだ走る。


 真っ向勝負の果て、遂にドラドが観念した。

 ようやく、リールを巻く事が許され、セフィアの構えた網に魚が入る。


「よっしゃぁぁ〜!」

 金色に輝く魚を抱いた裕介が、勝者の雄叫びをあげる!

 まるで鮭の様な体型、ご丁寧に油鰭まで付いている。金色の全体に規則正しい黒点が体側に散りばめられていて、太い尾鰭の付け根、これがパワーの源だろう。


「今日のは怪魚と言って相応しいだろう! じゃあ、正々堂々とファイトした事に敬意を払って返してやるよ」

「えっ! 食べないのですか?!」

 とサリル。

「君たち騎士も正々堂々と闘った相手は、命までは奪わないだろ?」

「おぉ! まさか、騎士道を説かれるとは! 共感いたします!」


 とは言うものの、ワニやヘビやもしかしたらピラニアがいるかも知れない湿原。流石に水の中に手を入れる気にはならず、申し訳ないが頭から水に戻すことでリリースさせてもらった。

「俺一人で楽しませてもらって悪かった。じゃあしばらく操縦に専念するから、次の場所は釣ってくれ」


 そう言うと裕介は再び船を浮かして、次のポイントに移動した。

「いやぁ、モモ姫の言った通り、ドラドがいたなぁ」

「フィッシュ オン!」

 裕介が話しているうちに、セフィアの竿がしなる。魚がジャンプする、やはり金色だ!

「また、ドラドでしょうか?」

 キシュリッジがそう呟くが、ちょっと違うような気がする。大きく、パワフルだがドラドほどでは無い。大きいと言うより長い?


 魚が再びジャンプし翻る。

「アロワナ? ゴールデンアロワナか?」

 ドラグは最初に少し出たっきりだが、ラインがガイドに擦れて、キューキュー音が出る。セフィアは割とキツめのドラグでゴリ巻きしている様だ。結構力いるだろう。ラインは太いので問題無いだろうと裕介は思う。

 裕介の構えた網に魚が入った。


「おめでとう! ゴールデンアロワナだな。九十センチ行ったんじゃないか?!」

「多分、今までで一番大きいです」

 セフィアは嬉しそうに、珍しく白い歯を見せて笑う。

 なんだかセフィアも釣り人らしくなってきたなと、裕介は思う。


「自己記録、おめでとう! いえーい!」

「いえーい!」

 いえーいのハイタッチだ。

 イルボンヌが羨ましそうな顔をする。

「なんだ? イルボンヌもいえーい、したいのか?」

 裕介は、魚ををリリースしながら聞く。

「したいです! でも釣ってからです!」

「おう、釣ってくれ!」


「おっ! 上手い!」

 剣士ではなく射手のイルボンヌは、どちらかと言えばキャストは他の二人に比べて、下手な方だ。そのキャストが、浮き草際の絶妙な場所に決まった。

 それは着水と同時だった。


 バゴン!


 水面が畝るような捕食とともに、イルボンヌのラインがピンと張る!

「えっ! フィッ、フィッシュ オン!」

「これもデカイぞ!」

 ドラグが出る! 耐えるイルボンヌ。魚が跳ねる! 金色の魚体、ドラドだ! 裕介のものよりも大きい!


「デカイな! スピニングで獲れるかな?」

 裕介の心配を他所に、イルボンヌの竿さばきは素晴らしかった。自分の背丈の三分のニはある弓に、矢を番えて速射する彼女だ。竿の取り回しは、たわいもない事なのかも知れない。

 しかし、リールを巻くのは不慣れなため、慎重に慎重にイルボンヌは引き寄せて来た。


 網で掬う。大きなタモ網で尻尾がはみ出す。

「重っ!」

 二十キロあるんじゃ無いだろうか? 堂々のメーターオーバーだ。

「やったな! いえーい!」

 嬉しさではち切れんばかりの笑顔のイルボンヌと、裕介はハイタッチした。イルボンヌは、そのままセフィアや仲間とハイタッチしている。


「あのぉ、食べてみたいのですが、良いですか?」

「食うのか? いいぞ、じゃあ絞めよう」

 裕介はドラドを絞めて、アイテムボックスに入れた。

 その後もドラドとアロワナは、祭り状態で釣れ続き、五人は満足して帰路に着く。


「あれ? 来る時には気づきませんでしたが、あの赤い水辺でウニャウニャしているのは、スライムじゃないでしょうか?」

 セフィアが、逆ワンドになった砂地の岸辺を指差してそう言う。

「そうなのか? スライムなら持って帰らないと」


 確かに赤いスライムだ。

「私も見るのは初めてですが、多分ルビースライムです。何に使えるかは分かりませんが、アミル君に送ってあげましょう」

「そうだな」

 ワニやヘビがいないのを確かめて、砂地に降りた裕介は、砂で甕を作ってサファイアスライムの時と同じように、密閉してアイテムボックスに入れた。

「面白い使い道が見つかれば、いいけどな」


 村に戻った。

「この間のサシミと言うので食べてみたいのです」

「えっ? 川魚の刺身か? 寄生虫がいるかも知れないぞ?」

「ダメですか?」

「いや、まぁ、治癒魔法があるからいいかぁ〜」


 一メートルを超えるドラドを三枚に下ろして、刺身にする。食べてみる。

「んっ? これはサーモンだな? 美味いぞ」

「家族にも食べさせてあげても良いですか?」

 あまりに美味しいので、キシュリッジはそうしたいらしい。

「良いよね? イルボンヌ?」

「もちろんです。ちゃんと私が釣った事も言ってくださいよ」


 かなりの量だから、工事関係者にもお裾分けした。

 それでも半身は、女子四人で食べてしまった。

 どんだけ、食べ盛りなんだ?

挿絵(By みてみん)

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