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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
123/294

123 ホバークラフト

 約束した道路の固化は一通り終わり、後は湿原部分のアーチ抜きだけが残った。これは水上から作業する必要があるが、アリコンドが這っていたような湿原の水の中に入ろうという者は誰もいない。

 最初は、舟で土嚢を運んで沈めて行ったそうだ。でも水草が多く手漕ぎの舟でも進むのに苦労したらしい。

 けれども、乾季ですら水が残る場所だからこそ、水の通る場所を開けておく必要があるんだ。この場所が毎年決壊するのも多分、ダムのように水の流れを堰き止めているからだろうと裕介は説明した。


 みんな一様に納得はしたが、さて、どうやってその作業をするかだ。

「大丈夫、セフィアと三人娘で作業しますよ」

「湿地の水辺もすごいぬかるみですよ。舟を入れるのも苦労したんです」


「ここから船を入れます」

「えっ? この土手を船で降りるのですか?」

「まあ、見ていて下さい。それと、作業が終わったらそのまま釣りに行きますが良いですかね?」

「大臣から、立ち入り許可をしたと聞いていますので、問題無いですが、釣りですか?」

 工事責任者は、正気か? という顔をする。


「じゃあ、取り掛かろうか」

「はい」

 三人娘も工事関係者も何をどうやるつもりだ? とこれまで目の当たりにしてきた、勇者と魔法マエストロのチート能力に期待している。


 セフィアはアイテムボックスから、ミセスセフィアを取り出して、道路上に置いた。ボートトレーラーと船外機は取り外してあるが、代わりに前後四本の船から張り出したアウトリガーと、後方アウトリガーの上に大きな扇風機が左右それぞれ付いていた。

 アウトリガーに支えられて、船は道路上でも水平を保っている。しかし高さは二メートル近い。

「じゃあ、乗ろう。イルボンヌ、サリル、キシュリッジ、行くぞ」

 裕介は、前方アウトリガーの上を渡って船に乗り込んだ。女子四人も続く。


 船が五十センチほど宙に浮かんだ。後ろ左の扇風機が回り始め、船がゆっくりと旋回する。道路と直角になったところで前に進み始めた。

「揺れるぞ、しっかり捕まっていろよ」

 ガクンと船が前方に向かって傾いたが、程なく姿勢を取り戻した。

「テイクオフ成功だな!」

「はい、あなた。上手くいきましたね」


 あろうことか、湿原から船は十五メートルは宙に浮いている。空飛ぶ船だ。

「でぇ〜! イルボ、私たち空を飛んでいますよ!」

 はしゃぐ、サリルとキシュリッジ。イルボンヌは、あまり高いところは得意で無い様だ。

 道路上で見ていた工事関係者や兵士は、顎が抜けそうなくらい大口を開けて、両目をカッと開いて凝視している。

「きっ、奇跡だ! 神なのか?!」


 理屈は簡単だ。取り付けられたアウトリガーには、五十センチ、二、五、十、十五、二十メートルの六つのエレベーター魔方陣が描かれていて、それぞれが運転席の高度レバーのダイヤと連動している。裕介は、魔力を通しながら、五十センチから、十五メートルに高度を切り替えただけなのだ。

 推進は、後方アウトリガーに取り付けられた左右の扇風機で動き、片側を切ることで旋回が可能だが、大した速度は出ない。

 裕介とセフィアは、ミセスセフィアにアタッチメントを付ける事で、ホバークラフトの機能を追加したのだった。


 湿原で釣りをするのには、船外機ではどうしても藻に絡んだり障害物が邪魔になる。アウトリガーが釣りの邪魔になるが、それと速度を犠牲にして安全に航行する方法を選んだのだ。

 いざと言う時に高度を取って避けられる様に、数種類の魔方陣を用意したことで、林程度なら飛び越せる。

 また動かなけば船として水面に浮かび、水上に突出する扇風機でちょっとした動きは可能だが、アウトリガーの水力抵抗が大きいので、旋回や引っ掛かりを回避する程度だろう。


 セフィアは、新婚当初に山上湖に行った時に『そのうち、俺が空飛ぶ乗り物を考えてやるよ』と言った約束を果たしてくれた事が嬉しかった。

 本当に出来たのだ。


「じゃあ、アーチ抜きをさっさとやって、釣りに行こう! セフィア、アーチを土手に焼き付けてくれ」

「こんな感じですか?」

 セフィアは魔方陣を焼き付ける要領で、既に抜かれたアーチと同じ大きさの線を土手に書いた。まるでレーザー加工だ。

「いいな。じゃあ抜くぞ!」


「じゃあ、行ってきます! 夕方には戻りますから」

 一時間もかからずに、全てのアーチ抜きを完了した二人は道路上の工事関係者に手を振って、ゆっくりと下流に向かって進み始めた。


「やっぱりワニがいるな。それもデカイ」

「クロコディールスですよ。アレも美味しいんです」

 サリルがそう言うが、あれを獲る気にはならない。爆裂魔法で吹っ飛ばすくらいだろうなと裕介は思う。それよりもルアーに食い付かなけりゃいいが。

「じゃぁ、この辺りでやってみるか。藻や障害物が多いからトップウオーターから初めてみよう」

 船を水面に降ろし、全ての魔力を解く。


 裕介は、スピニングタックルにポッパーというトップウオータープラグをセットした。

 ルアーは、大きく分けるとハードルアーとソフトルアーに分かれる。ゴミョルのようなゴムのような材質で作られたものを、ソフトルアー。木や金属、プラスチックで出来たものをハードルアーという。その中でも、木やプラスチックで小魚の形を模したものをプラグと呼ぶ。他には、針金を曲げて作ったワイヤーのもの、メタルジグやスプーンのように金属製のものや、ラバージグやタイラバのように金属とゴムがセットになったものなどがある。


「こうやって、引っ張って水しぶきを上げて下から食ってくるのを待つんだ」

 裕介はポッパーをキャストして水面に浮かせ、時折しゃくる様に引っ張って、ポッパーの正面の湾曲した面で、ポコッと言う音と共に、水しぶきを上げている。

 いきなり水面が盛り上がった!

 バゴッという空気を含んだ大きな捕食音と共に、金色の頭がせり上がってきた。


「フィッシュ オン! いきなり本命が来たか?!」

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