122 アリコンド
道路工事は順調に進み、三日目で湿原が現れた。
この辺りは乾季でも水が残ってレスパール川の水源は、この辺りから始まっているようだ。
多くの生物の水場になっているのだろう、魔物の濃度もグッと濃くなる。セフィアに持たされた魔物レーダーは、高速点滅しっぱなしだ。
「ゲッ! ヘビだ。でっかいヘビだ。気持ち悪ぅ」
全長十メートル近くありそうな、大きな蛇が道路沿いを這っている。
「アリコンドです。もっと大きなのもいますよ。あれは結構美味しいんです。釣って下さい」
「無茶言うな。お前らウツボ釣った時ヘビだって大騒ぎしてたじゃないか!」
「あれは毒ヘビだと思ったからです。毒ヘビは不味いんです」
「毒ヘビでも食うのかよ?!」
「じゃあ、私が仕留めてきましょう!」
「あっ!ま…」
裕介が静止する前に、サリルは剣を構えて今しがた固めたばかりの、傾斜角六十度はあろう道路土手斜面を斜めに走り下って行った。
「どう言う身体能力してんだよ!」
アリコンドの頭の後ろで飛んだと思ったら、ジャンプ一発頭を落とした。頭を落とされてのたうち回るヘビの胴体を駆け抜けて、また斜面を飛ぶように駆け上がって来た。湿原に降りて行ったのに濡れてもいない。
「さぁて、これをどうやって引き上げるかが問題です」
「イヤ、考えて切ったんじゃ無いのかよ?!」
「いえ、何も…」
「残念美少女剣士かよ! 仕方がない、誰かセフィアを呼んで来てくれ」
「では、私が!」
イルボンヌが馬で駆けて行った。
セフィアと相乗りして戻って来る。
「仕事してたのに悪いなセフィア。アレを引き上げてやってくれ」
「ひえっ! ヘッ、ヘビですか?」
「美味しいんだってサリルが仕留めたんだが、持ち上げる事を考えていなかったらしい」
「良いですよ。じゃあ、道路に上げますよ〜」
セフィアが杖を振る。ズールの時のように、胴体だけの十メートルのヘビが水を滴らせながら宙に浮く。
「おぉぉ〜!!」
軍の兵士も三人娘も目を丸くして驚いた。
「あのぉ、そのまま、浮かせておいて貰って良いですか?」
「あっ、はい」
サリルとキシュリッジが二人で舞う様に剣を重ね上げたと思ったら、「はっ」と掛け声を発して左右に分かれ、あっと言う間に、ヘビを五十センチ長さくらいのぶつ切りにした。
それはまるで剣舞を見ている様であったが、ヘビはしっかりと切れている。
「もう降ろしてもらって良いですよ」
ヘビは兵士達が食材として村に持ち帰るようだ。
「どうでもいいけど、お前ら折角作った道路を汚しちまって、後で綺麗にクリーンナップしとけよ!」
「テヘッ!」
三人娘の力量は良く分かったが、ドラド釣り場にはこんなのがウヨウヨいるんだろうな。きっとワニとかもいるんだろうな。裕介は、ガイドとボディーガードを兼ねて三人娘に付いて来てもらう事に決めた。
「黄金の魚釣りの時、キミらも来ないか? ガイドとボディーガードをお願いしたいのだが」
「良いのですか? アリコンドも釣れますかね?」
「イヤ、それはやめて。ラインが切れる、竿が折れる、船がひっくり返る。お願いだから、魚だけにして」
「良いですよ。また何か美味しいものを食べさせて下さい」
「そうだな、スパイスも沢山仕入れたし、今度カレーでも挑戦してみるか」
「カレー? なんだか、聞いただけでも美味しそうな響きですぅ〜!」
「美味しい?」
イルボンヌの声を聞き付けて、サリルとキシュリッジ、そしてセフィアまでもが集まって来る。
セフィアもか?!
「あなたの作る料理なら、美味しいに決まってますわ」
「イヤ、俺は料理は得意じゃ無いって!」
「それは美味しいものが出来る時の台詞です」
「きっと、美味しいでしょう! あぁ、カレー! 楽しみです!」
「イヤ、変なフラグ立てるな! ハードル上げるな〜!」
その夜、アリコンドのから揚げだった。
豚や牛肉でも無い、強いて言うならば鶏肉に近いのだが、鳥と魚の中間くらい。さっぱりしている中に旨味があり、食感は鳥だった。
「確かに上手いな。これでチキンカレーしてみるか。イヤ、ヘビカレーだけど」
翌日は休息日だったので、早速ヘビカレーに挑戦してみる。日本の母の得意料理が手作りカレーだったので、ウンチクを良く聞かされていた。
スパイスは、ウコン、赤唐辛子っぽいものや色々混ぜたたら匂いと色がカレーっぽくなったので、これで良し。
油でニンニクを炒め、玉ねぎに塩を振って茶色くなるまで炒める。オスタールには生姜も売っているのだ。ウコンっぽいのがあるので、探したら見つかった。カレーにはおまけだが、魚料理には生姜は大事だ。
トマトもどきを入れ、スパイスを入れて炒め続けたらカレーのルーっぽくなった。
「ヨシヨシ。ここまで来ればほぼ成功」
出来たルーを舐めて、裕介はその懐かしい味と香りににやける。
「お手伝いします」
と三人娘が言うので、ヘビ肉をカレー用の大きさに切ってもらい、香草ぽい食材を探して来てもらった。
ルーにヘビを入れて絡めながら炒め、水を投入。やっと煮込み料理になった。
「最後に砂糖やジャムを入れるのがミソ」
母の言葉を思い出す。
「ありがとう、母さん。息子は異世界であなたのカレーを作っています。ヘビですが」
匂いに釣られて、女子四名が待ちきれ無いように、後ろをうろついている。そうなんだ、カレーと鰻と焼き鳥はこの匂いでお腹が空くんだ。
「じゃあ、出来たぞ。各自、ご飯をお皿に入れて並べ〜」
幸せそうに、お皿にご飯を盛り付け素直に並ぶ四名。セフィアもいつの間にか食いしん坊になっている。
「じゃあ、いただきまーす!」
「ハフハフ、これは! 止まりません!」
「クンクン、この香りと、辛さが新鮮!」
「ふあぁ! 辛いけど、美味しい」
「これも日本料理なのですか? 今までと全く違います」
「カレーは、インドと言う国で生まれて、イギリスで変化して、日本で独特に育った調理だから、日本料理っちゃー日本料理かもな。日本の国民食って言われるぞ。ヘビは初めてだけど」
「すごいです。日本料理」