118 寿司
オスタールは、初代王オス・タールの建国した国だ。代々タール家が王家を務め現在のコル王で十五代目になるらしい。モモ姫はその娘だ。
「何のお願いだろうな?」
「それは、モモ姫にお会いして直接お聞きください」
「そうです。私たちが先にお話しすると、しばかれます」
「しばくって、そんな野蛮なお姫さまなのか? 会いたくなくなってきたな」
「会って頂かないと、しばかれます!」
「益々会いたく無くなってきた」
三騎士をしばき倒すって、どんな荒くれもののお姫さまなんだよ。裕介とセフィアはそう話しながら仲良く眠った。
朝食は昨日の味噌汁と、今釣って来たばかりのアジの塩焼き、そしてアオリイカのイカ焼きだ。醤油を塗って網で焼いていると三人娘が起きて来た。
「おはよう御座います」
「おはよう。良く眠れたか?」
「はい、石のツルツルのベッドが冷たくて気持ち良くて、寝過ぎちゃいました」
「それは良かった。この世界の人は硬いベッドのほうが好きだからな」
「はい、持って帰りたいくらいです」
「持って帰ってもいいぞ」
「重すぎて、無理です!」
「ワハハ」
「めっちゃ良い匂いがしてるんですけど」
「今朝釣ったイカだ。食欲そそるだろ」
「はい〜!」
「縁日の匂いだもんな」
イヌもサルも朝からご機嫌だ。
「おはようございまひゅ」
キジはまだ寝ぼけている。どうやら朝は弱いようだ。
「ひょっとして、もう釣って来たのですか?」
「おう! アジとアオリイカを釣って来たぞ。釣り師の朝は早いんだ」
「ひやぅぅ、私はユースケさんのお嫁さんにはなれません」
キジはまだ寝ぼけている。
「もう、間に合ってるよ。さぁ食べよう」
「申し訳ありません!」
イヌは恐縮しているが、イカ焼きの匂いには勝てないようだ。
「はぁ〜、昨日の暖かいスープも美味しかったですが、冷たいのも美味しいです」
「今日は冷やし汁だ。出汁が良く出て旨いだろ?」
「このシンプルな魚料理もなかなか!」
「アジは塩焼きに限るよな!」
「でもやっぱり、イカが! あー、もうたまりません!」
三人娘は再び、胃袋を鷲掴みにされ裕介に完全に服従の態度だ、モモ姫がいなければ、何処までも付いて来そうな感じだ。
「さて、今日は船で出てみるけど、どうする? 付いて来るか?」
「船? 何処にあるんですか?」
「いつも持って歩いてんだ」
そう言いながら、裕介はアイテムボックスから、あらかじめ魔法でスロープを作った場所に船を出した。
「ひょえぇ〜! そのアイテムボックスは船も入っていたのですか?!」
「うん、ちょっと手狭になって来たけどな」
「そりゃぁそうでしょ、普通は小物しか入らないものです」
「モモ姫様は、良いのをお持ちですけどね」
「それをくれるんなら、お願い聞いても良いけどな。で、どうする?」
「行きます!」
イルボンヌはウツボを釣ったので、釣りはちょっと怖くなっていたのだが、ミセスセフィアが兎に角カッコいいのだ。乗せてもらえるのなら、乗ってみたいと思うのは、騎士とはいえ年頃の娘だった。
「ひゃー、早い! 気持ち良いです」
走り出した船の後部座席で、三人娘はキャアキャア言っている。フタコブの島の近くまで走って船を止めた。魚探が無いので深さは分からないが、なんとなく深そうな気がする。
上潮で島の両側から湾に入り込む流れがぶつかり合って、複雑な潮になっている場所だ。両サイドから、綺麗に潮目が立っている。
「セフィア、こう言う海面の波立ちが変わっている場所を潮目って言うんだ。こう言う場所は餌が豊富で、魚が集まってくるんだ」
「確かにこちらとこちらは、海面の色が変わって見えますね」
「あとは鳥山と言って海鳥が集まっている場所もポイントだな」
「鳥が教えてくれるんですね」
「うん、じゃあ、やってみよう!」
海に出ればやはり、ベイトリールの方が使いやすい。三人娘も昨日と同じ要領で、三人で一本の竿を使う。
「今日は、タイラバと言うルアーを使う。底まで落として一定の速度でただ巻くだけだ」
タイラバのスカートとネクタイもミリムに作って送ってもらった。ヘッドは自分で鉛や石で作った。裕介はまだ塗料は詳しくないので、鉛を色付きの石でライニングする方が簡単なのだ。
「フィッシュ オン!」
一番竿は、サリルだった。
「すんごく引きます! 竿は折れませんか?」
「多分、大丈夫だ。折れても気にすんな」
「気になりますよぉ〜」
「タイか? イヤ違うな。青物か?」
「すんごく、走るんですけど!」
「カンパチ? うん、カンパチだ! こいつは美味いぞ!」
カンパチは、ブリやヒラマサととても良く似た魚だ。口から目を通り背鰭まで黒い帯状の模様があるのが特徴で、斜め上前方から見ると、それが八の字に見える事からカンパチと呼ばれる。日本では、ブリよりも高級魚として扱われている。
「えへへ、美味しそうです!」
「フィッシュ オン!」
負けじとセフィアが叫ぶ。
上がって来たのは、七十センチくらいの、おちょぼ口の魚だった。セフィアはこの手の魚に強い。
「なんだコリャ? 多分フエフキダイの一種だな。 食った事が無い」
「食べれますか?」
「食べれるだろう。持って帰って食ってみよう。フエフキダイなら旨いはずだ」
「カンパチも釣れたし、今晩は寿司でも食うか」
「スシですか?」
「うん、日本食の代表だな」
スシ…! なんと美味しそうな響きだろう。
日本食は美味しいと、刷り込まれた女子四人の頭の中で、スシと言う甘美な響きがこだまする。
「!!! スシ オン!」
「イルボ違います! フィッシュ オンです!」