117 日本料理
「やっぱりアオリイカだ。しかもデカイし!」
セフィアに網入れしてもらって、アオリイカを取り込んだ。二キロくらいかな? この世界だと、五キロくらいは超えるのも釣れるかも知れない。
足元でプシュプシュ言っているアオリイカを締める。アイテムボックスから取り出したドライバーを、イカの眉間に刺して脳を破壊する。足側も閉める。これで美味しく食べれるハズだ。
「フィッシュ オン!」
キシュリッジと交代して釣っていたイルボンヌが叫ぶ。
「ぬぉぉぉぉ! なんですか?! 重い!」
物凄く竿がしなっている。
「なんだ? なんだ? 兎に角、強引に巻け〜!」
不慣れな手つきで、イルボンヌがリールを巻く。兎に角必死に巻く。タモ網を持って構えた裕介の前に現れたのは、ハリスにグデングデンにトグロを巻いて絡まった、大きなウツボだった。
「おぉぉ! よく上げたなぁ〜! キングオブ外道、ウツボじゃないか! ワハハ!」
「イルボ! なんてもの釣るんですか!」
「へっ! ヘビでしょう、それは?! 海ヘビです! 毒があるでしょう!」
「ひえぇ〜! 私だって釣りたくて釣ったわけではありません!」
イルボンヌが他の二人にボロクソに言われている。コイツら素になると、結構面白いなぁと、裕介は笑った。
「食べられない事も無いんだぞ、骨切りが手間だけどな。日本には、看板メニューにしている店もあったからな」
「食べられるんですか?!」
セフィアも入れて、四人が口を揃えて聞く。
出たぁ! この世界の食の冒険者達。というか、ただの食いしん坊だ。食べられると聞いた途端に、ウツボが食材に見えるから不思議だ。
「スタミナ料理だとか言うぞ、魚はグロテスクなものほど美味しいもんだ」
四人のウツボを見る目が熱い。
「では、食べましょう!」
「じゃ、危ないから頭を落として内臓だけ取っといてくれ」
カサゴが結構釣れる。ハタも混ざる。なんだかんだで大漁だ。リールも竿も特に問題は無かったので、帰ったら金型の複製と一緒にミリムに送る事にする。
「じゃ、料理するか。今日は食べた事ないだろうけど日本料理だぞ」
磯に亀の手が生えていたので、取ってきてそれで出汁を取る。亀の手は良い出汁が出るのだ。それに下処理したカサゴと取ったワカメを入れ味噌汁。
ハタは、煮付けにした。醤油の香りが食欲をそそる。
ウツボは骨切りして皮が付いたまま、醤油と小麦粉で下味をつけて唐揚げにした。
カサゴとハタの刺身。アオリイカの卵黄イカ。
ワカメの佃煮。コメも炊いた。久しぶりの日本食。
「あなた! 美味しいですよ!」
「だろ?! 日本食は無形文化遺産なんだぞ!」
「生の魚は、初めてです。臭く無いのですか?」
「まぁ、食ってみろって!」
三人娘はセフィアが美味しいと言うまで、食べようとしなかった。ビビっていたのか、主従関係の厳しい躾けをされているのか知らないが、恐る恐る口に運ぶ。
口に刺身を入れ、しばらく噛んでいた。
「ん〜!!! 美味しい! なんですか、このソースは?!」
「はぁ〜 幸せ。もう世界が終わってもいい」
卵黄イカを食べた、サリルがウットリしている。
「はうぅ、ウツボ美味しいです」
イルボンヌもご満悦だ。
みんなで、煮付けに手が伸びる。
「ふぁぁぁ〜 ここは天国ですか?」
「ほんと、セバスティスよりも美味しいです」
「そりゃぁ、ハタは高級魚だからな」
「コメに乗せて食っても美味いぞ」
「本当です。お汁が染みて美味しい!」
そして味噌汁。
「ほよぉぉ〜! 口の中に海がやってきました!」
「このスープは! なんて独特な香りなんでしょう!」
トドメは、ワカメの佃煮を乗せたお茶漬け。オスタールはお茶処なのだ。緑茶、紅茶の他、烏龍茶やプーアル茶のような醗酵茶まで大抵揃っている。無いのはコーヒーくらいのものだ。裕介はお茶漬けでシメにする。
「うーん、たくあん欲しい!」
日本食は、三人娘の胃袋を鷲掴みにしたようだ。釣りは楽しいし、美味しいものが食べられる。
夜は、魔物や虫の心配もなく、魔法で作られた最高級の石のベッドで眠れる。ついてきて良かったと思ったようだ。
「美味しかったですねぇ。日本食ってあんなに美味しいものだとは思いませんでした」
「日本食といえば、魚だからな。幸い今日は良い食材が沢山手に入ったしな」
セフィアも満足したようだ。
流木を拾い集めて、焚き火を始める。三人娘もロッジから出てきて、火の側に寄ってきた。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
イルボンヌが礼を言う。
「イヤ、大勢の方が楽しいからな。で、そろそろ誰が俺たちに会いたがっているのか、教えてもらっても良いかな?」
「モモ・タール姫です」
サリルがあっさり言った。
「サリル、ダメじゃないの!」
「イヤ、どうせ会えば分かる事だから」
「桃太郎?」
「いえ、モモ姫。この国の王女です」
そう言えば、この三人の名前も始めと終わりだけ取れば、イヌ、サル、キジじゃないか。吉備団子をやるから、鬼退治について来いとか言われるのだろうか?
「私たちは、この国の三騎士なんです」
キシュリッジが言う。
「姫さまが直接お会いして、お願いしたい事があると仰せで、お二人を探しておりました」
お願いしたいこと? やっぱり、鬼退治だ。と裕介は思った。