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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
110/294

110 帰港

 裕介たち三人が港に戻ると、港に入る前から並走して走る船、噂を聞きつけて集まった漁師や船員、野次馬でごった返していた。

「アレがズールか?!」

「良くあんな物を仕留めたなぁ〜」

「あの、帆も無く、艪も無しで動く船はなんだ?!」

「金属で船を作って浮かぶのか?」

 集まった見物客は、各々好き勝手言っている。


「ありゃ、ベイグルのなんとかギケンって成り上がりらしいぞ」

「それで、銀の船に乗ってやがるのか?」

「イヤ、奥さんは名家の出だって聞いた」

 裕介は苦笑しながら、見物客に声をかける。

「ズールを水揚げするから、場所を開けてくれ!」

「おーい! 聞こえねぇのか?! 下敷きになりたくなかったら、場所を開けろって言ってんだ!」

 バギラスに強く言われ、押し合いながら港の一角を見物客は開け始める。


「セフィアさん、行っちゃって下さい!」

「はい」

 セフィアが杖を振る。


 ズズザザザ!


 ズールの巨体が、水面に滝のように水を滴らせながら宙に浮かび上がる。

「おぉぉ、魔法だ!」

「すっげぇ!」

「おーら! どけどけ〜!」

 唖然とする群衆に向かってバギラスが怒声をあげる。群衆が散って空いた場所に、ズールが静かに降ろされる。落ちた衝撃で船は壊れて、海に沈んでしまったが、鉤はしっかりと上顎に刺さったまま残っていた。


「すっげぇ! もしかして、これで釣ったのか?」

「おうよ! じゃあ、俺が一部始終を話してやるから、みんな聞きやがれ」

 バギラスは得意になって、ズールの上に登り、ズール退治の出来事を語り始めた。


「俺は冗談を言ってる場合じゃねぇって言ったね。」

 群衆は、驚くほど静かにバギラスの話しに聞き入っている。バギラスは政治家になれるかも知れないと裕介は思った。


「高さニペクトから、ズールが落ちて来て海面に叩きつけられたんだ。その波の凄かったこと。お陰でこの通りびしょ濡れだ。それっきり、コイツは動かなくなってこの有様だ」

 バギラスは足元のズールを、ドンと蹴った。


「おぉぉ! すげえぜ、土の勇者。魔法マエストロ!」

 話しが終わると、群衆の地鳴りのような響めきが起こる。裕介とセフィアは、船の上にいたため、岸壁から声をかけられてたり、拍手を送られたりで済んだが、ズールの上にいたバギラスは大変ことになっていた。

 わっしょい、わっしょいとみんなに胴上げされ、裕介から見え無くなるまで運ばれていった。


「船にいて良かったなぁ〜 セフィア」

「はい」

 セフィアは目を丸くしている。


「みなさん! 静粛に! 冒険者ギルドのマスター、ゲイツビルです! ギルドから発表があります」

 なんだろ? と裕介はおもう。

「誰もなし得なかった、伝説の怪物ズールが、カワハラ夫妻とバギラス殿によって討ち取られました!」

 おー! と拍手が起こる。


「冒険者ギルドは、これを買い取り、今から解体して、みなさんに配ろうと思います!」


 おぉぉぉぉ!


 より大きな声援が上がった。

「では、四列縦隊で並んで下さい。慣わし通り、ズールに肉親を喰われた人から順番です」

 この世界には、魔物を打ち取ったらその魔物の被害にあった家族に肉を配って、食べて弔うと言う風習がある。

 ギルドの解体者なのだろう、大きな刀や鋸を持った人達が前に出てきた。

 解体にかかる前に、ギルドマスターが裕介のところに来る。

「金貨、三十枚で譲っていただけるでしょうか?」

「すごいな。普通のサメの百倍か? いいぞ。そうだ、歯を六本もらえるか?」

「いいですぞ」


「よーし! 話しはついた! 解体にかかれ!

 おぉぉぉぉ!

 群衆は、また盛大な拍手で盛り上がっている。

「六本って?」

「俺たち三人とセレナ、そんでステラとミリムに記念品だな」

「それはいいですね。ミリムセイコウにも飾ってもらいましょう」


 解体と肉の配布は夕方まで続いた。裕介は、先にお金と歯、肉をもらったので港を後にして造船所に戻り、船を仕舞った。


「お疲れ様でした。無事で良かったです」

「ウルさんの仇を討って来ましたよ」

「ありがとうございます」

 セレナは、ぼろぼろ泣いていた。子供達がお母さんに引っ付いている。

「これ、ズールの肉と歯です」


「いただけるのですか?」

「ええ、嫌で無ければ」

「こんな大きな歯に…」

 ズールの歯は、一つがリュックサックくらいある。鋸のように細かいギザギザが、縁に付いていて、そのままでも鋸として使えそうだ。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 キレトとアメリ、ムチリが声を揃えて礼を言う。

「うん」


「やっと解放された!」

 バギラスが戻って来た。

「あっ、これ、ギルドからお金を貰ったんだ」

 袋ごとバギラスに渡す。

「ひょえぇ! 金貨三十枚もあるじゃ無いですか。これはお二人が受け取って下さい」

「そうはいかないだろ、じゃあ、三等分にしよう」

「俺は何もしてませんよ」

「船も作ったし、銛を打ち込んだのは、バギラスさんじゃないか」


「じゃあ、三等分で」

「うん、ご苦労様」

「セレナ、ズールの肉だ」

「もう、裕介さんにもらいましたよ」

「そうか。でも俺のには特別な意味があるんだ」

「意味って?」


「ゴホン! 裕介さん達にお世話になったとはいえ、こうしてウルの仇を取ってきた。その… なんだ… おまえや、子供達のウルへの気持ちは、そのままでいいから… 俺がそれごと包むから…」


「俺と一緒にならないか?」


「えっ!」

「返事は今直ぐで無くてもいい」

「… こんな頑固者ですけど… 子供が三人もいますけど キレト、アメリ、ムチリ。お母さん、バギラスさんと結婚してもいいかな?」

「いいに決まってるじゃない!」

 キレトが間を空けずに返事する。

「よろしく、新しいお父さん!」

 アメリとムチリが声を揃えて、バギラスに言う。


「ごめんね」

「絶対、幸せにしてやるからな!」

 家族四人は硬く抱き合った。


「良かったですね」

「ああ、なんとなく、こうなりそうな気はしてたんだ」

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