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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
108/294

108 ズール1

 裕介たちが港に戻ってくると、メルトが腕を組んで待ち構えていた。

「銀色のえらく速い船が走っていると思ったら、やっぱりアンタたちだったのか。それかい? 黄銅で作ろうとしていた物は?」

「イヤ、これは違います。これは、アルミとファインセラミックの製品です」

「どちらも聞いた事の無い素材だな」

「魔法で作ってますからね」


「ふむ」

 メルトは、トレーラーで陸揚げした船の周りをぐるぐる周り、叩いたり押したりして、反響音や肌触りを確認している。

「なるほどな、兄貴が国に帰るハズだ」

「転生前の世界にあった素材ですからね」

「ボートは金属のようだが、船外機か? コッチは金属じゃあ無さそうだな」

「流石ですね。船外機はファインセラミックと言う、特殊な陶器です。市販用の物は、親方に納めてもらった黄銅鉱で作ってます」


「なにが違うんだ?」

「錆びないって事ですね」

「確かに陶器は錆びないよな。割れないのか?」

「二千五百度を超える高温と同じ魔法で固めた、特殊な陶器ですから、丈夫です」

「二千五百度か?! そりゃぁ、俺たちには無理だな。アルミとか言うのはどうだ? 俺たちでも作れそうか?」

「電気分解って方法が必要だから、無理じゃ無いかなぁ?」


「俺たちドアーフには精錬魔法って、石に含まれた物質を取り出す魔法があるんだ。アダマンタイトもそれで作っている」

「アダマンタイトって、本当にあるんですか?!」

「そりゃぁ、滅多にはお目にかかれないがな」

「出来るのなら、是非アルミとステンレスを作ってください。アルミは河原に転がっているボーキサイトって赤い石から、ステンレスは鋼にクロムとニッケルを添加したものです。出来ればマグネシウム合金やタングステンも欲しいな」

「ちょっと待て! 詳しくゆっくり聞かせろ!」


 その夜、三人は遅くまで酒を飲みながら異世界とこの世界の金属について、語り明かした。

 メルトと話したことで、裕介もこの世界の金属について、良い勉強になった。ミスリルソリッドのロッドティップ、アダマンタイト製ギアを搭載したリール。世界を回るうちにいつかは作ってやろうと裕介は思った。


 かねてから決めていた、ズール退治の日が来た。

「絶対に戻ってきてください!」

 セレナは、裕介、セフィア、バギラスでズールを退治すると聞いて、猛反対した。主人が犠牲になった上に、やっと取り戻せた生活の主軸になったこの三人がまたズールに挑むなんて、セレナにすればあり得ない話しであったし、出来れば諦めて欲しかった。

 しかし、三人は大丈夫だから、必ず俺たちがご主人の仇を討ってきますから、安心して待っていてくださいと言って聞いてくれない。


 結局、三人はミセスセフィアに鋼の尖った銛を十本近く詰込み、出発していった。

 もうこうなると、丘で待つセレナにはどうしようもない。アミザのカモミル教会に駆け込み、海の守護神アレスに一心不乱に三人の無事を祈った。


「セレナさん怒ってましたね」

「セレナにすれば、ズールは亭主を食った悪魔だからな。俺も、ユースケさん達の魔法がなかったら挑もうとは思わなかっただろうな。アンタたちなら、なんとかしてくれそうで、俺もそれに賭けてみたくなったって感じかな」

「まぁ、失敗しても、この船なら逃げることは出来ますよ」

「ウルもたぶん、そう思ってたんだろうな」

「ヤバいフラグっぽいこと言わないでくださいよ」

「じゃ、やりますか!」


 三角岩が見えてきた、二機付けた船外機の、市販タイプの方を回して三角岩周辺を竿を出し、トローリングして走る。ほどなく、何か大物が掛かった、そのままリールを巻くこともなく、魚を引っ張って回る。突然、竿がグンと曲がりパチンと簡単にラインが切れた。

「来たか!」

 ミリムグラス越しに水中を見ると、確かにでかい! 六メートルを超えるミセスセフィアよりも大きな魚影がボートの下を通り過ぎる。


 バギラスは銛を持って構え、セフィアは杖を準備し、裕介は竿をしまい、市販船外機を止めて、主船外機に切り替える、魚影はUターンし船の側を威嚇するように三角形の背鰭を水面に出してすれ違う。すれ違い様に、思い切りよくバギラスが放った鋭い銛は、ズールの背中に突き刺さった。

 続けて、もう一本。刺さればよいのだから銛にはロープは付いていない。

「さぁ、逃げるぞ! ついてこい!」


 裕介は、主船外機を起動し、三角岩をパスして目的の浅瀬に向かって船を走らせる。大きな背鰭と突き刺さった銛二本が水面に飛び出たまま、船を追ってくる。

「ここで、左に曲がってくれ」

 バギラスの指示で、船は大きく左に旋回し陸地を目指す。浅棚までやってきた。奥の方で船を停止させて、ミレザ革命のあの未明のように、裕介はセフィアの腰を抱きセフィアは杖を構えズールが姿を現すのを待つ。


 ズザザザザー!!


 五十メートルほど向こうの海に大きな波が立ち、水しぶきを滴らせながらズールが顔を出した。

 口… そう、大きな口が歩いて来る。裕介達には這って迫り来るズールが、そのように見えた。しかも、その口には、歯一本一本にもギザギザのある、刺々しい歯が上下にずらりと並んでいる。

「行くぞ! セフィア!」

「はい、あなた!」

 裕介のセフィアの腰を抱く手にも力が入る。

 セフィアはその力に夫の緊張を感じながらも、久しぶりに自分に流れた夫の魔力でズールの口に魔法陣を投射する。裕介は、魔力が吸い込まれるような懐かしい感触で魔法陣に魔力を流す。


 キン!!


「……」

「えっ?!」

「どういうことだ? 爆発しないぞ? 魔法が弾かれた?」

「マジかぁ~?!」

「ズールには、魔法が効かないのか?」

 そうしている間にも、這い上がったズールは、裕介がかつて日本で見た古井戸から長い髪を垂らして這い出してくるホラー映画のように、近づいてくる。

挿絵(By みてみん)

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