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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
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107 ミセスセフィア

 数日が過ぎた。

 バギラスと裕介は、ズール退治について、相談している。

「ズールは、サメの格好はしているが、何百年生きているのか分からない正真正銘の魔物だ。この街でも、俺の曾祖父さんよりも昔からズールの餌食になった漁師の話しが残っている」

「そんな昔からいるのか?」

「あぁ、だから俺は昔話しだと思って信じなかったんだ」


「計画を聞かせてくれ」

「ズールが、どのくらいのスピードで泳げるのか知らないが、船に回転速度を上げた規格外の船外機を付けて、俺の魔力で走らせる。時速六十キロつまり一時間で六百ペクト走るくらいの速度が出る。これだけ早けりゃズールも振り切れるだろう、サメの最高速度は四百ペクトくらいらしいからな」

「六百ペクト?! そんなに出せるのか?」

「出さなきゃ、追いつかれて食われる」


「まぁ、これは船も規格外のものを作らないと耐えられないがな」

「それで、ズールに銛を打ち込んで、浅瀬まで逃げると?」

「そうだ。後はどうやって頭を海面に出させるかだ」

「一ペクト四方が、俺の背丈よりもちょっと深い場所があるんだ。そこに逃げ込めば、ズールはアザラシを狩る時のように這い上がって来ると思う」


「サメが這い上がってくるのか?」

「実は、奴には胸鰭の下に短い前脚があるんだ」

「ホウボウみたいな奴だな」

「ホウボウは知らんが、アザラシを狩る時、奴は、その前脚で這い回るらしい」

 砂浜を這い回る八メートルのサメって、まさしく魔物だなと裕介は思った。


「なるほど、這い上がって来たところを魔法で仕留めれば良いわけだな」

「そう言う事だ」


 ズール退治に向けて、裕介は自分専用の船外機作りから始めた。魔動モーターの回転数は2000rpmを目指す。これは、セフィアの魔方陣の変更で簡単に出来た。魔力に制限が無いので、50馬力くらいは出るのでは無いかと思う。ファインセラミック製だ。


 次にボートに取り掛かる。裕介憧れのバスボートだ。セフィアにアルミ合金を大量に作ってもらい、セレナに教わりながら船体を作り上げた。運転席を作りハンドルで舵を切れるようにする。スロットルの伝達は、セフィアとミリムが魔力伝達をしたダイヤのイヤリングにヒントを得て、魔動モーター部と対になったダイヤ伝達装置を作り出した。


 わざわざ、アコセイサクショに依頼して、タイヤを取り寄せトレーラー形式のボート架台までアルミで作った。アイテムボックスで、これからも持ち歩くつもりなのだ。

 こうして、作り上げたボートを裕介は、ミセスセフィアと名付けた。


「私の名前ですか?」

 ボートに書かれた船艇名を見て、セフィアは嬉し恥ずかしそうに言う。

「船の名前には、妻や娘の名前を付けるのが慣わしなんだ。船乗りは船を女性として扱うんだな」

「どうしてですか?」


「うーん、諸説あるけど。(おんな)を扱うのが上手いのは経験豊富な男だとか、(おんな)を綺麗にするためには化粧(ペンキ)が必要だとか、上っ面は綺麗でも腹の下(船底)は分からないとか言うな」

「ひどーい!」

「ははは、船乗りは男ばっかりだからな」


「じゃあ、初乗りしてみよう」

「はい」

 トレーラーごと海に入れ、船を浮かせてからトレーラーを回収する。実はプロペラの逆回転も出来る。魔動モーターの裏表に取り付けたダイヤのどちらに連動する運転席のスロットルダイヤに魔力を流すかで、バックも前進も出来る。

 市販のものも、海側から流すか、船側から流すかで同じ事が可能だ。


 裕介は魔力入れたり切ったりのスローで港を出ると、徐々に速力を上げて行った。テストでは、プロペラの音に特に気を使う。回転数が上がると、キャビテーションというプロペラの吸い込み側で圧力が下がり、沸騰するように気泡が発生する事があるからだ。これが発生するとペラを痛める。

 こういうことは、学校のポンプの設計でも習ったから、亜湖ノートの記述がすんなり理解出来た。


 徐々に速力を上げて、全速まで上げたが心配する現象もおこらず、船のロフト角の変化で起こるというバウンドも起こらず、ミセスセフィアは本人と同じように素直なものだった。裕介は大いに満足する。夢のマイボートを手に入れた。魔法による新素材や、勇者の魔力限定の規格外品なので売り物にはならないが、多分、この世界で自走する一番速い船だ。


 セフィアは、助手席で黒髪を靡かせて、また新たなものを作り出した裕介を見て、新婚当初のように崇拝に近い気持ちを抱いていた。


 この人は、作り出した製品や会社、人間関係や使い切れないほどの財産に奢ることもなく、次々と先に進んで行く。一体、何処まで行くのだろう。

 その人の片腕となって一緒に進んで行ける自分が幸せだと感じている。


 太陽の光を受けて、秋を迎えた海は波で揺れる度にキラキラと光り、海鳥が船と並行して飛ぶ様はまるで時間が止まったように感じる。

 少しベタつく潮風に、ようやく慣れて来た海の香り。裕介とセフィアを乗せた銀色のボートは、まるで波を切るように派手な水飛沫と後方に道のような波を残しながら真っ直ぐ進んで行った。

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