106 スラバール
ミリムからは、新しく作り直したライフジャケットが四着、見た事の無いゴム、ガラス繊維の織物が折り畳まれて手紙と一緒に入っていた。
早速、ライフジャケットを作りました。
何故出来たのかと言うとアミル君が、スライムの粘液をラバールという魔木の樹液に混ぜて、新しいゴムを作ったからです。冒険者に集めてもらっていたタルボガンが少なくなって、ゴム不足に困っていたアコセイサクショも大喜びです。
このゴムは軽くて、水に浮かびます。スライム粘液での接着性も良く、タイヤに使えるほど丈夫だそうです。大体、空気に触れて一時間くらいで固まるそうで、便利なものを作ったとマカロンさん達はアミル君を大絶賛です。
『スラバール』と名づけるとアミル君は言ってますが、ネーミングセンスはイマイチです。
このゴムを使って作った、ライフジャケットです。使って感想を聞かせてください。
マカロンさんが、ガラスの糸の製作に成功しました。温度管理でうまく行ったと伝えて欲しいって言われてました。
この糸で織った布です。これで、竿を作る方が強いものが出来るだろうと、今製作中です。
では、お兄さん、お姉さんお体に気をつけて。
再会出来る日を楽しみにしています。
ミリム
「アミル君が、すごいもの作ったなぁ〜」
「そうですね。マカロンさんも、みんなすごいです」
黒と赤の二色の物は、裕介用、タータンチェックのはセフィア用なのだろう。
「ありがたく使わせてもらおう」
「ええ、みんな頑張ってますね」
翌日の午後、ステラも見ておきたいと言うので、パルージャ商会の数名を連れてセレナ造船所に行く。
「キレト、テストはどうだった?」
「すっごく速かったよ。バギラスさんも大喜びだった」
「一日中、船に乗ってたのか?」
「うん、バギラスさんがせっかくだからとっておきの場所に案内するって。近くの島でみんなで獲った魚を焼いて食べた」
「そうか、そりゃぁ楽しかったな」
「うん」
「母ちゃんは、造船所か?」
「うん、バギラスさんといるよ!」
裕介達は造船所に入る。セレナとバギラスが午前中に作ったのだろう、三機の船外機を木製の台に置いて空回ししてテストしている。
「テストはどうでしたか?」
「あっ! 裕介さん!」
「おっ! どうしたら、あんなもの思い付くんだ?」バギラスが訪ねる。
「その様子では、何の問題も無かったようですね」
「まったく問題無かったぞ」
「セレナさん、紹介します。船外機を扱ってくれるパルージャ商会のみなさんです。この女性が、一緒に旅をしているステラさん」
「初めまして、ステラ・パルージャです!」
「では、パルージャ商会の娘さん?! 初めまして、セレナです。この度はよろしくお願いします」
「こっちが、アミザ・パルージャ商会のリドルです。これからは、彼が担当する事になります」
「リドルです。よろしくお願いします」
セレナは、ステラとリドルに握手している。
「さて、今日お伺いしたのは、こちらで製作されるカワハラギケンの船外機の販売窓口を、ウチに任せてはいただけないかという相談です」
「えっ、パルージャ商会で売っていただけるのですか?」
「はい、ユースケさんの話しによれば商売については、不慣れなご様子ですので、セレナさんには製造に専念いただいて、受注と販売、クレーム処理はウチでやってはどうかという提案なのですが」
「それは、願っても無い事です! 是非、お願いします!」
「そうですか。それでは、お互いの取り分など細かい契約については、リドルと相談して下さい。私どもは、輸出も念頭に入れております。商品のテストにも立会させていただきます。よろしいでしょうか?」
セレナとバギラスは、突然話しが大きくなってついて来れず、ポカンとしている。
「今後のテストに合格すれば、第一回分の取り引きとして、二百機の製造をお願いします」
「にっ! 二百ですか?!」
「四ヶ月で製造可能でしょうか?」
「出来ます! 今日も朝から三つ作りました!」
「ユースケさん!」
セレナは、生まれたての子ヤギのように、足をガクガク震わせて、立っているのがやっとのようだった。それをバギラスが横から支え、椅子に座らせる。
「イヤ、俺も今日からユースケさんと呼ばせてもらう。ありがとう!」
「イヤ、俺はキレトとの約束を守っただけだから」
「お兄ちゃん! ありがとう!」
そう言われて振り返ると、キレトとアメリ、ムチリが入り口にいた。子供ながらにも母親の喜びようが理解出来たらしい。
「良かったね、母ちゃん!」
キレトが走って来て、母親に抱き付いた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「お姉ちゃん、ありがとう」
アメリとムチリが、それぞれににっこり笑って、裕介とセフィアに抱きつく。
「良かったわね」
セフィアがしゃがんで、ムチリの頭を撫でると、ムチリは嬉しそうに、「うん」と笑った。
「アメリもお手伝いするんだぞ」
「うん」
アメリもにっこり笑う。裕介は、初めてこの子たちの子供らしい顔を見た。それほど、この家庭は切迫していたのだろう。約束が守れて良かったと思う。
「すまなかったな」
帰り道、裕介はステラに礼を言う。
「なに言ってるの? 私は、ビジネスとプライベートはキチンと分ける女だって言ったでしょ? 今日のは、あくまでもビジネスよ。礼を言われる筋合いは無いわ」
「ははは、そうか」
裕介は、ステラなりの思いやりが嬉しい。パルージャ商会に販売を頼んだ覚えも、二百もの製造も頼んではいないのだ。
船外機を見ておきたいと言うから、連れて行っただけなのだが、宿で話した事をステラはステラなりに出来ることを考えていてくれたのだ。
セフィアも今日の事で、ステラが一緒に来てくれて良かったと思った。