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異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
105/294

105 セレナ造船所

 午後から、裕介が注文した黄銅鋼のインゴッドが続々と届いた。裕介が注文したのは1トンであるから、結構な量だ。

「セレナさん、先ずはあなたの魔力で、コレを液状化出来ますかね?」

「液状化ですか? やった事無いんですが」

「じゃあ、先に手本を見せます。同じようにやってみて下さい」


 裕介は、インゴッドをバケツに入れると、あっさりと液状に変えた。

「今度は、錫です。この分量に対して、コレだけです」

 小さなコップに錫を入れ、液状化して、バケツに注ぎ入れ混ぜる。油と水のように混ざらなくなりそうだが、常温だが魔法で千度以上の性状に変えられている金属同士なので馴染んで合金になる。


 亜湖ノートにある、海軍黄銅、別名ネーバル黄銅。耐食性を高められた真鍮、銅と亜鉛と錫の合金だ。

 裕介は、それを金型に流し込んで固化して、部品を作り出した。


「じゃあ、やってみてください」

 セレナは見たまま、同じように液状化する。これまで粘土化はやった事があるが、液状化は初めてだ。見たばかりでイメージがしっかりあるので、問題なく成功した。

 同じ様に、錫を液状にして混ぜ、合金になったものを型枠に入れ固化した。裕介の作ったモノと寸分違わぬ部品が出来上がる。


 船外機と言っても、魔動モーターは水中に漬けても全く問題無いので、軸をシールする必要も無く、部品は凄く少ないのだ。

 モーター部分の円盤、船に取り付ける軸のサポート。軸、軸受、舵、プロペラ。全部の部品、ネジを入れても三十点も無い。ミリムが作る、リールの方が、よっぽど複雑なのだ。


「魔力は問題ありませんか?」

「はい、大丈夫です。これで組み立てれば良いのですか?」

「そうです」

 子供達も手伝いながら組み立て始める。


 一般の機械加工では、鋳物を直接軸受の接触面に使う様な事は無いが、魔法で作る鋳物は、鋳物の様で鋳物では無い。サラサラの液体を魔法で固めて作るため、ほとんどバリも出ず、鋳物と言うよりは焼結金属に近い。歯車でも何でも、一発成型で同じモノが作れるのだった。

 ただし表面硬度などが必要なものは焼き入れなどの二次加工が必要だ。最初にミルトに指摘された鍛造などの鍛錬は、粘土を固化するのでは無く、液体からいきなり固める事で、ある程度までの強度は再現出来ていた。


 こうして、セレナ造船所製の黄銅鋼製船外機の一号機が完成した。

「じゃあ、今度は本当に耐久試験を行いましょう。バギラスさんにお願いしてもらえると助かるんですがね」

「私でも、出来ますよ」

「いえ、あなたの魔力は製品作りに使った方がいいでしょうし、魔力が枯渇した場合に、女性の場合は補填出来ないので」

「あぁ、そう言うことですか」

 裕介はセレナが初めて笑った様な気がした。


「じゃあ、明日みんなで、バギラスさんの船に乗せてもらえる様に、お願いに行くかい?」

 セレナの緊張が、解れた様だ。久しぶりの母親の笑顔を見たからか、喜んだのは子供達だ。

「ほんと? 僕達も行ってもいいの?」

「船に乗るのは久しぶり。嬉しい」

 キレトは勿論、双子もそれなりに喜んでいる様だ。


「じゃあ、俺達は明日は、こっちの船外機を持ってギルドに登録に行ってきます。新案登録の使用許可と回転資金を入金しておきますが、セレナさんの屋号は、どうしますか?」

「あの人が死んでからは、セレナ造船所で登録しています」

「じゃあ、セレナ造船所に金貨ニ百枚を入金しておきます。材料費だけで、一機銀貨百五十枚かかりますからね」


「金貨二百枚ですか? そんなには返せません!」

 セレナは、口に手を当てて驚いている。

「大丈夫ですよ。一機売れば、私には何もせずに金貨一枚が入ります。返さなくても二百機売ってもらえれば、私に戻ってくるんですよ」

「そんなに売れるでしょうか?」

「心配しなくても、予約が殺到しますよ。ご主人も必要性を感じておられたんでしょう?」

「母ちゃん、僕も手伝うから頑張ってみなよ」


「金貨五枚?」

 宿に戻って、ステラに話すとまた怒っている目で睨む。

「ウチを通したら、金貨十枚ね」

「いきなり倍かよ!」

「ユースケ、まだ、この世界で今まで無かったものを生み出す価値が分かって無いの?」


「普通の漁師に金貨五枚は、なかなか出せ無いぞ?! サメ一匹釣ったって、銀貨三十枚なんだぞ?」

「ニ十匹釣ればチャラじゃないの!」

「サメ二十匹って、無茶言うな! 一年かかるわ!

「それは、今の船ででしょ? アレのメリットは何?」


「そりゃぁ、風が無くても出港できる。逆風でも出港できる」

「だったら漁師の収入は、単純に考えても倍になるのじゃないの?」

「あっ!」


「あれは一体何年持つの?」

「そうだな、何も手入れしなけりゃ四年、大事に使っても十年ってとこだろうな」

「一年で金貨五枚の人が十枚稼ぐの。それを四年続けたら、この商品が出来る前より二十枚沢山稼ぐの。だったら金貨十枚は、高い?」

「確かにな。ステラの言う事も分かったよ。でも、それは輸送費も含めたパルージャ商会の金額だろ? セレナさんは、この街で暮らしてるんだから、この金額は妥当じゃ無いか?」


「まぁ、港街で漁師街だから、数がはけるし、材料の輸送費はかからないし、この街で船外機を作る事を選んだ事は評価してるわ。でもクレームやその他を考えれば、金貨七枚ってところね。他所の街では、十枚が妥当よ」


 限定付きだが、今回はステラのお墨付きももらえ、裕介は翌日ギルド登録を行った。

 ギルドで裕介宛にミリムから小包が届いており、代わりにミルム宛に裕介はバギラスの紹介状と釣ったピストーリクと並んだ、セフィアの焼き付け写真を添えて、黄銅鋼がリールの素材になることや錫を添加すると耐食性が向上することなど新しい情報と近況報告をミリムに送った。


 セフィアの写真は画期的だが、残念な事はセフィアが見たものしか作れないと言うことだ。だから、セフィア自身が写ったものが作れない。

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