表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界モノ作りアングラー  作者: 砂野ちや
第3章 山脈の南
103/294

103 ピストーリク

「来たぞ! 一度ロープが出てしまうまで出しきるんだ!」

 スルスルと輪になったロープが出て行き、船首に縛り付けられた最後の部分まで、ピンっと一直線に張った。船が引っ張られ緩やかに動き出す。

「この船を引っ張ってんのか?!」

「凄い力ですね?」

「しばらく、引っ張らせて疲れさせるんだ」


「そろそろいいぞ! ロープを手繰り寄せてくれ。ただし、巻き込まれない様に注意しろよ!」

 裕介は、手袋をしてロープを手繰る。サメが寄っているのか、自分が乗った船が寄せられているのか良く分からない状況だが、裕介とサメは一本のロープで繋がり、綱引きの様に遊び無くロープが一直線に水中に入り込んでいる。樽を繋いでいた細い紐は、水圧で切れ樽はプカプカ浮いている。


 手応えで、サメが首を振って鉤を外そうと踠いているのが分かる。サメが反転する、こちらに向かって突っ込んでくる。

「巻け!」

 裕介は、大急ぎでロープを手繰って、足元に落とす。弛んだロープをバギラスが船首の突起に巻く。

「しっかり、引っ張ってろよ!」


「キャー!」

 セフィアが、軽く悲鳴を上げる。船が大きく揺れ、サメの方向に船首が回転する。

「よーし、巻け!」

「こなくそ!」

 裕介は、背一杯の力で、船首を一回転させたロープを巻き取る。徐々にサメが船に寄って来た。バギラスが銛を持って構える。


 ガスっと銛がサメのエラの部分に打ち込まれ、サメが暴れる。3メートルは超えている。

 バギラスは金属のパイプの様なもので、ガツン、ガツンとサメの頭を数度殴り付けた。やがて、サメは静かになった。バギラスは、サメの尾に太いロープを結び付ける。


 複雑に組み合わせた滑車を使い、船にサメを揚げる。

 なるほど、小学校だったかで習ったな。裕介は、すっかり忘れていた。例えばサメが200キロあったとしても、定滑車二つと動滑車一つを使うことで、50キロの力で引っ張る事が出来る。

「せいのぉ〜!」

 裕介とバギラスは、力を合わせて釣ったサメを甲板に引き揚げた。セフィアの魔法で揚げて貰えば簡単なのだが、こういう気分を味わいたかったのだ。


「まぁ、中サイズってところだな」

「コレで中サイズかぁ〜」

 甲板に、どでっと横たわったサメは、裕介の倍近くある。

「大きすぎて、怖いですね。コレがピストーリクですか。歯が凄いです」

「ああ、流石にビビるな。ズールってのは、この倍以上あるって言うんだから、船ごと食われるかも知れないな」


「ズールは、ピストーリクとは違う魔物だと思った方が良い」

 バギラスがポツリと話し始めた。

「セレナの亭主、つまりキレトの父親はウルって言ってな、腕の良い船大工だった。俺は新しく作ってもらったこの船が気に入って、調子に乗っていつもより遠出したんだ。三角岩の辺りにはズールって魔物が潜んでいるって話しは聞いていたが、あの頃の俺はそんな事、信じちゃいなかった」


 裕介とセフィアは、黙ってバギラスの話しを聞く。

「いきなりだ。船で引いていた網を網ごと食いちぎられた。一口だぜ、信じられるかよ。その船とあまり変わらない大きさの魚の影に、俺は銛を持って構えた。銛を三本だぜ、奴は棘が刺さった程度にしか、感じちゃいねーんだ。俺は三角岩の入り江の中に逃げ込んだ。岩に登って見ると、ズールは岩礁の周りを回遊しながら、俺が出て来るのを待っているんだ」


「なんで固執したんでしょうね?」

「プライドなんだそうだ。後で聞いた話しだが、ズールは自分を傷つけた者を決して許さないらしい」

「魚にプライドがあるなんて…」

 セフィアも驚く。


「漁師仲間とウルが探しに来てくれた。俺は岩の上から手を振って、やばいから戻れと叫んだよ。でもウルは自分の船の速さに自信があったんだろう、ズールに銛を打ち込んで、囮になって突っ走って行った。俺は漁師仲間に言われて、その隙に逃げ出して帰港したんだが、結局、待ってもウルは戻って来なかった」


「俺は残されたセレナと家族に、償いをしようと、俺は漁師を辞めて造船所を手伝うと申し出たんだが、セレナは俺のせいじゃ無いと、頑なに聞いてくれなくてな。そのまま、俺も言い出した手前引っ込みがつかず、漁具屋を営みながら、ピストーリクを釣ってズールを退治する方法を探しているんだ」


「確かに、話しを聞いた限りでは、ウルさんの死はセレナさんの言うように、バギラスさんのせいではないと思いますよ」

「俺は小さい時からセレナを知っている。良い男と結婚したと喜んでいたんだ、その暮らしを壊す発端になったのが、俺だなんて、俺自信が許せないんだ。ズールを退治しない事には、俺もセレナも前に進めない」


「ズールかぁ〜 水面に顔を出させればなんとかなるかも知れないけどな」

「えっ! 今の話しを聞いて、なんとかなると思うのか?」

「ええ、実は、俺は土の勇者、妻は魔法マエストロなんです。頭さえ水面から出れば、爆裂魔法で吹き飛ばすくらいは出来るんですがね」


「俄には信じられないが」

 セフィアは、先程水揚げした、ピストーリクを魔法でスッと浮かせて、船の中央に置き直した。少し傾いていた船が正常なバランスに戻る。

「マジか? 魔法で、このピストーリクが持ち上がるのか?!」

 バギラスは、驚きを隠せない。


「そうだな、ズールの頭を出させるには、こう言う浅瀬に誘き寄せるのが一番だろうな」

「付いて来るでしょうか?」

「奴の主食は、アザラシらしいんだ。アザラシは、こう言う浅瀬で固まっている事が多くて、そこを襲うって言うんだ」

「なるほど」


「銛を打ち込んで、浅瀬まで逃げれば付いて来るとは思う。ただし、恐ろしく脚の速い船が必要だけどな」

「脚の速い船ですか? じゃあ、作りましょう」

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ