虚空の魔術師
祝・3万文字突破。いつもありがとうございます。
「で、その前にだ。グロスマンの呪いを解呪してやらないといかん。悔しいが俺でも扱いきれん、かなり強力な呪いでな。王都にいる神官のお偉いさんクラスでもなけりゃ治せんだろう」
「ってこたぁ、王都まで行くんすか!?ヤッホー!ゴミ掃除は王都でかよ!!俺、王都って行ったことねー…………いや、違うなァ。この感じ、違うなァ!だんだんワカってきた!ワカってきたよぉ!どうせ俺が期待した通りにはならないんだああああそれがこの世の仕組みなんだああああああ!!俺達は手のひらの上で転がされているだけなんだああああああ!!!」
「正気にもどれッ!!オラッ!!」
「ぐべぁ!?……ハッ!?俺はいったい!?これも上位の魔物の呪い────!?」
「リュートくん、今日は激しいなぁ」
「構うなよ、構うから調子に乗るんだよ。無視しろ無視」
おいそこの2人、俺を残念な子扱いするのやめろ。いーじゃんよ、たまにはよ。前回まで暴力&バイオレンス(同じ)だったから俺は疲れてんの。少しは悪ふざけさせてくれよ。
しかし、リーナちゃんでも治せないとはね。傷ついても回復魔法で無かったことにできるから、この世界超ヨユーじゃーん!と思っていたけど、そういうわけにはいかないか。
「話戻すぞ。バルツァーの予想通り、王都にはいかん。代わりに専門家をお呼びした。先生、お願いします!!」
リーナちゃんが声をかけると、黒髪ロン毛で無精ひげのやや細身のおっさんが、ダルそうに教室に入ってきた。こいつが呪いの専門家ってワケか。あんま凄い人っぽくはねーけどな。
「どいつだ……?」
入ってくるなり、挨拶もせずおっさんが言う。愛想のねーヤローだぜ。いや、でもそこが逆にプロの研究者的なね?しらんけど。
「グロスマン、こっちに来い」
「お、おす」
リーナちゃんに呼ばれて、ワンが前に出る。解呪ってここでサクっとできるもんなの?リーナちゃんと保険の先生が時間かけても無理だったんだべ?
そしておっさんがワン公の頭に触れ、
「終わったぞ」
と告げた。
「今、何をしたんだ……?」
ラフィが俺に聞いてくるが、俺にも全然わかんねーよ。何もやってねーじゃん?魔法の詠唱とかも無かったし。アレだろ、このおっさん、壺とか買わせてくるタイプの人だろ。何もしてないのに定期的な治療が必要とかぬかして、最終的にとんでもねー金額を要求してくるタイプの人だろ。
……いや、でもリーナちゃんが呼んできた人だしな。何かとてつもないワザを…………ハッ!?わ、わかったぜ。一瞬で解呪を終わらせた、そのカラクリがよォ!!
「ラフィ、貴様にはわからなかったようだな。説明してやろう。コイツは今、"時"を止めやがったのさ。ワンが近づいて手をかざした瞬間から時間を停止して、停止した世界の中で解呪をした。だから俺達は一瞬で終わったように錯覚してしまったというワケだ」
「な、なにぃ!?時間を"止"めたァ!?嘘だろ……そんな神話級の魔法を使うなんて、この人はいったい……!?」
「フッ、他の奴らは騙せても、この俺の目は誤魔化せねえ!そうだろ!?"虚空の魔術師"さんよぉ!?」
「こ、"虚空の魔術師"、あの伝説の────!?」
おっさんが俺を冷たい眼で見つめる。ゴクリ……とんでもねえ"重圧"。俺で無けりゃ視線で殺されてるレベルだぜ。
「いや、全然違うけど。俺、触っただけで大抵の呪いは解呪できんだよ。そういう"体質"だから」
「「……………………」」
「ヘブラッ!?」
ラフィに無言でぶん殴られる俺。なんでよぉ、ラフィだって「あの伝説の────!?」とか言ってノリノリだったじゃんよーー。
ってゆーか、体質ってなによ説明雑すぎんべが。そんなの知るかよ。じゃあなんですか、普通に王都の神官様だってゆーんですかーーー?
「ハァァァ!回復ッ!!」
リーナちゃんがワンに回復魔法をかけると、顔や腕にあった傷が綺麗に消えた。おぉー、リーナちゃんは全身ズタボロだけど、ワンは傷跡無くなるんだな。呪いの強さ?回復までの時間?仕組みがよくわからんけど。
「うぉぉぉ!すっげー!痛みが消えた!!リーナ先生!おっさん先生!(?)マジありがとうございます!!超すげーーーよ。おっさん先生に触れられた瞬間、体ん中で何かハジける感じしたもん!やべーーーー!」
大興奮のワン。他のみんなも嬉しそうだ。おっさんが何者かはともかく、マジで回復できて良かったぜ。学院内の喧嘩で一生治らない怪我なんてアホくせえからなー。
「先生、本当にありがとうございました」
「リーナ、いつまでふざけてんだオメーは。いつもどおり"グレン"でいい」
「ハハハッ!すんません、"グレン"さん!でも本当に助かりましたよ。まさか回復封じ、しかもあれだけ上位クラスの代物が出てくるとは思わなかったもんで」
「そうだな……。この件は第三騎士団長にも報告しておけ。たまたま拾いましたで済むようなアイテムじゃねえからな。回復封じを使った生徒の背後を洗っておいたほうがいい」
おーおーおー、なんだなんだ。でけえ"闇"が動いてる気配がすっぜ。そんなにレアなモンだったのかあのナイフ。ぶっ倒した時にパクって売っちまえばよかったな。
「それで、この人は本当はどこのどちら様なんですか?」
と、ラフィが質問する。俺に巻き込まれて恥かいたせいで、余計に真実が気になるらしいな。
「あぁ、この人は俺が辺境任務についていたころに世話になった────」
「オイ、やめろ。言わなくていい」
おっさんがリーナちゃんを止める。あ?なんだなんだ?こっちは同部屋が王族だったんだぞ。よほど大物が出てこねーと驚かねーわ。
「いや、コイツらがそれを知らずにナメた態度を取りやがったら俺が恥かくんで。お前ら、この人は俺の恩人なんだ。神様と会話してるつもりで接待しろや」
「そういうのいいからよ……」
だいたい偉い奴ってこういう返しするよな。ルカくんもそうだったし。え?まさか王?このおっさんがルカくんの親父?にしちゃあ、まだ30歳そこそこで若すぎるか。でもそこは王様だから若い頃からハッスルして────
「この人は、当代の"勇者"グレンさんだ!くれぐれも失礼の無いようにな。この人をキレさせたら、冗談抜きでこの校舎くらい一瞬で消し飛ぶからな!」
驚きという感情には、天井が無いらしいです。
既存のキャラクター達から、「また男かよ!!」というクレームが聞こえてくる・・・。