飛行少年
ようやく、魔法使い感出たかな・・・?
時の流れは早いもので、入学式から二週間ほどが経過した。
平日のスケジュールはほぼ同じ。朝イチで座学が1時間程度。その後は日が暮れるまで魔法やら格闘やらの実技が繰り返しになる。体力的には結構キツい。
いつものワン情報によると、第一・第二魔法騎士学院のほうは座学で半分くらいは使うらしい。学校側も俺達が長時間机に座ってられねー人種だってのはわかりきってるみたいね。
つーか、第一・第二どころか、他の組の連中も俺達より座学やってるよな?だいたい外にいるの我らが10組だけだぞ。
まー、その辺はリーナちゃんの"スペシャルな授業"ってことなのかもしれん。あの人、見るからに脳筋だし、座学なんて教えられないんでしょ(笑)
「オイ、いま俺の悪口言ってなかったか?」
「ヒイッ!言ってませんよ!な、な、なんすか急に!」
「ぬぅ、気のせいか……?」
俺に都合の悪いシックスセンスが優れすぎだろ!このおっさん、見かけの通り戦場帰りらしいからな。なんか自分に対する悪意を見抜く的なスキルがあるのかもしれねえ。試してみよ。バーカバーカ。
「ん?やっぱ妙な感じが……」
「そ、それよりセンセー、はよ授業はじめましょうよ」
「お、おう。そうだな」
こわっ!マジで感じ取ってるじゃん!?やべーやべー。リーナちゃんのこと悪く言うのはやめとこう。こういうのでぶっ飛ばされる役はワンくんにおまかせデス。
「あー、お前らもそろそろ魔力制御に慣れてきたと思うから、今日はいよいよ"コレ"の授業やんぞー」
リーナちゃんが"箒"を皆に見せる。なんだよ、効率的な掃除の仕方でも教えてくれるってか?
「マジ!?授業で箒乗れんの!?俺の地元、魔力あるの俺だけだったから、飛ぶの見たことねーんだよなァ!」
「俺は兄貴が箒乗りだから、ケツに乗せてもらったことあるぜ?」
「実は俺、箒買おうと思ってバイトしてコツコツ金ためてんだよねー」
花咲く箒談議。掃除じゃなくて飛ぶんか。いきなり魔法使いっぽい。そんでみんな案外楽しみにしてんのねコレ。
「箒もいろいろ種類があるから、自分に合う箒を探してみるといいぞ。で、今日お前らに使ってもらうのは、なんと新型魔導エンジンを積んた最新モデル、アヴァロン社製スピリッツファイア!」
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
「……ではなく、この何の仕掛けもねー普通の竹箒だ。掃除用のな。残念ながら我が校にはそんなもん買う予算はない!」
「「「「「……………………」」」」」
「い、いやあえてだぞ?まずは魔導エンジンの補助が無い状態で訓練することによって、繊細なコントロールを身に着けることができるんだよ。辺境任務じゃ故障もすぐに直せねーし。そう、それだ。魔導エンジン故障時の対応をあらかじめ学んでおくことでな〜〜っ」
じゃあ、スピリッツファイアとか言うなよ……。というみんなの視線を感じ取ったのか、リーナちゃん必死の弁明。2週間一緒に過ごしてわかったけど、この人意外としょうもないボケをぶっこんでくるのよね。
「箒は念じてコントロールするだけだ。魔導エンジンを積んた箒なら、燃料の魔石が尽きるまでは飛ぶし、普通の箒なら自分の魔力の限界までだな。今のお前らの魔力量だと20分、長い奴で30分ってところか」
20分ってみじけえなー。箒使いながら魔法撃ったら、速攻で魔力切れ起こして墜落しちまうよ。魔導エンジン無しで飛ぶってのがそもそもあり得ないやり方なのかねー?昔の魔法騎士はどうしてたんだろ。俺らの魔力量がまだ全然ってこと?
「じゃ、俺が先に飛ぶからついて来れる奴はついてこい。行くぞ!」
リーナちゃんが箒にまたがる姿、最高に間抜けっすね、というワンのつぶやきもその通りで、巨体に対して箒が小さすぎる。ホントにこんなんで飛べんの……?
疑っている間にリーナちゃんが飛び立つ。すいません舐めてました、メチャクチャはえーわ。月でも目指してんのかという勢いで遥か高みへドンドン上昇していく……!箒ってすげえ!!
「よし、俺らも行こうぜ」
「ラフィっち、どっちがはえーか勝負しようぜェ!?」
続いてワンとラフィも上昇をはじめる。あれ?結構フツーに飛べちゃってんのね。
「俺も続くぜ!ブチ上がれ!!サンダーボルト!!(竹箒)」
……ピクリともしねえ。
オイオイ、まさか飛べずに地上でモタつくポジション俺なの??第三魔法騎士学院の劣等生なの??第三魔法騎士学院の不適合者なの~~ッ!??
と思ったその時、マイ箒が急に浮き上がった。
「ぬぉっ!マジで飛びやがった!?おーーし、見てろよテメーら、飛竜も真っ青の加速見せてやっからヨ!!?いぐぜええええええええええええ!!!!!うっほおおおおおおおおおおおおきもじいいいいいいいいいいい」
先行した2人を追って、どんどん高度が高くなっていく。やっべー、人がミジンコ並の小ささだぜ。俺が神ならこんな奴らのことイチイチ興味持たないね。この世から争いが無くならない理由が今よくわかったわ(悟り)
「おー、全員上がって来たみてーだな?ほとんどの奴は箒乗ったのもはじめてだろうし、今までこんな景色見たことねーだろ。どーよこの絶景!…………そうか、バルツァー、泣くほど嬉しいか。わかるぜ、俺もはじめて飛んだときはなぁーー」
「いえ、この世の真理がようやくわかりまして……。逆に俺が守らなきゃいけねーみたいな使命感といいますかね。神々が見放した民を、この俺が───」
「リュートくんどうしたんだべ?」
「ほっとけよ、今更だろ。頭がおかしいんだよコイツは」
オイ、そこぉ!!俺の高尚な思いに茶々を入れるんじゃねーよ!これだから凡人はよぉ。責任感ってものがねーよな、なんとなく生きてる奴らはさァ!
「……よし、そろそろ時間だな。俺は先に降りる。少しなら自由にその辺流してきて構わん。魔力切れに注意しろ。あと、教員塔には近づくんじゃねーぞ。対空迎撃魔法で撃墜されっからな」
リーナちゃんが地上に戻っていく。これから先何度も箒の授業があるだろうし、俺も降りようかしら。
「じゃ、最下位のやつジュース奢りな!!おっさき~~!!」
「あ!?リュートくん汚え!!?」
「クソッ!番犬、今なら殺れる!!魔法撃ちこんでやれ!!」
「ハッハー!魔力切れで墜落したいならドーゾ♪バイビー!」
そんな感じで、はじめての箒の授業は終わった。
どノーマルの竹箒でこんだけ楽しめるんじゃ、魔導エンジン付きの箒ならどんだけだってんだよな!超絶期待!
いずれ箒回はまたやりたいです。
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少しでも「この作者バカだな」と笑っていただければありがたいです。
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