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05 弟子になりました


「うん……?」



ハルトがびっくりした顔でこちらを見ている。

一緒に戻った令嬢もちらちらとこちらの様子を伺っている。

ハルトのお父様は目を細め……



すっ、と。

空気を撫でた。



キン、と音がして、一瞬空気が冷たくなる。

今、ほんの僅かな動きで、何かをした。


不安になって周囲を見渡せば、先ほどまで興味津々だった令嬢達も、誰も、こちらに視線を向けてなどいなかった。

不自然なほどに、私達の周囲から人が離れていった。



「弟子になりたい、とは?」



興味……意識をそらす魔法。

やはり使ってきたか。

ゲームでもハルトが使用しているのを何度か見たことがある。

この魔法は人が多ければ多いほど効果を発揮する魔法だ。

透明になったり誰にも気付かれない魔法というわけではなく、関心を抱くことが出来なくなる魔法だ。

単純に、注目されなくなる魔法。

女子更衣室に男子がいる、とか強烈な違和感を覚えさせなければおおよそ記憶に残らない。

ちなみにハルトは情報収集で学園でも使ってることが多々あるのだが、主人公は見つけれてしまうのです。

常に関心を抱く相手なら効果がない……かも、とハルトは説明するのですが、それはつまり好きってことであってお互い照れるイベントがあるんですよすごい可愛いんですよ。

生きてるだけで最強なのにそんな可愛い事して大丈夫? 世界中恋に落ちちゃわない?


話を戻そう。

意識をそらす魔法を使った上で聞き返すのであれば、音を遮断する魔法も使っているであろう。

これは言葉通り決められた空間内までしか音が届かなくなる魔法だ。

秘密が多いイグナーツ家には必須魔法の1つだね!


私は真っ直ぐ見つめ返して言葉を返す。



「機密情報部隊に所属するのが夢なのです。」



「……情報はハルトか? 王子か?」



「出所は教えられません。情報は高くつくものですから。」



にこり、と出来る限り余裕のある笑みで返す。




これだ!


弟子になってしまえばイグナーツ家と繋がりが出来る=ハルトとも関わりを持てる!

それに共に修練を積むことで友情を育むことも出来るはず!


イエーイ最良手では!?

私は天才なのでは!?



「ふむ……。ハルトが話すとは思えない。王子達にもまだ知らされていないだろう。……君はなかなか優秀な人間のようだ。」



にやりと侯爵は笑う。


その足元でハルトはひたすらおろおろしていた。

……ごめんね! 情報ばらしたと思われたら困るよね!



「いいだろう、君にはハルトを通して課題を与えよう。……いつ諦めても構わない。」



ただし情報の扱いには気を付けることだ、と先ほどまでのにこやかさが嘘のような鋭い視線を寄越す。


ああ、ちょっと早まっちゃったかもしれない。




















「本日はご招き頂きありがとうございます、ハルト様。」


「えと……うん。」




本日は、イグナーツ家にご招待されたのでわっくわくで訪れました。

ハルトがしっかりと受け答え出来ていない様子に専属? の執事さんが苦笑いしている。

ハルト少年はしばし視線を彷徨わせた後、執事さんの後ろに隠れた。


この幼子が私の知っているキャラクターのハルトになるんだと思うと本当に不思議だ。

すごいなぁ、人間の成長って予測不可能だね。

多分、練習だと出来るけど本番になると駄目になっちゃうタイプなんだろうね。

土台がしっかりしていたからこそ後の当主様のハルトになるわけだ。

下地もなしにあれになったのなら別人説が浮上してくる。



「ブランカ様、申し訳ございません。本日は旦那様が講義をする予定でございましたが、急ぎ片付ける案件が出来てしまいました為、講義は午後からとなりました。ご了承くださいますようお願い申し上げます。」


「まぁ、では午前はどうしましょうか。ハルト様。」


「えっと……。」



「……お父様が来るまでは、話し方を崩して結構ですよ。」




ブランカ様も構いませんか?と問われたので了承する。

まともに会話も出来ないのは私も困るので断る理由がありません。




「そうだ、ハルト様……じゃないハルト。午後まで予習をしませんか?」


「えっ」



わざわざ自分から進んで勉強したくない、と顔に書いてある。

この頃のハルトめっちゃ素直、めっちゃ感情隠すの下手。

機密情報部隊総括の跡取り家の一人息子大丈夫か。


ああ、いいな。

推しの成長の過程を見れる幸せ。

さっきから似たような事を思考している気がするが仕方ない。

推しがそこに存在していて成長もしているんだから仕方ない。




「じゃあ第一書庫に……。」


「第一?」




そんなに書庫があるのかと驚いて、尋ね返す。

ハルトは明らかにしまった、という顔をした。

あ~~、多分第二は隠し書庫なんだな?

言っちゃダメなやつだな?




「第二書庫もございますが、そこには旦那様の許可がなければ入れないのです。」


「そうなのですね。」




フォローが入ってハルトがほっとしたのが分かる。

……うーん、ちょっと心配になってきた。

こんなうっかりしてて騙されたりしない? 大丈夫?
















この世界には魔法がある。

難しい術式とかは、使うだけなら必要ない。

ただ、誰にでも使えるとなると問題があるので、制限が存在する。

車を運転するのに免許が必要なように、魔法にも1つ1つに使用許可を貰わないといけないのである。

その許可を与えるのは先生だったり、親だったり様々だ。

一見さんお断りの、紹介が必要な店みたいだなぁ~と、最初に聞いた時は思ったものだ。

なのでその家にだけが使える魔法なんてのも存在する。

ハルトのお父様が使っていた意識をそらす魔法も、世間に出回っている魔法ではない。


そして許可を得たからと言って、使えるものでもない。




「やっぱり僕には向いてないよ。」




現在の所在地、魔法修練場。

おおざっぱに説明すると裏庭だ。

予習ではなく、前回教わった魔法の復習をしてはどうかと勧められたためである。

ハルトは魔法をうまく発動する事が出来ず、座り込んだ。




「そんな事言わないで、もう一回挑戦してみよう? ね?」


「……なんでブランカはそんなに手軽に使えるの?」


「本が……好きだからかな?」




この世界の魔法の使い方をざっくり説明すると、

現象を擬人化/擬獣化して、名前を付けて、して欲しい事をお願いする。だろうか。

一番最初の工程はまぁ……カットしても大丈夫だ。

既存の妖精や神様にお願いしても良い。

ぶっちゃけなんでもありだ。

物を動かしたいなら「ピクシーよ、この本を持ち上げて」とか。



ゲーム本編で語られた説明としては、世界に満ちている魔力が名前を与えらる事で下僕となり、主の意図に従う、らしい。

ただ、どんな事をする、している存在なのかのイメージがしっかりしてなければ名前を与えても意味がないらしい。


汝はエターナルフォースブリザード! なんかかっこいい! くらいのイメージだと発動しなくて、汝はフレイムランサー! 槍の形をした炎が6本出現して敵を取り囲み、突き刺さる!くらい具体的だと発動する、と思っておけばだいだい合ってる。と思う。


妖精や神様の名前を使うと発動しやすいのは、どういう事をするのか知識として知っているためだ。

前世で色々な乙女ゲームをしていた私としては余裕である。

RPGで魔王を倒すため旅立つ乙女ゲーム、アーサー王伝説やらシャルルマーニュ伝説が元になってる乙女ゲーム。

神話の神々の名前が登場するのや登場人物が大アルカナに沿って能力を有しているものや童話や12星座が以下略。

転生特典のおかげで許可を得た魔法はすぐにすらすら使えるようになった。



ちなみに存在しない魔法の場合は制限がないので作れるなら使える。

新規の魔法として自動的に登録されるらしい。

だが前述のフレイムランサーは使えなかった。似たようなのがあるのかと色々試してみて使えなかったので、炎を扱う事に制限がかかっているんだと思う。



話を戻そう。

ハルトが今苦戦しているのは武器を生成する魔法だ。

自身の魔力で作るのであれば、自分自身に命令すると仮定して「魔力よ、ナイフとなれ」で作れる。

鍛冶を得意とする神様や妖精にお願いしても良い。

ちなみに後者の方が消費魔力が少ないのでお得である。



ハルトは魔力という目に見えないエネルギーが物質になる事がイメージ出来ないため、名前をつけても自分自身に命令してもダメなのだ。

否定している気持ちがある故にどうにもならない。




「ほら、水って蒸発すると目に見えないじゃない? それと同じで、空気中の水分が集まって氷のナイフになるようなものだと思えばいいんじゃないかな!」


「それだと氷しかイメージ出来ないよ……。」


「そっか……。」




自分の時はどうだっただろう。何を思って……。

…………エクスカリバー作れないかなってわくわくしてた。

詳細を覚えてなかったからシンプルな剣が出てきたけど。




「うーん、ハルトはこういう武器が作りたい、とかある?」


「作りたい武器?」


「うん。いっそ武器じゃなくてもいいよ。」




作ってみたいものなら案外うまくいくかもしれない。




「焦らなくて大丈夫、一緒に考えてみよう?」


「……いいよ、僕の課題だもん。ブランカは自分の課題を進めなよ。」




糸口がつかめないままの状況にハルトは辟易しているようだ。

いじけてるのがなんとなーくわかる。

うーん、ゲーム本編だとなんでも教える立場にいたハルトがここで躓くとは意外だ。


一応コツをお茶会友達にも尋ねたのだが、こういうのはある日突然出来るようになるらしい。

なんじゃそりゃ。




「私に出来る事なら助けるから、困ったら言ってね。」


「…………いいからあっち行って。」



プイッ、と顔をそらされる。

この反応を見るに、家族に大切にされてるんだろうなぁ。

こうした態度をとっても見捨てられない、そういう信頼関係がちゃんと成り立ってるってことだ。

執事さんもなんだかんだで甘いし。

……これを失っちゃうのか。

うっ、今のうちに沢山甘えててくれ……。



「にこにこしたり悲しそうにしたりなんなの……?」


「えっ、あっ、ごめんね! なんでもないよ。」



音を遮断する魔法は部屋を作るイメージらしい。

なら「魔力よ、」で始めても良さそうだ。

けれど魔力の消費量を考えると……。




「……。」




視線を感じて、少し離れた場所にいるハルトを見る。

何も言わないままじっと見つめられたので首を傾げると、なんでもないよと視線をそらされた。






毎日投稿したいですが難しいですね

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