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04 推しが可愛い




この世界に来てから知ったのだが、よくある貴族のパーティーというのは冬から春にかけて行われるものらしい。

地方に領地を持っている貴族たちは冬の間のみ王都にいるのが理由らしい。

うちの父親は王宮勤めなので関係ないのだが。



どうしてこんな話をしているかというと、ちょうど現在が冬なのである。

そんな時期に、王子からの招待状が届いた。

どうやら前回……秋の終わりに行われた王妃主催のお茶会で目星を付けた側近候補と、地方の子供たちを招待したようだ。



びっくりしたがこの国、女性でもばりばり働く事が出来るのだ。

魔法があるので女性でも強い騎士や魔法士になれるし、当主が女性の家も珍しくないそうだ。

すごいね、女性の待遇が良い。これも乙女ゲーだからだろうか。








「今度はちゃんと最後まで出席するのよ!」



母はそっと私の背中を押す。

親たちのスペースと子供たちのスペースで別れている。

大人達は大人達で楽しむらしい。



はぁ……私はまだハルトたんとどうやって仲良くなるのか思いついてないのに……。

いやいや、お茶会で他の女の子たちから情報を集めるのもご令嬢の務め!

しっかりしなくては。


まずは主催者の王子様にご挨拶だ。



「あら……貴方、この前の!」



目立つ銀と金の髪色に話しかけようと近寄ると、間にいるピンクブラウンの女の子が私に気付く。

主人公のクラリス様だ。



「ああ、よく来てくれたね。ブランカ嬢。」



「ごきげんよう、ロミオ様。」



クラリスとアーサーにも同様に挨拶を交わす。

クラリスはにこにこと愛想の良い笑みで応え、アーサーはおどおどしながら返事をした。

今更であるが、ロミオは私の1つ上、クラリスとアーサーは私と同じ年だ。


ちなみにハルト様も同い年です。



「アーサー! クラリスの後ろに隠れるな、これからもずっとそうして生きるつもりかい?」


「いいじゃないか、どうせ後を継ぐのは兄さんだし、俺はじめじめ生きていたって……。」


「良くない! クラリス、君もアーサーを甘やさないでくれるかな。」



アーサー=ラ=トラヴィスは金髪に碧目のイケメンである。

成績は王家として恥ずかしくない程度には優秀なのだが、彼の場合は兄が優秀過ぎた。

王家の銀髪を継がなかった事もあって周囲からはぼろくそ言われている、というのが公式設定だ。


まだ幼い状態であってもそれは同様らしい。



「ごめんね、騒がしくて。」



クラリスが困ったわ、と可愛らしく首を傾げる。



「ほら兄さん、クラリスが困っている。」


「君がしっかりしないからだろう?」



クラリスを挟んで王子達がまた喧嘩を始める。

ごめんなさいね、と謝るクラリスと少し会話を交わし、その場を離れた。



話した感じ、彼女は今のところは転生者ではない。

ゲームの話題を振り、現代日本の知識をちらっと混ぜてみたが怪しい反応は帰ってこなかった。


今回のお茶会はビュッフェ形式で、好きなお菓子を選んで自由に席に座り、紅茶を使用人達が持ってくる。

自由に席を立つことが出来るので、色々なグループに混ざって情報を集めてみる。

まぁ、どこも王子とお菓子と最近のおしゃれの流行について話している。

男の子たちは女子のお茶会に混ざらず、男の子たちでまとまってるため話しかけるのはためらわれる。



クラリスが転生者ではなさそうなことが分かったし……。

ひとまず、今欲しい情報はこの程度だろうか。



「ブランカ様、バラ園が迷路になっているんですって。」



先ほど小説が好きだと語ってくれたご令嬢が声をかけてくれる。



「一緒に行ってみましょう?」









前略、迷った。


理由としては、暇そうにしていた男の子たちも迷路の探検に参加して、女の子たちにいじわるをしたのである。

王都育ちのお嬢様はそりゃ虫が苦手だよね。

皆でワーワー逃げ回っていたのだが、気付けば一人になってしまった。


はて、困った。


どこかに座る場所でもないだろうか。

騎士も巡回しているだろうし、じっとしていればそのうち迎えが来るとは思うんだが……。



「あ……。」



十字路を右に曲がる。

灰色の瞳にいっぱい水を溜めた、涙目の少年に遭遇。


無事死亡しましたありがとうございます。



なん、なんd、なんでハルトがここに!?

いやそりゃ王家に代々仕えている機密情報を扱う家だもんねそうだよねいるよね!

将来のハルトは現王に仕えているから直接の部下にはならなかったみたいだけど!



「子犬~、どこだ~?」



ビクッと、目の前の少年が怯える。

灰色の瞳が縋るように私を見る。


たすけて、と。


推しに助けを求められて助けないなんてことが選べるか?

否、助けるしかない。



よし、私はこれよりハルトの騎士です。

いや、無理。

あれだよきっと私は推しを守るために生まれてきたんだよ(錯乱)

は?

推しが愛しい、

坊主愛しければ袈裟まで愛しい。



「こっち」



まだこどもらしいふかふかの手を引いて一緒に迷宮を歩く。

ああ……美味しいものいっぱい食べてすくすく育ってくれ……。

いっぱい食べるきみがすき。私の奢りでもいい。

むしろ貢がせて欲しい。

てか私、今画面越しに見つめてきた人と手を繋いでいるのか。

緊張してきた。


歩いても歩いても追いかけてくる声は途切れることなく、そのたびにハルトはびくりと肩を揺らした。

ハルトは私と同い年のはずだが、私より小さい。

追いかけている男の子ももしかしたらそれなりの身長がすでにあるのかもしれない。


年上の男の子かな?



「大丈夫だよ。」


「あ、居た!」



安心させようとかけた声は無駄になった。

追い付かれたらしい。


ハルトが今にも泣きそうな顔をしている。

推しになんて顔させるんだ許さんぶっ飛ばすぞ。

ひとまず追いかけてきた男の子の壁になるように、一度手を離してハルトの前に出る。



「大丈夫、私が守るから!」



推しに涙を流させた罪は重いのだ、なにがなんでも私がここで憂いを絶つ!



「な! 女がなに出しゃばってるんだよ!」



正面に立っているのは赤髪赤目の少年。

腰に子供の訓練用の剣がある。

騎士見習いのようだ。



「女に隠れてないで出てこいハルト! 俺が鍛えなおしてやる!」


「けど、フラン……。」



フラン?


ああ、思い出した。

親が騎士団長のフランシスだ。

フランシス=ボールドウイン。

赤髪赤目、年齢は1つ上でロミオ王子と一緒に居る事が多い。

攻略対象の1人だ。

性格としてはお節介焼きのお兄さん。

多分これも悪気があってやってることではないのだろう。



「嫌がっていますわ。これ以上はおやめになって。」


「いーや! ハルトはいつもこうなんだ、ちょっと強引にするくらいがちょうどいいんだよ。」


「どうしてもというなら私が相手になりますわ。」


「は!?」



さぁかかってきなさいとぐいぐい前に出る。

素手のご令嬢にまさか剣を使うはずもないし、本気でかかってくるとも思えない。

そして勝算がないわけでもない。



「さぁ!」



フランが身じろぐ。

どうやら迷っているようだ。

ここで挑発の1つや2つかければ冷静さを失い、真っ直ぐに突っ込んでくるはず。

その初撃さえ避けられれば……!



「ブランカ様ー!」



おや?

声に振り向くと、巡回の騎士様と共に、一緒に迷路へ入ったご令嬢たちがいた。

どうやら迎えが来たらしい。



「良かった、合流出来ましたわ。……あら? そちらの方は?」



ハルトが恥ずかしそうに私の後ろに隠れた。

肩のあたりに手を置いて、後ろから様子を伺っている。


え? 小動物か? 可愛いな?



「……今日はこの辺にしといてやる。」



むすっとしたフランが横を通り過ぎた。

ハルトは代わらず私の後ろにくっついてる。

そんなに怖かったのだろうか。


「もう大丈夫ですわ。」


「……。」


灰色の瞳がじっと探るような視線を向けていたことに、私は気が付かなかった。










「うん? ハルト、女の子のお友達が出来たのかい?」



もう帰宅の時間らしく、迷路を出るとハルトのお父様が待っていた。

一緒に手を繋いで出てきた私とハルトに、ハルトのお父様はにこにこと笑って出迎えた。

ハルトは父親に気が付くと「お父様!」と私を放って駆け寄って行った……。


oh……ちょっぴり寂しい……。


折角接触出来たのにこのままでは立てたフラグが風に吹かれてぱったり倒れる。


でもパパっ子のハルトくん可愛い……love……。

そうだよね使用人も大事にしてたよね家族大好きだよね解釈一致ですありがとうございます。


しかし、ここでどうにかつながりを持っておきたい。

友人なり文通相手なり、頼れる存在になれたらハルト幸せ計画に一歩近付くのである!


どうにか……



流れ星が直撃したかの如く、ぴんとアイディアが降ってわいた。

これだ、これしかない!



「イグナーツ様、私を弟子にしてください!」






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