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偽界戦争  作者: 小春 結癒 (ユウティン)
序章:『存在しない神話の起源』
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第6話「一体何をしてるんだ!」

桐原(きりはら) (ゆう)

誰よりも現実世界へ行きたいと願うこの物語の主人公。二刀流の使い手で、凄まじい戦闘力を持つが、故あって自分の能力を隠している。何故か、10年前の記憶がない。

能力 ???


飯田(いいだ) (かい)

妹の重い病気を治す為、偽界戦争に参加。勉強は得意だが料理の腕は皆無。優を気にかけている。

能力 ???


間河辺(まかべ) 友花(ゆうか)

偽界第1特別学校の校長。彼女いわくキリパパが、この学校を設立したらしい。

能力 ???


「えーっと、今日からここのせんせ、せんせう……先生!!になる……桐原優です」


「あは、頑張って!」

「頑張れ親友」

と、優だけに聞こえるよう小声で言う金髪の男、(かい)とその隣に佇む赤髪長髪の女教師。優の目の前にはたくさんの子供達。




つい先程。

「ようこそ偽界第1特別学校へ!私、校長の間河辺友花(まかべゆうか)です!」


間河辺友花。優がこれから勤める……勤める?勤める……勤めることになる偽界第1特別学校の校長。優や金髪男から1つ年上の18歳。向こうの世界ならば高校3年生だ。

歳に見合って、凛とした佇まいにキリッとした表情をしている。スラっと腰元まで伸びる赤髪を首元から掻き上げ、靡かせる様はとても綺麗だった。



「い、いやまだやるって決まったわけじゃ。あと、学校ってもっと大っきいって聞いたんですが……」


教室にある黒板の裏で、優と女教師の友花と金髪男、戒とで、ここでのことについてあれこれ鼎談していた。


教室と言っても、壁も天井も無く、セーフティータウンのゴミ溜め区域に黒板と机、椅子を並べただけである。

優が想像していた学校とは程遠い。


この学校は、偽界戦争で親を亡くした子供や、自分だけが偽界に転移させられ、親と離れ離れになってしまった子供に生きる糧を与えてやる場所、更には、最低限必要な知恵を身に付けさせる場所。


しかし、優は学校に行ったことがなく、実に蒙昧な身。


「それに俺、まだ17歳だし。勉強も……」


「大丈夫よ!今日は初日だし質問コーナーでもやればいいのよ!!」



「勉強は、勉強が専売特許である、俺に任せろよ親友」

自慢気に腕を組み、親指を立てる戒。



「そうよ!戒君に任せてればいいわ!」


こいつ見た目の割に勉強できるのか……と、思ってしまった優。見た目や今までの言動からして、どう見ても戒は馬鹿にしか見えなかったから。


「分か……りました」


納得してくれたようで、ふぅ……と一息吐いた友花に、優は更に問いかける。


「あの、これ……学校、ですよね?」


しつこいことが気に食わなかったのか、友花は身を乗り出して優に迫る。


「ちょ、ちょっと!キリパパの学校をバカにする気?」


キリパパ……?

この学校を作った人物のこと、だろうか。と、想像しながら、優は友花の機嫌を伺いながら両手を左右に振る。


「いっ、いやいや!父さんから聞いていた学校と全然違ったから、気になって」

「……向こうのようにはいかないわよ」


すん、と友花の纏っていた空気が重くなる。

優はそれを悟り、縮こまって小声で話す。


「……すみません……」





「あの……キリパパって……」


ふと、優がそう呟いた途端、友花は先程までの発言を思い出したらしく、頬を染め上げて大声を上げる。


「お、お父さんのことよ!子供の頃私を助けてくれた人!!名前をちょっと取ってキリパパ!!わ、悪い!?こ、この学校を作ってくれたのだってキリパパなんだから!因みにっ、私ここの唯一の卒業生なんだからぁっ!」


真っ赤になった顔を隠しながら捲し立てる友花。友花が優に一歩攻める度、優は一歩引いて行く。


「あ……いや、す、すいません」



友花の、「パパ」という意外と子供口調なところに驚く優だが、友花は17歳とまだ子供なので気にしないことにしておく。

それは置いておいて、子供の身で子供に自発的に勉強を教えることには感心する。




なんとか金の問題が解決しそうなことに安堵を覚える。それだけで多少は気が楽になり、肩を下ろす。


「ごほんっ……じゃ、じゃあっ!任せたわよ!新人君!」

そう言って勢いよく優の背中を押す。


「うわあっ!」




そして、今に至る。


「えっと、その。俺は、その、えーっと、あっ!特に何でもないです……」


反応がない。優は子供たちからのブーイングが来ないことを祈りながら、一呼吸おく。

素早く振り返り「何してんだ俺は」と深刻な顔で呟いた優は、再び即座に子供たちを向き直り、満面の笑みを作る。

何が気が楽になった、だ。


「じゃ、そ、その。質問とか、ありますか」


9歳くらいの紫髪の少年が真っ先に手を挙げた。堂々としている容姿から、リーダー的な存在なのは見て取れる。


「好きなことは?」

「そ、そうだな。刀の素振りかな」


「へぇー、つまんな」

つまらなさそうに席に着く紫髪の少年。えぇー最近の子供怖ーい、と内心焦り出す優。


「え、え、えと。じゃ、じゃあ次!」


「先生!好きな人いるの!?」

「は!?え?好きな人!?い、いないいない!滅相もない!」


「先生はキスしたことあるの?」

「はぁ!?ど、どんだけハレンチなんだ君らは!な、ないですないです分不相応です!」



次に手を挙げたのは、短めな茶髪の清楚な少女。歳は7くらいだろうか。


「先生の、ゆめはなに?」



「え、ゆ……め?夢?君……」


目を今にも吸い込まれそうなブラックホールのように丸くし、瞬きを繰り返す。顔を淀ませ、頭を押さえて膝をつく優。


「ん、どした親友」

「だ、大丈夫?新人君」

二人が駆け寄るも、優は手で大丈夫だと合図する。


「い、いや。ごめん。ちょっと頭が」


今のって……夢の……




夕刻。


「初日から体壊すとは、ついてねぇな親友」

そう言って、ジュースをベンチに座った優に渡す金髪の男、戒。


「あ、ああ。すまない」


「にしてもどうした?あの子に惚れたのか?まさか俺の親友が幼女趣味だったなんて」

そう言ってジュースを口に運ぶ戒。優は渡されたジュースに口をつけることなく捏ねる。


「いや、似たような夢を見たことがある気がするんだ。夢について、語る夢」

「ダジャレかお前」


優の無聊な諧謔に、戒はつまらなさそうに続けて飲む。本人にそんなつもりはないのだが。


「いいんだ。まあ、金はなんとかなりそうでよかった」

優はジュースを一口飲むと、久々に少しだけ清々しい顔を作った。




「一つ言いたいんだが、その子を助けてお前にプラスになることがあんのか?」


「ああ、彼女は……俺の失われた記憶の欠片を持っている気がするんだ。彼女から、ありったけを聞きたい」


「へぇ、そっか。ま、深入りしないでおく。とりあえずよろしくな親友」

そう言って、優に手を差し出す戒。

「なんだよ」



「なにって、握手だろ?改めて言うぜ。俺は飯田戒(いいだかい)。よろしくな」




「んん、別に親しくするつもりは……ない」

しぶしぶ、目線を逸らしながら自分の手を戒の手と重ね合わせる優。



「意訳するとまだまだ人付き合いが慣れないのでこれからよろしくお願いします。だろ?」

「なんでそうなる」



笑顔で言う戒。自然と優の顔にも軽く笑みがこぼれた気がする。しかし、恥ずかしいので振りほどく。



「ハハッ。さて、今日は家泊まってけよ親友」

「なんで。もう戦わないと」


「そう焦るな親友。潰し合いしてくれた方が俺らにとって好都合だろ?今はセーフティータウンに籠るのが得策だって。ほれほれ」


戒は優に伸ばした手の平を上下に揺らす。

「あぁもう。分かった。1日だけだ」


戒の手を取ることなく立ち上がりポケットに手を突っ込む。顔で案内しろと伝え、戒も微笑しながら会釈をした。

「あ、あれ?そいや妹は?」




「あぁ……舞友実は……」


「……え?」


豪風が吹いた。


ーENDー

次回「忘れない時間」

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