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偽界戦争  作者: 小春 結癒 (ユウティン)
序章:『存在しない神話の起源』
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第2話「フォーエバーウォーズ」

桐原(きりはら) (ゆう)

誰よりも現実世界へ行きたいと願うこの物語の主人公。何故か、10年前の記憶がない。

能力 ???

「いやぁ。5年ぶりだねぇ人間」



こいつは遊鬱神。偽界を創り、人々をこの世界へ無差別に連れてきた張本人だ。


姿は現さない。優たちの頭上を覆う赤い空から、声だけが響いてくる。

「前回の偽界戦争はつまらなかったよぉ。みんな雑魚ばっか。すぐ死にすぎ」


と、長々と無関係の事を語り出す。肘をつきながら笑顔で楽しそうに話す姿が目に浮かぶ。


しかし、そんな神にカッとなった男が大声を上げた。

「おい!んな話はいいんだよ!早く始めろ!」





「は?」

神の一言に中央広場、いやセーフティータウン、いや偽界全ての領域に鋭い寒気が走る。

刹那、声を上げた男の胸部が膨張していった。


「な、な、なんだこ……」


騒めく人々。一歩、二歩と男から遠ざかるように身を引いていく。その瞬間。


ブチャァァンッ!!


音と共に胸部が破裂し、内臓、血が次々と飛び散り、中央広場が紅の血に染まる。

悲鳴が飛び交う。ある者は泣き叫び、ある者は嘔吐し、ある者は立ち尽くし言葉、感情を失う。皆他者の死に疎いのだ。

その逆も、もちろん存在するが……

しかし、神は尚楽しそうに大声で叫ぶ。



「ハハハハハハ!これ!これこれ!あいつの銃ってこんな感じだったよなぁっ!めっちゃ気持ちいいじゃん!」



優や、隣の兄妹は呆然としていた。目の前であっさり人が死んだのだ。自分達と同じように生きていた同じ人間が一瞬で。

そして、自分達も同じことをしようとしてることに胸が痛む。


「な、なんで……」


優は、唇を噛み締める。これは本来糾弾されるべきもの。しかし今も笑い楽しみ続ける神に怒りを、恐怖を、絶望を覚えた。


戦争なんかして、罪のない人々を殺す必要があるのか?罪を重ねる必要があるのか?

神を殺せば全て終わるではないか。


しかし、自分達に神を殺す程の力はない。


偽界でただ1人、遊鬱神に対抗し得る力・神の力をその身に宿している人間がいるという噂があるが、そんな迷信を信じる者は誰1人としていなかった。

皆、神に抗うという概念を失っているのだ。


優は自分の無力さに対する怒りを抑えるように、強く目を瞑り、拳を握り締める。


「んー?そろそろ始めるぅ?まあ分かってると思うけど、ルールは簡単!勝ち残れば偽界から出すし願いも叶えちゃいます!アハッ、でもね!今回今までとちょっと違うんだぁ!新しい要素というかぁ?まぁ、まだ言わないけどね!」


神は、相変わらず楽しそうに話す。

男の死に動揺していない者達は、神の話に耳を傾けることなく、武器を片手に平気な顔をしたまま出口を目指し歩き出した。

皆の顔に表情はなく、欲望にだけ染まっているのか、生気を保っていない。


「これより。第4次偽界戦争を始める。さぞ、僕を楽しませろ。人間」


赤く染まっていた空は、いつもの清々しい青に戻り、同時に神は静まった。

沈黙を破ったのは、あの兄妹。


「さて、これからどうするよ。舞友実」

「今出るの危険じゃない?」


「今出口に向かう奴らなんて、戦い好きか、死に麻痺した奴らばっかだもんなぁ。怖い怖い」


男は目線を優へと向けた。


「お前は?」


優は立ち上がり、僅かに笑みを浮かべながら男を見る。

「出るよ。戦う」


「ははっ、勇敢なことだ」


「見てみなよ。誰もあの子に声すらかけない」


優の目線の先には、先程遊鬱神によって殺された男の屍の傍で座り込む少女だった。恐らく、ショックで動けなくなったのだろう。

あれ程無残な死に様を目撃しても尚、残された者を気遣う優しさがこれっぽっちもこの世界には存在しない。


「こんな奴ら……死んだ方がいい」


だが、優のその顔には、まだどこか迷いがあった。それを見透かしたのか、男はベンチから立ち上がった優の背中に声を掛ける。


「お前、ひでぇ顔してるぞ」


優は男の言葉に頬の皮膚を上下させ、鋭く尖った双眸で首を捻って振り向く。

男は更に優を茶化さんと言わんばかりに、それでもどこか真剣な顔立ちで、優に近寄る。


耳元で囁いた。






「覚悟すらできてないような奴に、できるかって」





細めていた両目を一気に覚醒させる優。

焦りと困惑の表情を浮かべ、どこか縋るように男を向き直った。

優の反応が予想通りだったのか、唇を僅かに引きつらせる男。哀れみ、無力感が伝わる。


険悪な雰囲気で、長く沈黙する2人。そこに、妹が背後から駆け寄ってきた。

「ちょ、お兄ちゃん……」

「ハハッ、ま、俺も人のこと全っ然言えないんだけどな!ただ……」


妹に軽く会釈を済ませた男は、視線を落として優に続ける。



「過去にそういう人たちをたくさん見てきたからさ。人を殺す勇気もないくせに戦争に参加して、地獄を見た奴らが」

「……」


「さ、行くぞ舞友実」

「え、ちょ、気っっっまず……」

そこまで言うと、男はじゃっ!と片手を上げ、妹と共に反対方向へと歩いて行った。


男に言われたこと。

地獄を見る、と。


目を閉じ、眉間に皺を寄せながら俯いていた優だったが、頭を何度か左右に揺さぶり、兄妹たちとは真逆、中央広場で死んだ男の死体がどうしても目に留まり、そこへ歩く。

最早男の面影など跡形もない無残な死体の前で立ち尽くし、隣にいた未だ動けぬ少女に声をかけた。


「大丈夫」

「お父さん、なの」


そう言った少女の目は、死んだように虚ろだった。先程ここで儚く死んだ男は、この子の父親のようだ。

想像以上の惨さに、優は思わず目を見開く。


「……そっか」

「1日でも早く、お前を外に出してやるって、言ってくれた。なのに……」


「だからあんなことを言った……のか」


「どうして……なんで、外の世界に、帰りたい、だけなのに……っ、なんで……なんで……」


優は、泣き出しそうになる気持ちを必死に押し殺し、少女の頭に手を置く。


「君のお父さんは、立派だよ」


そう言うと、優は出口に向かって歩き出した。何もしてやれない自分が愚かで、嫌いで、それだけだった。

だが、自分はこれから少女と同じ境遇を持つ人間をたくさん、たくさんたくさん殺しに行く。

戦争だから。これを理由に。



仕方ないだろ。俺だって帰りたい。




『どうして……なんで、外の世界に、帰りたい、だけなのに……っ、なんで……なんで……』



『覚悟すらできてないような奴に、できるかって』



「それでも……俺は」








セーフティータウンの門を抜けると、そこは既に戦場だった。

辺り一面に血液が染み込み、それでも尚武器が交差する鋭い音が鼓膜に届く。


「これが……戦争」


優が外に足を踏み入れた直後、たった今参加者をまた1人殺したであろう、男と目が合う。

男はか弱い体つきの優を見てニヤリと笑い、頬に飛び散った血を舌で舐めると、殺した参加者の胴体から剣を引き抜く。


「よう。さあ、戦争しようぜぇ?」


男と、その男の先に広がる参加者同士の殺し合いを目の当たりにし、優は思わず息を呑む。

本当の殺し合いを初めて見た優。今にも泣きそうで、今にも逃げ出したい。


でも……願いを叶えたい。現実世界に……行きたい!


そう強く願い、目を見開いた優は、腰に装備した2本の刀を鞘から解放し、口元を緩めた。


「だああああっ!」





一方、セーフティータウンの離れにある廃屋。


「さ〜〜て!一馬(かずま)君!時間だよ〜〜?」


ナイフをハンカチで手入れしながら、笑顔で言う中年の男。その前には、もがれた人間の首を持った血だらけの小柄な青年。名は一馬という。背後には無数の死体。


「チッ、雑魚ばっかでつまらねぇ」

「ははっ♪君のお兄さんは、どうなってるかなぁぁ?」

「あいつは雑魚のまんまだろ。今度こそ俺が心臓をえぐり取ってやる」

そう言って、一馬は首を壁へと放り投げる。ベチャッと音を立てて張り付き、ズズズと壁を伝って落ちていく。




「おい(みなみ)!」

叫んだ一馬の目線の先には、黒服に身を包み、背中から黒い触手のようなものを出した男。形状を刃に変えて、人間を串刺しにしている。

男は鋭利な目を一馬へと向けて言った。

「……終わった」



「いやぁ、怖い怖い!」


中年男は微笑しながら言うと、後ろに振り向く。そこには、100に及ぶ人間が立ち並んでいた。



手袋を握り直す。


「さて、ゲームを始めようか。勝つのは我々、アブソルートキルだ」





ーENDー

次回 「狂気の赤眼」

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