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偽界戦争  作者: 小春 結癒 (ユウティン)
序章:『存在しない神話の起源』
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第12話「涙のリグレット」

桐原(きりはら) (ゆう)

誰よりも現実世界へ行きたいと願うこの物語の主人公。二刀流の使い手で、凄まじい戦闘力を持つが、故あって自分の能力を隠している。何故か、10年前の記憶がない。

能力 飛翔(武器)・???


飯田(いいだ) (かい)

妹の重い病気を治す為、偽界戦争に参加。勉強は得意だが料理の腕は皆無。優を気にかけている。

能力 ???


(みなみ) (りゅう)

アブソルートキルの幹部。優に似た全体的に黒い容姿。弱者をとことん憎んでいる。彼にも深い過去が!?

能力 黒触刃


???政綺(まさき)

謎の多い男だが、桐原家と深い関わりがあり、悲しき過去を持つ。アイパッチで失われた右目を覆っている。

能力 能力無効化


「ぎゃあああああああああ!!あああああああああああああああ!!足ィ!!足ィ!!痛ぇ!いだぁい!!いだああああいいいいいいいあああああああ!!」


優が振り下ろした黒刀が切り落としたのは、足。カリアの片足だった。

それでも痛みは相当で、カリアの絶叫が轟く。


「やっぱり、殺せないよな……」


泣き喚きながら切断された足を両手で掴むカリア。唇を噛み締め、ただひたすらに断面からの出血を抑える。

優は無表情で足掻くカリアを見る。


「そのまま這いつくばってろ」


そう言い捨て、舞友実の傍に膝をつき、慄然する優。何を見ているのか分からないその双眸には、絶望と悔恨の涙。


荒い呼吸を繰り返し、優から逃れまいと、なき足を引きずり必死に這いずるカリア。顔には優に対する恐怖。


それもそうだ。カリア、そして先程優が能力により無力化したミサク。この2人はアブソルートキルのエリート中のエリート。

アブソルートキルの精鋭、一馬の部下で、戦争開始から今日までに殺した人間の数は計り知れない。


その1人のミサクを、能力で触れずとも倒してしまった優に恐怖を覚えるのも当然である。

足や身体中から吹き出る血など見向きもせずに必死に腕を動かす。


しかし、そのカリアの足が止まった。別の何かが、カリアよりも(まさ)った何かの足音が聞こえたからである。

「み、南さん」


そう口に出したカリアの目の前には、黒い髪に黒い服で身を包んだ中身長の男。背中から伸びる黒い2本の刃を呻らせている。

自信に満ち溢れた佇まいから、才加に只者ではない。


南と呼ばれた男は、這いずるカリアを横目に、俯く優に言った。

「無様だな。大切な人1人守れないのか」



優は打ちひしぎながらも南の方を向く。光が抜け落ちた瞳で、こちらを見下ろす南を見る。南は優より強いはずだが、もう、恐怖などを感じる気力すらない。


「お前ら、何なんだよ。何がしたいんだよ」

「さあな。俺はボスに従って行動しているだけ。貴様の抹殺も首領(ボス)の指示だ」


「何で舞友実や……村の人たちを」

優の目が刻々と鋭利になっていき、黒刀を握る圧が一層強まる。


「この場に居合わせたことが全て。弱者は死ぬ定めなん」

「ふざけんなっっ!!」


溢れ出る涙を振り払って南に接近する優。左手の黒刀を滅茶苦茶に大振りで振り回す。



「話を聞くことすらままならないとは。もはや貴様は猪だな」


南は、自身の黒い刃の先端を丸め、優の横腹に叩きつけた。

「ぐっっ!」


腹を押さえて崩れる優。そんな優の髪を掴み、南は迫真とこう言い捨てた。


「さっきは後ろを突いて悪かった。俺の名は南龍(みなみりゅう)。アブソルートキルの幹部にしてこの戦争に勝利する者。弱者が消え、強者だけが生き残る。それが偽界戦争。他者の死にいつまでも怖気付くな。俺は万全でなければ戦わない。万全な貴様しか殺さない」


そう言って優を投げ捨て、後ずさりする龍。伸ばした刃でボロボロのカリアとミサクを抱き上げる。

しかし優は……


「待てっ!そいつは……今俺が殺す!」


と、出来もしないことを口走る。


「言っただろ。俺は正統な戦いしか望まない」

僅かに笑みを零した龍に、更に優の罵声が飛んだ。


「お前っっ!」

「神夢囲さんが目を付けた貴様と是非万全な状態で戦いたいものだ。また会おう桐原優」


そう言って踵を返し歩き始める龍。優はカリアとミサクに手を伸ばすも、届くはずもなく、意識が途切れていった。






気付けば、そこはセーフティータウンだった。

門前で目が覚めた優に、水を差し出すあの黒髪の男。先程優を助けた政綺だ。

「ほれ、優君」


優は困惑した表情を見せながらも、無言で水を受け取り、口に流し込む。

「その傷……」

「ああ、やはり僕の力じゃ敵わないな。隙を見て逃げて、君を見つけて、んで今に至る。てとこかな?」


その時、思い出したように途端に優の顔が青ざめ、よろよろと立ち上がる。政綺の両肩を鷲掴んで強く言う。

「ま、舞友実は!?あいつはどうした!?」

「……死体処理隊が回収した。今頃焼かれてる頃だよ」


偽界には、悪臭腐臭を避ける為、セーフティータウン周辺に転がる死体を集め、処理する団体がいる。

惜しくもあの村はセーフティータウンのすぐ近く。もう遅い。




「何で……どうしてこうなる」


またも崩れる優。舞友実の、あの笑顔が忘れられず、今も頭を過る。助けられなかったことが今も優の胸を締め付ける。

そんな優に、政綺は膝を折り肩を落とす。

「優君。これは……ある人に言われた言葉なんだけど」


優は悲しみに暮れながらも、政綺の目を見る。先程とは正反対に、どこか悲しそうな目をしていた。


「人は失わなければ強くなれない。全てを持っている人間には、何も成し得ることなんてできないってさ。優君……君は、何故戦争に参加したんだい?」



「何かを失ってでも、手に入れたいものがあるからなんだろ?それとも君は……」


優の目が微かに見開くのと同時に、政綺は何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべて立ち直る。

「いや、いいや。僕はやることがあるから行くよ。またね、優君」


ポケットに手を突っ込み、背を向ける政綺。彼の背中に優は叫ぶ。

「政綺さん!聞きたいことがっ!」




「悪いね。急ぎの用事さ」




政綺は微かに笑みを浮かべて、再び歩いて行く。優は政綺の背中が小さくなるのを眺めていた。

やがて膝を落とし、擦り傷だらけの手を見つめると、自分の無力さを嘆き始める。

伝う涙を振り払って、地面に拳を打ち付けた。


「俺に……神の力があれば……くそっ、くそっくそ!!何で!何で!何でぇぇっ!!」



そこで、ふと、向こうに大量の煙が上がっているのを発見する。

咄嗟にあれがなんなのかを悟り、引きつけられるように走り出す。ゴミ溜め区域の方だ。偽界第1特別学校がある方とは別の。

嫌な予感が過ったが、僅かな希望に縋るように走る。




やはりだった。

死体を火の中に次々と放り込む死体処理隊と、大量に積まれた死体が、そこにはあった。

絶句していた優だったが、やがて死体の山の前に立ち、目線をあちこちへと向ける。舞友実を探しているのだ。



しかし、舞友実の姿はどこにもなかった。目の前の状況は、優に舞友実の状態を知らしめるには十分だった。

俯く優。長い時間優の心を罪悪感が。空間を沈黙が支配していたが、そんな優に、死体処理隊の1人が声をかける。

「おいあんた。危ないから離れな」



優はその男を僅かに睨みつける。

「最後に、家族の1人や2人……会わせてやったっていいじゃないか」

「あのな。臭うんだよ。戦争開始直後は、そこら中に死体が転がってやがる。そんな余裕ねーよ」


眉を顰め、歯を軋ませる優。男は更に、優を抉った。


「あんた、死体の臭い嗅いだことあるか?」


男の一言に耳を塞ぎ、即座にその場から離れる。

そこで、今にも流れ出しそうな涙を溜め込んだ優の目にある物が映った。


舞友実の持っていた刀だ。蒼い、美しい刀。

優はそれを拾い上げ、そっと握り締めた。





優が向かったのは、偽界第1特別学校のあるゴミ溜め区域。現在時刻は午前11時。まだ戒が子供達に授業をしている時間だ。

戒に謝らねば。という衝動が優の足をここへと運ばせたのだ



やはり、戒は子供たちと笑顔で話していた。

何を取り繕う訳でもない。純粋に子供たちと楽しそうに戯れている。

金の為に子供たちを利用してきた自分が急に恥ずかしくなった。


それと同時に。

そんな戒を見た優は、思わず足を退かせる。言えるわけなんかないだろ。

そう思い、逃げ出そうと足を戻したその時。


ぎりぎりまで近付いた優の姿を確認すると、戒は授業を中断して駆け寄ってきた。ある異変に気付いたからだ。


舞友実がいないこと。そして、舞友実の刀を優が持っていること。


「お、おい親友。舞友実はどうした?2人で遊びに行ったんじゃなかったのか?」


「……」

戒と対面するも、優は鉢が悪そうに目線を戒から逸らす。


「あ、あれか?先に帰ったとかか?ハハッ、アイツらしいな」


「舞友実は……」

戒は笑みを浮かべるが、額から僅かに汗が垂れているのが分かる。

優は必死に戒にかける言葉を探そうと、高速思考を巡らすも、それを表情に出さないことに精神を費やすことで精一杯だった。

「舞友実は……し……」


次の瞬間、戒は笑うのを止め、優を凝視した。その目に圧倒された優から出た台詞は……


「し、仕事を……な。俺が体調悪くなって……代わりに」


戒の表情が一変する。目に光が灯る。しかし、それはどこか、偽りに満ちていた。


「な、なるほどな!よかった!さ、さぁ親友!午後からはお前の授業。みんなお前の授業楽しみにしてたから頑張れよ!」


戒は捲し立てるように言うと、すぐさま定位置に戻っていった。優は、その背中に、何の言葉もかけてやれなかった。

嘘をついてしまった。それで頭が埋め尽くされてしまっていたのだ。

しかし、これは優しい嘘。つくべき嘘だと自分に言い聞かせ、踵を返してその場を離れた。


「ごめん、ごめん、ごめん……」


ーENDー


次回「失わなければ」

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