Duct42 ダクトテープを信じろ!
「ダクトテープ!!」
セシルに向かってダクトテープを飛ばす。
そして、セシルの胴体をダクトテープで絡め取り、強引に引っ張った。
セシルが上体を反らし、数歩退いた直後、田中さんの右手がついさっきまでセシルが居た場所で空を切った。
危なかった。間一髪だ。
セシルはすぐに大きく後ろに跳び、さらに田中さんと距離を取った。
「あーあ、残念。もうちょっとだったのに」
片膝をつくセシルを見て田中さんが舌なめずりをした。
くそっ、身体に触れた物をジャガイモ化するスキルだって!?
確かに、そんな能力があれば、どんな物理攻撃に対しても無敵だ。
俺のダクトテープによる攻撃も、セシルの剣による攻撃も田中さんには効かない。
どんだけチートなんだよ!
どうすればいい?
魔法が使えるエルドーラとオーギュスト侯に魔法攻撃をしてもらうのが最良の策だろう。
しかし、2人はスペクターの大群相手に手いっぱいだ。
2人が田中さんと対決するならば、スペクターの相手を俺とセシルがしなければならない。
うぬぬぬ、でも、スペクターにもダクトテープ効かないんだよな。
なんだよ!
俺のダクトテープって、全然使えないじゃん!!
――ダクトテープは万能だ。
頭の中に神様のいつもの声が響いた。
いや、神様、でも現状は手詰まりですよ。
――ダクトテープを信じろ。
信じろと言われてもな……。
そもそも、このダクトテープを自由自在に扱うスキルは、田中さんが選んで俺に持たせたやつだろ?
しかも、その理由が、万能ダクトテープと万能ジャガイモを使って異世界で文明興しだか建国だかのゲームをやりたいって理由じゃん!
そんなスキルで田中さんに勝てるのかよ……。
俺の心の中で、異世界に来て初めてダクトテープの無力感が広がっていく。
「リョウ様! ダクトテープを出してください!」
セシルが俺を見つめた。
凜とした瞳、優しく力強い声。
「わたしはリョウ様とダクトテープを信じています」
そのひと言で、俺の心のもやもや感は霧散した。
だって、そうだろ? 好きな人に「信じる」と言われて、気張らない奴がいるか?
いや、いない!
俺は田中さんに向かって右手を突き出した。
「はっは。大木さん、まだやるの? もう諦めなよ。頑張って私のところまでダクトテープを飛ばしても、私に触れればジャガイモになるんだから無意味だよ?」
俺の仕草を見て、田中さんが嘲りの笑みを浮かべた。
ぐぬぬぬ、そうだ、田中さんに触れた物は全部ジャガイモに……。
触れた物はジャガイモ……。
なるほど、そうか!
ダクトテープで田中さんを倒せるぞ!
「田中さん! 魔王なんてやめて、これまでジャガイモ化した人を全て元に戻すんだ。頼むから俺の言うことを聞いてくれ、さもないと、俺は田中さんを倒さなきゃいけなくなる」
「はあ? 大木さん、ここにきてブラフですか? はったりっていうのは、手の内をまだ見せていない相手にしか効かないんですよ」
「手の内はまだある! 頼むからスキル『ポテト』を解除してくれ」
「だから、私にはそんな浅はかなブラフは効かないっていうの! 絶対に魔王役はやめないし、スキルも解除しない! この世界を終わらせてやるんだから!」
「仕方ない。恨むなら、自分のスキルを恨んでくれよ」
俺はスキルを発動させ、ダクトテープを飛ばした。
その向かう方向は田中さんではない。
田中さんから少し離れた場所にあるジャガイモの小山だ。
田中さんが黒いフードを被って登場したとき、彼女を攻撃するために俺が出現させた1万発のダクトテープの弾丸の成れの果て。
この1万個のジャガイモの周囲にダクトテープを何重にも渦巻かせ、1万個を一気にグルグル巻きにする。
こうして、20メートル四方はあろうかという超巨大なジャガイモの塊の出来上がる。
俺はこの塊から帯状にダクトテープを伸ばし、しっかりと両手で握り締めた。
「な、なにをする気?」
巨大なジャガイモの塊を見た田中さんが初めて動揺する素振りを見せた。
「なにって、超特大のポテトキャノン砲だよ」
俺は超巨大なジャガイモの塊からの伸びるダクトテープの帯を握ったまま、その場でブンブンと回転を始めた。
スキルのダクトテープ操作能力に遠心力が加わり、超巨大なジャガイモの塊が宙に浮いて回転し、徐々にその速度を上げていく。
陸上のハンマー投競技の要領だ。
回転する超巨大なジャガイモ塊の下では、エルドーラとオーギュスト侯、そしてニンジャたちが「危なっ」「こら、アホ勇者!」とか何とか言いながら地面に伏せている。
「も、もしかて、そのジャガイモを私にぶつけようとしてます?」
グルグルと回転する俺に田中さんのキョドった声が聞こえてきた。
うん、そう。
でも、回転しすぎて頭がクラクラで返事がおっくうなので、コクリと1回だけうなずく。
「あのジャガイモの塊が私にぶつかっても、ジャガイモがジャガイモになるだけだから……あれっ? ヤバくない? ぎゃああああ、マジでヤバイって!! 解除!! スキル解除!! ぜーんぶ解除!!」
田中さんがそう絶叫した瞬間、俺が振り回しているジャガイモの塊がダクトテープ弾丸1万発の塊に変化した。
うん、想定内。
俺は手にしたダクトテープの帯を絞り、その先にあるダクトテープの弾丸1万発の巨大な塊をさらに縛り上げ、カチンコチンにしてやる。
「くらえ、ダクトテープキャノン砲!」
回転がピークを迎えたとろこで、ダクトテープの帯から両手を離した。
その途端、巨大なダクトテープの塊が田中さん目がけてぶっ飛んでいく。
「わあああ! やっぱり、ポテト!」
田中さんの悲鳴にも似た叫びを受け、ダクトテープのキャノン砲弾はまたジャガイモに変わった。
しかし、その存在は消えやしない。
むしろ質量と密度を増し、強化される結果となった。
「元の世界まで飛んでけー!!」
俺の魂の叫びとともに、超特大ポテトキャノン砲弾が田中さんの全身をスッパーンと見事に打ち抜いた。
ポテトキャノン砲弾はそのまま勢いで田中さんと一緒に上空へぶっ飛んでいき、共に空の遙か彼方へと消えていった。
キラーンっ! という効果音と星の瞬きが空の彼方から上がった気がした。
ぬはははは、勝ったぞ!
ジャガイモとの万能対決はダクトテープの勝利じゃ!




