Duct21 ダクトテープの経験値1
暮れなずむ空の光が、窓からななめに差し込み、部屋を明るく照らしている。
そんなオレンジ色の光に包まれた居間の机に、料理の載った皿が続々と運ばれてくる。
新鮮な山菜のサラダ、キノコと根野菜スープ、焼きたてのパン……。
なによりも、鴨肉のソテー!!
これらの皿をエンヤコラセと台所から運んでくるのは、フィアの眷属のタヌキたち5匹。
眷属のタヌキたちは人化の術が不完全ということで、フィアは「普通のタヌキに見えますの」と言っていたが、実際に見ているとタヌキ顔の小人さんだった。
タヌキの小人さんは人間でいえば3歳児ぐらいの身長。
顔は簡単な点と線だけで描いたようなたれ目のタヌキ顔で、獣耳がチョコンと生えている。
雄が着ている半ズボンと、雌のスカートからはフサフサの尻尾。
そのタヌキの小人さんたちが皿を両手で持って、二足歩行でチョコチョコと歩いて来る。
控え目に言っても、超絶かわいい!!
俺は808匹のタヌキを、愛を込めてタヌキさんと呼ぶことに決めた。
これにはセシルとグラもすぐに同意した。
「タヌキさんかわいいです~」
「まったくだな! タヌキ汁だなんて、誰が考えたんだ、万死に値する」
セシルが自分の前にスープの皿を置いたタヌキさんの頭をなでながら言うと、グラもキラキラとした瞳でタヌキさんと鴨肉のソテーを見つめた。
うん、うん、もうタヌキを食用としては見なくなったんだね。
よかった、よかったよ。
タヌキさんはうまく人語が喋れないようで終始無言だが、セシルやグラに頭をなでられると嬉しそうに目を細めた。
ああ、やっぱり、かわいいなあ。
フィアとタヌキさんたちの配膳が続く中、ふと食卓の上に並ぶ皿の数が気になった。
「あれ、これって、3人分しかないんじゃない?」
「はいですの。ご主人様とセシルお嬢様、グラスネージャお嬢様の3人分ですの。もしかして、他にお客様がいらっしゃいますの? でしたら、追加でお作りしますの」
フィアがにこやかに俺の問いに答えてくれた。
が、俺の疑問は、そんなことではない。
「いや、足りないのはフィアの分だよ。一緒に食べるだろ?」
「と、とんでもないですの! 使用人の分際でご主人様たちと同席はできませんの!」
俺はごく当たり前のこととして提案したのだが、フィアは必死に頭を振って断った。
なるほど、雇い主と使用人の関係ってそういうものなのか。
でも、フィアは俺の使用人ではない。
あくまでも、恩返しの代わりに家政婦さんを頼んでいるだけだ。
この点は、しっかり念押ししておこう。
「フィアは俺たちの家政婦さんではあるが、あくまでも同居人だ。一緒に暮らしているんだし、フィアが作った料理なんだから、一緒に食べる方が自然だろう」
俺は再度告げるが、「で、できませんですの。ご主人様たちのお食事が終わった後に、眷属たちと台所で簡単に食事を済ませますですの」とフィアはさらに必死に頭を振った。
そんなフィアに向かって、セシルとグラが交互に話しかけた。
「フィアさん。リョウ様の言う通りです。わたしたちとフィアさんの関係は上下や主従ではなく、あくまでも対等ですよ」
「ていうか、早く席につけ。早くしないと肉が冷める。それと、タヌキさんも食事をするなら居間で食べればいい」
セシルは優しくほほ笑みながら、グラはあくまでもぶっきらぼうにそう伝えると、フィアは両肩をワナワナと震わせて、ついには泣き出してしまった。
あー、なんか逆に困らせたかな。
「その、ごめんね」
「違いますの、違いますの。フィアは、フィアは大陸一の幸せ者ですの。こんなにお優しいご主人様とお嬢様たちにお仕えができて嬉しいですの」
俺が謝ると、フィアが涙を拭いてほほ笑んだ。
西日が当たって茜色に染まるその顔はとてもかわいらしい。
その後、タヌキさんたちがフィアの料理も食卓に載せようとしていると、突然に大きな地鳴りとともに強風が吹き付け、家がガタリと大きく揺れた。
驚いたタヌキさんたちが皿を落としそうになったが、セシルとグラが超絶早業で皿の下に手を入れ、落下を防いだ。
タヌキさんたちはその素早さに恐れおののいたのか、一目散に台所に逃げ込み、出てこなくなってしまった。
「恐がらせてしまいましたかね……」
セシルが申し訳なさそうに言いながら皿を食卓に置いた。
「いや、どちらかというと、外の気配にびびってるようだぞ」
グラは皿を食卓に置くと、そう言って玄関の扉を見やった。
確かに地響きと揺れは止んだが、ときおり強い風が当たっているようで扉がガタガタと揺れている。
台風でも近づいているのかな?
いや、それだと地響きがするのはおかしいか。
「フィアが外の様子を見てくるですの」
「あっ、俺も行くよ。一人じゃ危ない」
俺はフィアを呼び止め、席を立つ。
食卓を見ると、セシルとグラはジッと料理の品々を見て微動だにしない。
その口元にはじゅるりとよだれが……。
「その、なんだ、先に食べていていいぞ」
そう声をかけると、料理から目を離さないままセシルが「4人そろっての初めての食事ですよ。みんなそろって食べましょう」と言った。
「そうだぞ、だから、早く様子を見て戻ってこい」とグラ。
まったく、食い意地が張っているくせに、こういうところは2人とも義理堅いというか高尚だな。
これが育ちの良さというものか。
まあ、こういう点が2人のよい所ではある。
「じゃあ、ちょっと家の周りを見てくるよ。すぐに戻る」
俺はそう告げると、フィアを促して玄関の扉を開けた。




