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Duct0 プロローグ
10億円分のダクトテープの段ボールが湾岸の倉庫いっぱいに積まれ、外にも溢れていた。
その有り様に恐れおののいた俺はその場から駆け出し、道に飛び出してトラックに轢かれてしまった。
薄れていく意識の中でこだましていたのは、「やっちまった」という自分の声。
ダクトテープ4千個を発注したはずなのに、3桁も間違えて400万個も注文してしまった。
史上最大の誤発注やらかした。
それに、トラックにも轢かれた。
でも、これで、終電間際まで続く残業や片道1時間半の満員列車、課長の理不尽な命令、4半期ごとに勝手に増えていくノルマからやっと解放される。
そうだ、入社以来ずっと続いた社畜ライフともおさらばだ。
ようやく俺にも平穏が訪れるのだ。
ただ、気がかりは10億円分のダクトテープ。
ごめんなさい。
事務の田中さん、社長の奥さん、同期の上川君……。
こんな駄目な俺に優しくしてくれたごく少数の人たち。
俺の死後にあのダクトテープが有効活用されますように……。