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12.疑似餌4 *大地視点

3話続けて投稿します。

お待たせしました。

よろしくお願いします。

 事の発端は、螺旋(らせん)の傘をフキに変えたことだと思う。それまで呑気に「ウチには変な座敷童子がいる」と思ってた。昔は『おかしな同居人』で、今は『小さな妹』な感じだ。


 いつもはどんなに巫山戯(ふざけ)たことを螺旋に仕掛けても、あいつは噴火するように怒った後はさっぱりと忘れたり、一緒にノってきてそのまま遊び倒したりだった。


 それが、蛇の目傘のときは違っていた。螺旋は傘を元に戻せ、と怒るには怒った。そしてその後、凄く、泣きそうな顔をしたんだ。一瞬だったけど。笑い転げてた俺は、その表情を見て失敗を悟った。これはやっちゃいけないヤツだったと。


 んで、脳裏に『物には思い出が詰まってます』としたり顔で説教する母さんが浮かんだ。・・・遊んでるうちにいろいろ壊したからな。


 大事にされている物にはそれだけの理由がある、だよな。


 螺旋は雨のたび、蛇の目傘を愛しそうに撫でていた。雨の日の散歩は晴れの日より欠かさないから、雨が好きなんだと思ってたけど、『傘』が特別だったんだな。


 ただ、いつものイタズラだったんだ。螺旋は、すげえ長生きな妖怪のくせに、物事への反応がいちいち面白い・・・いや、慣れてない?から。それに、いつも簡単になんやかんや出していたから、蛇の目傘をフキに変えたってまた出せるんだと思ってた。



 無知ってのは残酷なことだ、と学んだ。



 蛇の目傘を大事にしていた理由も、螺旋の物の具現化にルールがあることも。


 俺は知らずにやらかしたんだ。


 螺旋に訊ねる機会はあったのにな。訊かないで流してた。今の、俺の前の螺旋しか見てなかったんだ。



 俺の体の中に残った小骨みたいな(わだかま)りを無くしたくて、焦っていたのかな。

 蛇の目傘を元通りにできれば、と浅はかに始めた再現作業も思うように進まず、やってしまった失敗が取り返しのつかないことだったとハッキリくっきり分からされる結果になった。全力で取り組んでいた分、バッキバキにヘコまされていった。


 螺旋は、いつも通りに見える。だけど、なんか少し、(しお)れて見える。


 傘、だよな。






 ある日、螺旋に花見に誘われた。いや、花見じゃなくて『どんぐりの発芽を祝う会』だったけど。


 『友達』と一緒だと聞いていたから、そりゃヨウコさんのことだな、と頭に浮かんだ。


 この時俺は、無知なことをまた思い知らされた。


 螺旋は座敷童子で、俺が生まれるずっとずっと前から生きているってことは、知り合いがヨウコさんだけなはずがないってことだ。それに思い至ってなかった。


 俺は、俺が一番螺旋のことを知っているつもりだった。螺旋はうちの座敷童子だし、家族みたいに暮らしていたから。


 俺に螺旋が知らない、学校や近所のおっさんたちとの関わり合いがあるように、螺旋にも、俺の知らない外の世界があるはずだ。蛇の目傘を大事に思うような過去があるように。


 だから、三人と二匹とで食事をしているときに現れた存在に驚いた。二十人ほどの妖怪だが、ほとんどが園児の姿だった。あとは小学生くらいの男と、俺と同じくらいの男だ。


 みんな螺旋と親しげに言葉を交わしていた。中でも『わかむう』と螺旋が呼ぶ男は、昔からの知り合いだと言う。


 俺はそいつらのことを少しも知らないし、螺旋がその人と話す内容が、ちっとも分からない。


 そんなことあって当たり前なのに、俺は、頭を殴られたようなショックを受けていた。


 『俺の知らない螺旋がいる』ということ。『螺旋が俺に話していないことがたくさんある』ということ。両方に気づいてしまったんだ。


 俺は、今まで螺旋にあれこれ指図したことなんてない。一日の出来事を根掘り葉掘り聞くこともない。見てて危ないと思うことは注意するし、螺旋が話したいことは聞くけど。

 だけど、胸にたまった僅かなモヤモヤしたものを、その時つい言葉にしてしまった。


「報告連絡相談!ほう、れん、そう!」


 そんなこと、螺旋は望んでないし、俺もさせたいわけじゃないのに。そんな義務みたいに、強制したいんじゃないんだ。思うようにできない自分にイライラする。





 それから、土日とか平日の夕方とか、時間のあるときは螺旋と行動するようにした。少しでもあいつのことがわかれば、と思って。螺旋は初め「珍しいね?」と目を丸くしていたけど、やりたいようにさせてくれた。まあ、ホントに普通に散歩だったし。


 大概螺旋は行きたいところに気の向くまま歩き回っている。誰も螺旋が見えていないはずだが、時たま見えている人や動物がいるみたいだ。

 俺がご近所や商店街で知り合いと立ち話するように、螺旋も時おり立ち止まる。視線に止まるのは老人だったり子供だったり猫だったり、鳥、虫なんかも。稀にお互いに話し掛けたいような素振りもある。


 その度、俺をチラッとみてまた歩き始めるんだ。


 何だ? 俺が見てたら駄目なことか?


 また俺はイライラする。螺旋のことを知りたいと思って勝手についていって、隠し事されてイラつくとか。俺は何がしたいんだ?

 

 




 ゴールデンウィーク前、螺旋に連休の過ごし方を訊かれた。いつも通り母さんと引きこもるかな、と考えていたら、ウキウキする螺旋が目に入った。


 楽しそうだな、と。

 純粋に、ただ、楽しそうだから一緒に行きたいなと思ったんだ。


 なのに、いつもは「ほいほい、○時出発ね!」て言うのに、びっくり仰天な顔して「だめ、だめーっ!」て断られたもんだから、俺もムキになった。いつもいい癖に何だ、とか楽しみは分け合うべきた、とかアホなことを言って頑なについて行くと言い張った。


 ・・・正直後悔している。

 俺は学習能力がないのかと。


 無知はイカンのだとあれだけ反省したのに、俺は。


 螺旋は一言も『散歩に行く』だなんて言わなかったのに、俺は『いつもの散歩』だと思い込んでいた。





 端午の節句早朝、玄関を出た俺の目の前を、うにょうにょにょろにょろと、大量のカラフルな『何か』が覆い尽くしていた。


 そりゃ、ダメっていうはずだわ、こりゃ。


 血の気が引きながらもごくりと喉をならして、覚悟を決めた。散々無理を言った手前、「やっぱお家に引きこもります」とは言えなかった。






 そして、商店街の公園で今に至る。


 『わかむう』さんは、ガチで若武者だった。俺の隣にいて、朱い鎧兜で、刀を顔横に立てて目を閉じ精神統一している。


 か、刀とか。若武者の刀とか、マジもんにアレじゃないか。用途がソレしかねぇよな。んで、実戦経験済みなんだよな・・・?


 赤濡れの刀身を思い浮かべて、俺の背中がぞくりと粟立つ。


 螺旋はさっさと俺を置いて走り去った。ヨウコさんは、『わかむう』さんの代わりに他の『妖怪の代表』と連絡を取り合ったり、公園に残っている『組合員』に指示を出したりしている。


 一体何が始まるんだ?


 普段は見ないぬるぬる飛んでいる『虫』も皆が何をするのかも、見ていれば分かると言われた。皆は落ち着きがない割に、怖がっている奴はいない。まるでお祭り前のような雰囲気だ。螺旋はしきりに俺を心配していたけど、この様子じゃ危ないことはないんだろう。


 また俺は、刀を見ないように『わかむう』さんに視線を戻す。背丈は俺と同じくらい。だけど、顔立ちはひどく大人びていて、喋りも落ち着きがある。人となりはおおらかで、ちょっと見てればわかるくらい判断力も決断力もある、頼もしい人だ。目線が同じな分、俺との違いを見つけやすかった。


 螺旋の『古い知り合い』。


 俺の十年満たない付き合いとは違う、長い年月。どれくらい長いのかすら、俺は知らない。ヨウコさんには感じなかった焦燥が体を渦巻く。こんなモヤモヤなくなればいいのに。


 何かあったら頼れと、螺旋は言っていた。螺旋の信頼を得てるってことだ。



 俺は、螺旋に頼られる存在か?



 はあ、とため息をついたとき、『わかむう』さんの目蓋(まぶた)が開いた。


「時間だ、合図をうつ」


 ちらりと寄越された視線は、よく見ておけと語っていた。彼は微かに口を緩ませて真顔に戻る。


 バチッバチバチバチバチッ


 朱い放電が『わかむう』さんを包む。電圧で何か焦げたような臭いがする。


 ドンッ!


 地面が揺れた。大量の朱い(ほとばし)りは刀を伝い、上へのぼる。朱い華が咲いた。いや、朱い樹? 見事な稲光が空に走っている。俺の周囲に張られたこまろの結界がビリビリ震える。俺はそれが消えるまでの数秒、呆然と見ていた。


 公園には祝日だからか、朝から少なくない人が来ている。ここはアスレチックもあるし、芝生や池や草木豊かな散歩道など楽しめる場所が多いから。だけど、今の打ち上がった朱い雷に反応する人はいない。ああ、見えても聞こえてもいないんだな、と改めて自分の体質の異質さを感じた。



 行き交う人々を見ていたら、『わかむう』さんが話し掛けてきた。始まってしまえばしばらく手が空くそうだ。


 何が始まったんだ?公園内にいた妖怪と『組合員』が足早に移動していく。何だか『虫』は逆に流れるように蠢いていくような。


「どうして虫がいるのか、見ているといい。ほら、あの家族」


 『わかむう』さんは、一組の家族を指差す。父親、母親、子供の三人。いたって普通な・・・、普通なら、普通な家族。


 けどーーー俺には、子供が『虫』に覆われて見えた。







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